2ch\田舎の勇者の謎…。

―【陸奥国胆沢、現在の岩手県奥州市】



「あなたがアテルイ? 探したわよ」

「オレの事か?」

「私は、都からの遣いの者…」

「何しにきた! 笑わせんな――」

「こっちへ来い!」

「止めなさい! あなた――っ」

「きのゑ様に何をする!」

「おいっ! 止めないかっ――」


―ボコボコッ――

ガンッ――

「ヒッ、ヒノと――」

…グタッ…


「良く聞きなさいっ! この矢は、あなたの国の物?」

「何だそれは……。 オレは、 田舎の勇者…、 アテルイ」

「自分の事を田舎とは、大層、控え目に言いよるな」

「千人もの朝廷軍を殺しよって、大袈裟にも程があるぞ!」


「――」

―パカッパカッ―

―パカッパカッ――


「おい! どこへ行くっ」

「まぁ…良い。 少し皆で考えよう」


消えた都市が築かれた場所は、桂川と宇治川と木曽川が合流する巨椋池のほとり。南側にはもともと都があった奈良盆地で、安全が確保された地帯である。また、北から東にかけては丹波山地と比良山地があり、消えた「長岡京」は、もともと守りが堅い地形だった。しかし、北東の方角に一箇所だけ東国と筒抜けになっている場所があり、そこは逢坂峠(おうさかとうげ)と呼ばれていた。


また、逢坂峠を監視するために、逢坂峠の隣にそびえる比叡山に延暦寺を建て、桓武天皇は僧侶たちに監視させる。ある敵を監視するため、武力と道場を備えた延暦寺は、強力な力持つようになり始める。そして、兄の桓武天皇がもっとも恐れた存在は、天皇に「祀(まつ)ろわぬ者たち」。まだ、近畿の東側は、まだ朝廷の支配が完全に及んでいなかった。では、その天皇に従わない人たちを朝廷の人々は、彼らを夷(えびす)と呼んだ。


そんな野蛮が攻め込んでくるか分からない恐怖に怯えていたのだ。何故なら、彼らは、「身を文けて」入れ墨をしており、男は、蝦色の髭をたくわえる。それは弓人(ユミシ)と呼ばれる程、弓術に優れていた。その中でも夷(えびす)には、もっととてつもない「ある者」の存在。辺境で戦った勇敢な戦士その名は、「アテルイ」。兄の桓武天皇は、夷(えびす)の侵入口になるであろう逢坂峠を「表鬼門」と呼び、消えた都市「長岡京」からは、ちょうど北東に位置していた。


【一羽の燕が上空を彷徨う】


―ピ――っ――ピチュ・ピチュ――

―ジ――





―【陰陽寮の裏庭】




「早良親王様は、あの世でまだ怒ってらっしゃるのかな…」

「真夏に祇園祭をやるから、死んで行く人が増えるだけだょ」

「あ――。 喉渇いた」

「ひのゑは、解る? 夏にお祭りする訳」

「真夏に祭るのは、台風などの「風除け」や「虫送り」の意味合いがあるんじゃない?」

「? 虫を送るとは?」

「も――、いいわ」

「みんな――」

「姉様からの報告では、先の衣川で朝廷軍の損害は死者二十五人」

「負傷者二百四十五人、溺死者千三十六人だってさ」

「まだ見つからないのかな――。 アテルイ?」

「宛が無いから、アテルイって名前かもよ」

「しょーもな――。 それじゃ…、アテナイでしょ…」

「何でも、名前の前に大墓公って付くらしいよ――」

「おおはかのきみって、絶対、恐い奴らじゃん――。 周りの奴も…」

「他にも――、体毛が多くて、海老見たいな髭をしていて、入れ墨があるらしいわよ」

「恐いって――。 ひのゑ、もう止めてくれよ。 その話…」


「あっ」


「陰陽師たちだ――、隠れろッ」


「祇園祭を開催しても、疫病や災害がおさまりませんの――」


――ヒソヒソ・ヒソヒソ――


「卜部日良呂様が遂に、あの子を乗せるそうじゃ…」

「あ――、あの半神半人をですかの」

「何でも、特殊な能力の持ち主だそうだ…」

「陰陽寮から、あんな子が生まれてきたら、そら…、そうなるわな」


「桑原々々」

「怨み霊が出てきやせんかの」「いざとなったら、あの時の様に撃ち射るか?」


「!?」


「ハンシンハンジン?」

「しっ!」

「ひのゑ――。 このままで、聞いて欲しいんだけど、例の弓矢は…」

「栗の木で出来ていたんだ。 そして、特殊な加工もその矢にされていた」

「これから……」

「うん?」

「つちのゑ、ツチノとも連れて、ある八幡宮に行こうと思う」


陰陽寮に住む子供たちは、五行の思想が融合した。木・火・土・金・水の五行にそれぞれ陰陽を二つずつ配し、甲(きのえ)・乙(きのと)・丙(ひのえ)・丁(ひのと)・戊(つちのえ)・己(つちのと)・庚(かのえ)・辛(かのと)・壬(みずのえ)・癸(みずのと)と呼ばれるものに成ったと言う。叉、陰陽は、陽であれば「ゑ」。陰であれば「と」と語尾につけられた。




―【ある天満宮】




その境内は少し小高い所にあり、鳥居をくぐれば石段の階段が見えた。


「周りが森に囲まれて、外からは何にもみえないね…」

「人気も全くない所だ…」

「キノと――、ここに何があるって言うの?」


「ちょっと黙って」


「境内もそんなに広くもない。 でも、この巨大な樹木で全く明かりがささないな」

「恐いょ。 キノと、帰ろ…」

「つちのゑ――、ちょっとさ、ツチノとを黙らせてよ」


「ふ――っ」


「もうちょっと、石段を登ってみるか――」


――トコトコ、トコトコ――


「おいっ、本殿が見えて来たぞ――」

――ジロジロ、ジロジロ――


「小栗栖八幡宮?」

「祭神はと…、見えにくいな――」

「おうじん? 応神天皇…」

「応神天皇と言えば、神巧皇后の御子で実在した神じゃないか…」

「えっ!」

「知っているのか? ツチノと――」

「知っているいも何も…、その隣に書いてあるのは、仲哀天皇。これは、神話上の人物」

「最後は……」

「!!」

「神…巧こう――、神巧皇后」

「?」「誰?」

「卑弥呼じゃないかって言われている人」

「えっ――」

「ヤバっ」「ヤバい――、も――」

「帰ろっ、帰ろ」

「ツチノと、他にも解ることあんの?」

「関係無いかも知れないが、小栗栖って地名や人物は極めて少ない」

「古代の山城国に小栗郷と言う地名があって」

「そこから呼久留須(おぐるす)って引き継がれてるんじゃないかな…」

「卑弥呼の『呼』も入ってんじゃん――。 ツチノと…」

「それは、僕にはわからない」

「なんじゃい――、そりゃ」

「あと――。 小栗栖ってのは、どこの国を探しても京都しかホボホボいない……」

「それは、え――わ」

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