第38話
現在活動中のメンバー全員での曲を三つほど披露して、満員の客席は大盛り上がりだ。やっぱり養成所で習ったようなキレキレのダンスをしている人達はいない。どこかに
その後もMCやら、なにやらを挟みつつ何人かずつの曲を披露して、終盤までつづがなく進んでいった。私もそこそこに出番があったはずなのだけれど――残念というか当然なのだが、出番が減らされていた。悲しいよ、
ただし、千歳さんにはもっと大きなわがままを聞いてもらっていた。
「あれー? 突然なんですけど、なんだかサプライズがあるみたいでーすっ! これ、わたし達も聞かされてませーんっ」
メインで司会をやっている
なんだなんだと盛り上がるファン達に、ステージの演出もなんだか派手なものが始まった。
陽茉莉さんの言ったことは本当で、私以外の恒星ウェスタリスメンバーは何も知らされていないはずだった。千歳さんが「どうせサプライズするなら全員にしようか」と急遽言い出したのだ。
「みんなーっ!! お久しぶりでーっすっ!! ご心配かけてっ、本っ当――――にっごめんなさいっ!!
悠月のサプライズ復帰である。
もともと登場予定のなかった悠月が急遽ステージに上がり、ファン達からは今まで以上の大声援が巻き起こった。悠月のファンは今日、悠月が出るって知らなかったから、ほとんど来ていないだろうし、あとで出たら怒るんじゃないだろうか。まあ、千歳さんが悠月のファンクラブ向けにもいろいろ企画を連発するって息巻いていたから、そっちで怒りを冷ましてもらおう。
それに、センターアイドルの悠月からすれば、ウェスタリスのファンは全員悠月のファンみたいなところがある。
私もステージの端で、驚くメンバー達と一緒に拍手して、悠月のトークを聞く。休止していたとは思えないほど声量が出ていて、動きの切れも全く落ちていない。さすが養成所の主席だ。多分養成所のみんなも鼻が高いよ。
「みんなすっごい声援でお迎えしてくれてありがとーっ!! ただし、お知らせはもう一つあるよーっ!!」
もう一つ? これについては私も聞いていなかった。
なんだろう、変なことを言わないか心配になってくるが、悠月を信じよう。さすがにステージ上でふざけないよね?
「わたし休止中に元気をためこみすぎちゃったで、ただメンバーとして復活するだけじゃないんですっ!! メンバーのみんなをもっと応援するサポートポジションとしても今まで以上に頑張っていこうと思って、プロデューサーのちーさんと相談した結果恒星ウェスタリスの初代スペシャルアドバイザーとして任命されましたーっ!! やったーっ」
え、なんだって?
よくわからないけど、休止していたとはいえ一番人気のセンターアイドルである悠月だ。その人気者が他のメンバー達を指導してくれるということなんだろう。
まあ、いいんじゃないかな。養成所での活躍ぶりも見ていたし、案外人にものを教えるのも得意そうだった。
「ちなみにですがっ、スペシャルアドバイザーの悠月さんがこれからとっくにピックアップしていくメンバーはっ!!」
流れがよくないな。けれど、ステージから逃げるわけにもいかない。
ぱーんとスポットライトが私へ向けられて。
「はーいっ、とっても可愛い
嫌な予感がばっちり当たって、悠月が私をピックアップメンバーに選んできた。私は今まで散々悠月に教わってきたから他の人でもいいのに。いや、一番人気的に問題あるのは私なんだけどさ。
「うんうん、なるほど。誰も知らないと」
悠月が大げさに頷いて、観客達も笑う。よかった、冗談としては成立しているらしい。本当に誰も知らなかったらここで笑いすら起きないからな。そしたらいじめだよ、悠月。私はそういうの断固として戦うからね?
「ほら、継ちゃんこっち来てっ!」
「えっ……あーはい、行きます」
ぴょんぴょんと跳ねる悠月に呼ばれて、ステージの中央へ移動する。他のメンバー達の視線が痛いし、お客さん達のみんなからもすごく見られている。
「そんなわけでっ! 復帰した私っ悠月と、その悠月スペシャルアドバイザーが激推しする継ちゃんのことをこれっからもよろしくねーっ!!」
悠月が楽しそうな声を張り上げて、私の腕に絡みついてきた。私も仕方なく苦笑いで、「どもです」って感じに頭を下げておく。
そんなこんなで、一応ライブは無事終了したが、私の心中は決して穏やかではなかった。
許さない、悠月。私にも内緒でいきなりこんなことしてきて。
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