第22話

 正直、ファンミーティングで勝手にこんなことをして、悠月ゆづきに怒られるかもしれない。でもこれはファンの悠月を応援しているわけではなく、アイドルの悠月を応援しているのだ。

 同じアイドル同士、ファンミーティングでちょっとライブ映像を流して応援するくらい問題ないだろう。一応、プロデューサーの千歳ちとせさんとマネージャーの烏山からすやまさんにも許諾はもらっているし。

 というか、ちょっと人が多くて探せていないけど、今日も悠月は来ているんだろうか。

 多分、来ているだろうな。どんな気持ちで見ていてくれたんだろう。


 普段のダンスよりもだいぶハードな動きで疲れた私は、息を整えながら質問コーナーへと移った。ただし前もって、


「みなさんが一番気になっているのは悠月さんのことだと思うんですけど、私も本当に答えられることはほとんどないですっ! そこは、ごめん!」


 と宣言しておいた。

 そのおかげか、それでもなのか。


つぐちゃんは、悠月とはよく遊ぶんですかー?」

 とか。

「悠月は今もウェスタリスのみんなとよく連絡取ってるんですか?」

 などや。

「継ちゃん、自撮りのときいつもちょっとあご出てる気がするんですけど、それ狙ってますか?」

 という悠月の休止理由には直接触れない質問が集まった。

 え、あご? いや、出てないって。出てないよね? 後でチェックしてみよう。


 七割くらい悠月の質問だったことは予想通りで、むしろ私への質問もけっこうあったなと思うくらいだ。

 そのままなんとか場を冷めないまま、ソララを迎え入れることができた。


「やっほー、恒星ウェスタリスのソララでーす。今日はアカネんのファンミーティングに招待してもらって、遊びに来ちゃいましたーっ」


 と明るく登場して、気持ち私のときよりも力強い拍手で迎えられる。このまま二人のトークで後半は場をつなぐ予定だ。


「わーっ、すっごいね、みんなほとんど当日券で来てくれたんでしょ!? アカネんすご人気じゃん」

「あはは、嬉しいけど、みなさんは悠月さんのファンなんじゃないかなぁ」

「そうかもだけどーでもそれだけでわざわざアカネんのファンミーティングまで来ないってー。みんなアカネんのこと気になったから来てくれたんだよねー?」


 ソララが客席に向かって持っていたマイクを向けろと「そーだよー!」と何人から肯定の声が返ってきた。


「え? 私? ……私は、いつも通りだけど」

「ええー全然いつも通りじゃないって。さっきのも裏で見てたよ! アカネんあんなキレキレの踊りするのしらなかったって」

「私なんてまだまだで……」


 養成所で応援の講義に出ている生徒の中では多分一番下手だけど、養成所のことなんて知らないソララは謙遜だと思ったようで「またまた」と笑う。


「それにね、あたしアカネんが誰かと二人で写真撮って投稿しているの初めて見たよー。みんなもそうだよねー?」


 ソララの問いに、お客さん達が頷く。彼女のおかげで、ファン達がまるで会話へ参加しているみたいだ。ソララは上手いな、こういう風にやるのか。


「え、私ってそんなに写真撮ってないっけ? みんなで撮ったやつとかはあるよね?」

「みんなで撮ったやつはたまーにあるけど、でもあげるのってアカネんじゃなくて他の人じゃん。アカネんは自撮りすら全然あげないし」

「……自撮り、難しくて」


 これは本当にそうなんだ。私は鏡の前とか、他の誰かに撮ってもらった写真だと世界一可愛いのに、何故か自分で撮ると全然可愛くならないのだ。この前悠月と撮った写真は奇跡的に、まあ及第点な感じに取れてよかった。


「なんかさーアカネんって距離あるよねー? あたしのことも他のみんなのことも『さん付け』で呼ぶし」

「ええ、そうかな。ほら下の名前で呼んでるし、仲良しじゃない?」

「んえー、仲良しの基準低すぎるってー。あたしのことかも呼び捨てでいいしさー、それかあだ名?」

「……ソララさんのあだ名ってなんだっけ?」


 私が聞き返すと、ソララはわかりやすく唇を尖らせた。


「ひどーい、アカネん。あたしのあだ名知らないの? 頑張って思い出してよー」


 そうは言ってもわからないものはわからない。ただこういうときは適当にでも答えたほうがいいんだろうか。


「そ、ソラ吉……?」

「違うよっ!! わざわざ二文字追加して可愛くないあだ名つくんないでよアカネんっ!!」

「ええぇ。可愛いと思ったんだけどな……」

「もー本当、アカネんは人類と距離広いからなー」


 人類って。そんなに大勢から離れていたら私は大気圏なんじゃないのか。

 ただメンバーやファンとはもっと近づけるよう努力したい。


「でもさ、だからアカネんが誰かと仲良さそうにしてるの見て、みんなアカネんに興味持ったと思うんだよね」

「……そう、なの?」

「うんうん。ツッキーとはどうなの? さっきの質問コーナーでも聞かれてたけど、すっごく仲良さそうだよねー」

「ふ、普通くらいだと思うけど……」


 現実として、友達と言えるほど仲がいいのか。私の一方的なものなんじゃないかと怪しい関係である。向こうはただのファンって距離を取りたがるからな。私が人類と距離を取るとしたら、悠月は私と距離を取る。


「でも、もっと仲良くなりたい。悠月さんと」


 私はソララに、聞いているお客さん達に、どこかで聞いてくれているだろう悠月に向かって言った。


「いいじゃんーっ! あたしとももっと仲良くなってよね、アカネんっ」


 ソララが嬉しそうに笑って、私と軽くくっついてきた。

 お客さん達は何故かとても盛り上がっていて、どうしてかわからないけど、さすがはソララだなと感心する。

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