第27話
見なかったことにして、忘れよう。私はそう決めて、
私に似ているという煽り文句の女性が出している作品だ。少しだけ興味がある。もちろん、そういう興味ではない。だって映画って割とそういうアダルトな映像シーンを撮っている作品もあるし、あくまで芸術としての側面だけど見慣れてはいるっていうか。全然、知識とかは問題なくあるし。
ただ映画だとあっても数分だ。これはアダルトそのものが一つの作品なのだから――そもそも何分くらいあるんだ?
私は恐る恐るパッケージを裏返すと、そこには乱れた女性の写真が何枚も載っていた。『清純派本格美少女が絶頂っ!!』とか書いてある。……すごいな。デザイン的な話をすると、普通に映画のDVDなんかと似ていて、ちゃんと下の方に販売元やら規格の説明と『本編157min』と収録時間も書かれていた。
「ひゃっ、百五十七分……っ!?」
どういうことだ。百五十七分って百五十七分のことなのか。どう考えても長すぎる。映画だと数分で終わる内容がそんなに長く撮られているのか。そりゃ映画だと、カットや別映像の差し込みなんかで短くしているんだろうけど。それにしても長すぎる。こんなにいったい何が映っているんだ、このDVDには。
パッケージ裏の写真をよく見ると、青原繋さんと絡んでいる男性達にもバリエーションがあるようだった。彼女一人の写真もある。なるほど、演出を変えて、いくつかのシーンを撮影しているわけか。それにしても写真を見る限り、そういうシーンしかないようだ。もっとないのか、出会いとか別れとか。ハリウッドの脚本技術を学んだほうがいいぞ、いかに観客を興奮させる演出だってそれだけだと退屈させてしまうはずだ。
ただまあ、実際中を見たらそういうシーンは極わずかで、あとはメイキングとか監督のインタビューなんてこともあるだろうしな。いや、ないか本編って書いてあるし。おまけ映像の時間はちゃんと別に書かないと怒られるんだよ、確か。
私はおもむろに、DVDケースを開いた。ここに知的好奇心以上の言い訳はなかった。
「あれ、これ……」
中にはDVDディスクが一枚入っていて、それから。
「私の写真だ」
私の写真が数枚、一緒に入っていた。どういうことなんだ。アダルトな映像作品と一緒に保管されている私の写真。しかもその出演女優は私に似ているという売り文句まで掲げられている女性だ。
「…………」
一旦、DVDを閉じた。もう一度開いて、やっぱり私の写真が入っている。偶然紛れただけの可能性もある。このDVDだって、なにかの冗談というかノリみたいな気持ちで悠月は集めているのかもしれない。
だからこれらに深い意味はなくて、私が変に邪推するのは失礼なことなんじゃないだろうか。
「いや、でもこれ絶対……だって……」
仮定の話だ。悠月は私そっくりのセクシー女優がでる映像作品を見ているとする。しかも私の写真と一緒に。
「……ファンって、普通そういうこともするのかな?」
わからない。ファンの気持ちが少しずつわかってきたと思っていたのに、ここに来て全くわからない。
どうしよう。そろそろ悠月がシャワーから出てくるんじゃないだろうか。私はそう思ってスマホで時間を確認すると、何件かメッセージが届いていたことに気づく。
佐倉さんからと、それもソララと
ソララからはたわいもない雑談が送られてきていたのだが、私はそれに「今って通話できたりする?」と返した。するとそのままソララから通話がかかってくる。
「どったのアカネん?」
「あ、ごめんね。夜中に」
「いーよ全然。あたしも暇だったからアカネんにメッセ送ってたし」
ソララの声を聞いて、少し気持ちが落ち着いた。
私は状況を頭の中で整理しつつ、
「あのさ、友達の話なんだけど」
「はいはい。友達の話で?」
「……友達、けっこう有名人で、そっくりなセクシー女優さんとがいてね」
「ちょっアカネん、夜中だからってすごい話題出すねっ!? それで?」
確かによく考えるといきなりセクシー女優の話題は驚くだろう。ただいつ悠月が出てくるかわからない。
「えっと、その友達がえっと、また別の友達の家に泊まったらさ。そのセクシー女優さんの作品があって」
「友達の友達の家にそのエッチなDVDがあったってこと? それで友達がそれを見つけた?」
「そうそう! しかもね、そのDVDに……友達の写真が一緒に入ってて」
「ぬぬぬっ!? そっくりな女優さんのエッチなDVDと一緒に自分の写真が保管されているのを見つけたってこと!? アカネんが!?」
「いやいやっ!! 私じゃなくてっ!!」
どうして急に私の話へ変わったのか。おかしい、友達の話なのに。
「だから友達の話で……」
「アカネん、それね、アカネん超超百パーセント間違いなくエロい目で見られてるよ。ってか、通話したいってこの時間に言ったってことは、これってもしかして今の話なの!?」
「ち、違うよ。友達に数年前聞いた話しで……」
「それをこんな時間に相談したとしたら怖いって!! いーや、今のアカネんの状況も同じくらい怖いけどっ!!」
ダメだ、完全に私本人の話と確定されている。ただまあ、相手が悠月と知られなければ大丈夫だろうか。
「アカネんは、今その人の家なんだよね? ……その、そういう気があるから、家に遊び行ったの?」
「いや、えっと……終電なくて」
「……あのね、悪いこと言わないからアカネん。もしその人からそういうことされたら嫌だって、ちょっとでも思う相手だったら今すぐ逃げて。絶対。タクシー代とかケチらないで、速攻で家へ逃げ帰るんだよ」
ソララの真剣そのものな声が、私をはらつかせた。
「で、でもね、そういうことしてくるような相手ではなくて」
「いんや、アカネん。もうね、百パーセント黒だから。家連れ込んだ時点でもう絶対向こうはやる気だよ。今もきっとお風呂場で体でも念入りに洗ってるんじゃない?」
「そ、そんなわけないって!」
「継ちゃん、お願い信じて。あたしはアカネんのことが心配で言ってるからね? ……アカネんがその気なくても襲われるかもなんだよ?」
襲われる? 悠月に、私が?
確かに悠月は私のことが好きだと言っている。でもそれはファンとしての好意だ。最近少しは友人としての好意も見せてくれているように感じるが、それにしても襲われるなんてことは想像もできない。だけど、ソララの言っていることがもし本当なら。
「ソララさん、私どうしたら……」
「アカネん。その人のこと、好きじゃなかったら逃げて。ね? 約束だよ?」
「う、うん。わかった。……ごめんね、急に変なこと話して、ソララさんがいてくれて助かったよ。ありがとう」
ソララに話してはいけないことまで、話してしまった気がする。でも本当に話を聞いてくれてよかった。万が一にもということは、確かにある。
「お礼にあだ名で呼んでほしいなーアカネん」
「え? ……ソラ吉?」
「なーっ、それ定着しちゃうのかーでもまっアカネんにそうやって呼ばれるのはアリかも。じゃ、おやすみ」
と通話が切られた。
私は逃げるべきなんだろうか。
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