第23話

 ファンミーティングが終わって直ぐに、私は例のバズった写真についた反応を確かめようとSNSを開いた。

 そしたらその前に、


「え、嘘……」


 フォロワーがもう直ぐ二万人を越えそうなことに気づく。すごい勢いで増えている。

 私が戸惑っていると、横で見ていたソララがにまにまと顔を寄せてきた。


「わーやっぱり好評だねっ。思った通り」

「……すごいけど、なんで? え、ソララさんの狙い通りなの!? なにしたのっ、魔法!?」

「むふふっ、簡単な話だよアカネん」


 ソララがあごへ手を当ててしたり顔になる。


「アカネんとツッキーの写真だけど、反応はもちろんツッキーへのが多かったよ。でもね、他にもアカネんが他の人と仲良くしているの初めて見たって驚いている人もたくさんいて」

「ああ、トークでも言ってたあれか」

「ファンの人達からすると、メンバー同士が仲良いのってやっぱ受けいいんだよねー」

「……それは、私も最近学んだ」


 佐倉さくらさんに教わったことだ。ソララを呼んだのも実はそれ狙いだったわけだけど。


「アカネんは絡みが今まで全然なかった分新鮮で反応良かったみたいだねー。あと可愛い系のアカネんと、美人なツッキーのペアも評判いいみたいだし」

「へぇ……」


 なるほど。それでソララは私がメンバーと仲良くなろうとしているって印象づけるトークにしていたのか。


「でもあたしのトークなくても、ばっちり盛り上がってたじゃん。アカネんにあんな隠し芸があったなんて、びっくりだよ」

「隠し芸ってわけじゃないけど……ちょっと最近ね」


 冷静になると、前までの私ならファンの前で絶対に披露しないことだった。受けて本当に良かった。あれで失敗していたら、目も当てられなかっただろう。


「あのさ、ソララさん。もしかして、私がもっといろんなメンバーと写真撮ってあげたら、もっと人気になるのかな?」

「なると思うよー。でもやっぱツッキーとの写真いっぱいあげるのが一番なんじゃないかなー。休止中でツッキーの写真は他から供給ないってのもあるけど、ビジュアル的にも人気的にもやっぱりアカネんとツッキーの組合せは熱いっていうか」

「そ、そうなの?」

「うんうん、方や人気一位の美人アイドル、方や何故か片隅の全力可愛いアイドル。最高の組合せだよねぇー「

「片隅……」


 不人気を気の利いた言い回しにしてくれたのだろうけれど、陰キャからすると余計胸に来る気がした。


「ごめんごめん、落ち込まないでよアカネんっ! それに今日もすっごいファンの人増えてたし、あともう一発、例えばほら……ツッキーとイチャってる写真とかあげたら一気に人気アイドルになれるんじゃない?」

「イチャってる写真って?」

「んー。ほっぺくっつけるとかーなんだったら、ほっぺにチューくらいしてもいいんじゃない?」

「えええぇ!? チュー!? ……そんなんで人気出るの?」


 うんうんと力強くソララが頷く。本当らしい。

 けれど、ほっぺにチューはさすがにできない。悠月だって、いくら私のファンだからってほっぺにチューされたら嫌だろう。私もファンだって言えるくらい好きな役者さんはたくさんいる。でも彼らからほっぺにチューされるのは、ちょっと。あとみんな白黒だしな。



   ◆◇◆◇◆◇



 私のSNSのフォロワーは、ファンミーティングでの感想が広まってその後も徐々に増えていった。二万人をそのまま軽く越えて、もうすぐ三万人だ。それでもまだ他のメンバーと比べると少ないし、私のそっくりを名乗っているセクシー女優の青原繋あおはら つなぐさんにも勝てていない。悔しい。ちょっと伸びてきたこともあって、今まであきらめきっていた感情が対抗心に変わっている。


 ただソララに授けてもらった一発逆転のイチャ写真作戦に手を出すこともできず、養成所の体験入学での講義を黙々と受ける毎日だった。

 毎日のように、新鮮で私の知らないファンの人達の一面を学んで行く。もちろん本当にファンの人達みんながこんなことをしているとも、思っているとも考えられないこともあった。

 特に警備員の代わりを務める講義は絶対に間違っていると思う。よい子はマネしないでくださいとそういうテロップが必要な講義内容だった。あとはジャンケンイベントの必勝テクニックとかあきらかに怪しいものもあった。目が良ければ相手の出す手を先読みできるとか、そんなの無理でしょ。


 しかし、そんな日々も気づけばあっという間に終わり、私の体験入学は今日で最終日だ。


「よかったら打上げしませんか?」


 と最後の講義が終わった後に、佐倉さんから声をかけてもらったのは驚いた。


「打上げって、私ただの体験入学ですし……そんな」

「いいのいいの。かこつけて久しぶりに集まって、わいわいやりたいだけだから。……それとも予定あった?」


 予定はない。ただ私はあんまり大勢での集まりが好きなほうじゃなかった。

 でも佐倉さんや他の養成所の人達とは、なんだかんだけっこう交流していたから最終日と言うことで少しだけ感慨深いのも確かだ。さすがに、私は正式に入学するつもりはないし。


「……えっと、どうしようかな」


 悩みながらが、少し離れたところにいる悠月を見る。

 実を言うと、アイドルとしてわずかながら順調に進んでいる一方で、悠月との距離はむしろ広がっていた。養成所の講義中は、最低限の会話はあるけれど、それ以外の時間は「ごめん」と言われてまともに話すこともできない。

 どう考えてもファンミーティングで、私がいろいろやったせいだろう。

 ソララに授かった秘策どころではない。

 遊園地のときは養成所が終わった後もまた連絡を取り合えると思っていたのに、このままだと音信不通になってしまいそうだ。――私の握手会にはそれでも来てくれるんだろうか。いや、それもわからない。もしかして、私のことを嫌いになって、応援ももうしてくれないかもしれないじゃないか。


 悠月は養成所の人達とは仲がいい。打上げと言うことなら、彼女も参加するんじゃないだろうか。

 そしたら、彼女と話すチャンスもあるはずだ。


「佐倉さん、私みなさんと打上げしたいです。開いてもらえるなら、是非」

「やった。じゃ、みんなにも声かけてくるね」


 幸いにも、悠月は予想通り打上げに参加するようだった。あとは上手いこと彼女と仲直りすれば――。

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