4ch\東国の謎…。
―【陰陽寮内の占星台前にて】
「鍵になる言葉は、『栗の木』『神がかり』『東国』など、これらが挙げられる――」
「結論づけるのは、まだ早いが…、誰かが東国の仕業に仕向けた」
「桓武天皇様も東国討伐に、力を入れてる理由は何か…」
「どうしたの? キノと…」
「何でそんなに熱くなってるの?」
「そうだよ――。 変だわ」
「都は、良くなってるじゃん」
「うるせぇ」
「姉様から、東国からの連絡や情報等何も無い…」
「娘のみずのゑちゃんも、そう、長くは、無いだろう……」
「うっ、うう…」
「何故、お稚児の年を過ぎても鉾に乗せ続けるんだ!」
「そら、都の災害やコレラも、町の水も空も綺麗になったが…」
「自分の国だけが、綺麗になればいいのか?」
「平安とは、何ぞ――」
「キノと……」
「うっ――、ううっ――。 う――」「ひっ…、ひっひっ――、うっ」
「ここだけ平らで安らぐ場所でえ――のか? 自分らだけ良かったらえ――のか?」
「落ち着いて…、 キノと」
「ボクにもっと力があれば」「お姉様みたいな…、力が――」
「あれば」
「あれば……」
「あっ――。 胸の内が苦しい…」
―【大晦日の陰陽寮の裏庭】―
「は――っ…、は――っ」
「どうしたの? キノと……」
「いゃ…、 僕の煩悩がいっぱい口から出ていく様に…」
「お願いいたします…」
「ひと――っ……。 二――っ……」
「もう…、 何も戻って来ない――」
「きのゑ姉様や」
「壬(みずのゑ)や、癸(ミズノと)も……」
「は――っ」
「元気出して…、 キノと」
「うん……」
「そろそろ、始まるよ」
「うっ、うん」
――ゴ――ン…… ゴ――ン……―
――ゴ――ン…… ゴ――ン……
――「ゴ――ン…… ゴ――ン……―
――ゴ――ン…… ゴ――ン……―
「ひと――っ……。 また、ひと――っ……」
「何回なんの?」「ひのゑ」
「私たちが持っている力の六根で⑥…。 で、六根で生じた感覚が③の悪・平・好」
「感覚の②……。 浄(きれい)・染(きたない)」
「あと――。 三世の③。 前世・今世・来世」
「ほい」
「を……乗算するの」
「えっ!」「乗算?」
「無理」「……」
「数えた方が早くね?」
――ポリポリ、ポリポリ――
「あ――っ、頭いて…、 あ――っ苦しい」
「その『様』もよ、ヒントは、その様」
「あ――」
「四苦八苦した。 俺の事言っている?」
「うん。 四苦は、かけると?」
「三十六」
「じゃ――、八苦は?」
「七十四……」
「二ね」「足したら?」
「解かんねぇ」
「百っ八よ――」
「除夜の鐘の数と一緒やん!」
「そうよ。 だから、同じ数だけ煩悩があるのよ」
「スゲ…、ひのゑ」「キノとも除夜の鐘で、徐日(じょじつ)して貰いなさい」
「何? ジョジツって」
「古いモノから、新しいモノに変わる事よ」
「へぇ――」「俺も毎日、鐘を鳴らして煩悩を取って貰いたいな」
「あの鐘の事を梵鐘って言うのね。 梵鐘(ぼんしょう)」
「煩悩を取るから、煩鐘やろ」
「字が違うけど、合って無くもないわね」
「俺、天才かも―。 あ――、あの鐘を鳴らして――」
「そうだ! 鐘を鳴らすには、小づちが必要だな!」
「橦木ね。 橦木(しゅもく)」
「あ――ぁ。 そうそう」
「あの赤牛のおっちゃんにお願いして見よっかな?」
「キノと? 花園に日本で一番古い、梵鐘があるって聞いたことあるわよ」
「どこだょ。 どこ――」「鳴らしに行く――」
「確か……、妙ぅ…妙心寺 、そう! 妙心寺!!」
「行く、行って―、栗の木の橦木で…、梵鐘を鳴らせば、皆の煩悩が消えるはず」
「そんな、単純な事じゃないと思うんだけど……」
「世の中、単純! 単純!!」
「もう!」
―【岩手県胆沢城の造営中にて】
――パカっパカっパカっ――
――パカっパカっパカっ――
「頼もう――」「頼もう」
「我らは、降伏する事にした」
「我らには、もっと守るべきモノがある」
「これ以上の戦いは、無益だ」
「その女は?」
「……」
「ご無沙汰しております。 坂上田村麻呂様…」
「陰陽寮○殺担当のきのゑか?」
「はい」
「何故、この様な事に…」
「……」
「申し上げるつもりは、一切ありません――」
「答え様には、アテルイと一緒に助かる術は、あるが…」
「京へと帰る事も出来る。 そして、息子だけにも会う事が出来るぞ――」
「全てを話せ…」
「……」
「母禮(モレ)の東山にある秘密のありかを――」
夷(えびす)との戦いは、都が平城京(奈良)にあった七七四年頃から長岡京(京都)に移った後も、八一一年まで三八年間にも及ぶ。「何の為に戦うのか」「何の為に生きているのか」、朝廷側との差は、歴然であった。夷(えびす)側には、土地を守り家族を守る。この決定的な差が戦いを長引かせた。後は、軍師による者だと言われている。決して真正面からは、戦わず朝廷軍を細長くさせ前後左右で挟み撃つ。何度も言うが、その土地を守る、同胞を守る、この差が戦いを大きく左右したと云われている――。
―【京都鋸山】
「これより――。 指導者アテルイ! 軍師モレを賊徒とする――」
「よって…」「今かぁら…」
「チョイチョイ――」
「甘い! 甘い!」
「はい! 日良呂様!!」
「首から下を鎚に埋めるのじゃよ」「そうしたら、まだしゃべれるやろ?」
「……」
「聞きたいことが、いっぱいあるじゃろ」
「ノコノコと帰って来よって――」
「最後に言いたいことは、無いのか?」「ん?」
「……」
「――」
「ひら―め―いた――。 ノコギリにしよ――。 しょ――、処する」
「フフフっ」
「――」
「――」
――始めっっっっ――
『アテルイ…、 すまなかったね』
「いいゃ……」
『モレ? あの矢は、栗の木で出来ていたね』
『何かの意味があるんだろうか?』
「……」
「それには…、ね……。意味があるの…、アテルイ」
『何?』
「あの世で話すわ」
『ふっふっ…、分かったよ』
「また、いつか…、私たちが、再び結び付きますように」
桓武天皇から征夷大将軍を任命された坂上田村麻呂は、異民族と見なされた『東国』を見事に討伐させた。その時に使われた刀剣は、黒石に似て黒漆剣と呼ばれた。そして、八百一年、東国を討伐させたのは軍事力でも無く、交渉によるものだった。田村麻呂は、指導者のアテルとモレに対して、「五百余人を説得して降服せよ、そうすれば二人の命を助ける」というものだった。そして二人は、京に連行され田村麻呂は、助命を懇願し二人を故郷に返すのが得策だと主張するが、京の貴族たちは大反対し、二人を処刑してしまうのである。
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