第26話
日付をまたいで直ぐの深夜の駅。途方に暮れていた私に、悠月が声をかけてくれる。
「
「……終電過ぎてたみたいで」
もちろんみんなとの別れも涙ものではあったんだけれど、私もそろそろ二十歳なのでそれくらいで泣かないのである。
「嘘っ、じゃあ継ちゃん帰れないじゃんっ!! どうするの!?」
「どうしよ、行けるとこまで電車で乗って、あとはタクシーかな? ……うーん、けっこうお金かかるし、漫画喫茶とかに泊まってもいいんだけど」
「だ、ダメだよ!! 女の子が一人で寝泊まりする場所じゃないって!!」
「えっ、やっぱそうなのかなぁ。でも今からちゃんと泊まれるホテル探すのも……」
適当にいかがわしいホテルに泊まるという手もある。ただ私は人気がなくてもアイドルだし、万が一にも写真でも撮られると――どうなんだろう。一人で出入りしている写真でも問題になるんだろうか?
「それならわたしの家来なよっ! すぐ近くだよっ!」
ありがたい申し出だったけれど、悠月が私を躊躇なく家に泊めるだろうか。しかし赤ら顔の悠月は「来なよー来なよ-」と私の肩をつかんでゆすってくる。
「あーそっか、悠月お酒飲んでたしそれで……悠月こそ、そんな弱いなら女の子一人で帰らなきゃ行けないときは飲んじゃだめだよ」
彼女を家まで安全に送り届けるという大義名分も手に入れた。私はありがたく彼女の家へ泊めてもらうことにする。
酔いが覚めて推しを泊めるなんて! って騒がれるかも知れないけれど、悠月が誘ってきたことだしいいだろう。これに懲りて、お酒はなるべく控えてもらったほうがいいとも思う。
いつもよりさらにテンションの高い悠月から、なんとか住所を聞いて彼女の家へと向かった。本当に直ぐ近くだ。事務所からも近いし、けっこういい場所だと思う。ただ家賃もそれなりにしそうだから、人気アイドルの彼女だからこそ住める気がした。
「ふぇへへ、家に来るって、そーゆーことだからね継ちゃん。今日は寝かさないよ」
「えー徹夜で映画観るの? んー私はいいんだけど、アイドルとして肌とかが心配にならない?」
彼女の部屋は、最上階の角部屋だった。本当にいい部屋住んでいるな。
「継ちゃんどーぞー」
「ありがとう。本当に助かったよ悠月」
とりあえず悠月は、そのままシャワーを浴びてきてもらうことにした。少しは酔いを覚ましてもらったほうがいいだろう。浴室まで連れて行くと、勝手に服を脱ぎ始めたので多分大丈夫そうだと判断しておいていく。
私は勝手にリビングの端っこへ腰を下ろした。洒落たラグマットが敷かれていて、全体的に女子って感じの部屋だった。いかにも悠月っぽい。
あんまりじろじろ見るのも悪いかと思ったけれど、つい目が行った先に私のグッズや写真が飾られていた。残念なのことに私のグッズというのは極わずかにしか存在していないため、悠月が集めてくれた私のコレクションはこぢんまりとした一角に収まっている。
「わっ、懐かしい。これって私がデビューして直ぐのときのキーホルダーだよね。え? このアニメキャラのフィギュアはなに? 関係ないよね……ただの悠月の趣味? あっ」
ついついテンションが上がって、独り言を口にしていると、手に取った女の子フィギュアがなんなのかわかった。私がイベントでコスプレしたキャラだ。このコスプレをしたときの写真がもとで、私が世界一の魅力的な女性に選ばれたんだよな。少し感慨深いけど、そのキャラのフィギュアまで集めている悠月は少し怖い。
グッズが少なすぎるからかな。それであんまり関係ない物まで集めているとしたら、なんだか申し訳ない。
他にもいろいろ見ていると、一見私に関係なさそうだけれど、何らかの関連性があるグッズを見つける。まるでクイズみたいで楽しくなってきて、ついついもっとないかと、グッズが並んでいた場所の下にある棚まで開けてしまった。
そこで私は、どんでもないものを見つけてしまう。
「えっ、これって……」
パッケージにデカデカと書かれた『アイドル○原継激似!!』の文字、水着姿で色っぽい表情を浮かべた女性。
――
手に取ったのは私もパッケージだけ見たことのあるデビュー作品で、奥には他にも彼女が出演している作品の数々が隠れていた。
「……え、どういうことなの、悠月?」
もしかしてこれも、私に関連のあるグッズとして集めているんだろうか。違うよ、これは違う。なんの関連もないし、アイドルの部屋にあっていいものじゃないって。
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