アイドルとファン。
第32話
あれから悠月とは連絡がついていない。
突然家に置いて行かれて、しばらく待っていたけれどそのまま住み着くこともできなかった。鍵をかけてポストにいれたけれど、それが正解だったのかはわからない。ただ多分彼女はあれからあのマンションには帰っていないようだった。
養成所にも顔を出していないようで、剣道女子の
「主席、しばらく休みますって講師のほうに連絡あったみたいで……」
と教えてくれた。
アイドルとして復帰する話も、当然全く進んでいなかった。
悠月が消えたのは、交換条件のことを知ったからだ。
私が彼女を復帰させられれば、アイドルをクビにならないという話。それを知って……知って、どうして消えてしまったのか。
本当のことをずっと隠していたからなのか。それとも私が悠月につきまとっているのは、全部自分がクビにならないためだって思われたのか。
隠していたのは、彼女に私の進退でプレッシャーをかけたくなかったからだし、悠月と仲良くなろうとしたのはクビなりたくなかったからじゃない。
悠月の気持ちがわからなかった。誤解だと思いたい、誤解を解きたい。
彼女の頬へキスすれば、自分の気持ちも彼女の気持ちもわかると思った。
白い頬の感触は思っていたよりもずっと心地よく、一瞬触れてだけで胸の高鳴りを感じた。私は悠月を好きなんだと思った。キスしたあとの、彼女も嬉しいと泣きながら言っていた。――泣きながら? あれ、もしかして私のキスのせいで悠月消えたの?
いや、それは違うと思いたい。千歳さんにも、
「悪い。あたしが交換条件の話したら、
「……私のイメージそれなんですか? そんな泣き落としなんてしないですよ」
ということで、やっぱり交換条件の話が問題なんだと思う。
あとクビの件についても謝られた。
「……お前にやる気を出してもらうには、あれくらいしないと思ってな」
「まぁ、あのおかげで頑張ったのは事実ですけど……」
「まーそうむくれるなって! ちゃんと約束通りアイドルのお前もこのまま面倒見るし、そのあと役者になったあとも全力で応援するから! あたしも役者のプロデュースは初めてだが、全力出すよ」
「えーできたら千歳さんじゃなくて実績ある人がいいです」
とりあえず、私の問題は一段落できたのだけれど、やっぱり悠月のことをどうにかしたい。
「……悠月の復帰、どうなるんです?」
「準備はしてたんだけど、このままだとな……なんせ本人と連絡がつかないわけだから」
「あの、私頑張って悠月をもう一度説得します。だから、ぎりぎりまで復帰できるように準備してもらえませんか?」
「今回はあたしの責任でもあるからな、ま、無理できる範囲ならやっておくよ」
そう千歳さんと約束して、私もできる限り悠月と話せるよう頑張った。
あれから何度も彼女のマンションへ行った。一度もでてくれなかったし、悠月が出入りしている様子もない。メッセージも通話も、何度もしたけれど応答はない。
結局、なすすべもなく横浜ライブの当日になってしまった。
ライブ当日の朝、まだ開演までは時間があるけれど私は横浜に来ていた。懐かしの場所だ。そういえば、悠月の地元も横浜だったっけ。
「え? そうだよっ!! マンションに帰ってないとしたらっ!!」
バカだ。なんで今まで気づかなかったのか。私は慌てて千歳さんに連絡した。
「悠月の実家っ! 電話番号と住所教えてくださいっ!!」
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