不人気アイドルって人気が出たらボツ個性。
第19話
ほんの少しずつだけれど、私の人気が上がっていた。SNSのフォロワーも着実に増えている気がする。この前のミニライブに来ていた恒星ウェスタリスファンの人達や、他メンバーのファンの人達が私のこともフォローしてくれたり、ライブの感想を投稿してくれていたりしているみたいだった。
こんなこと、初めてだった。プロデューサーの
「
と珍しく褒められた。
「あのっ」
私がアイドルをクビになりそうなこと、それを考え直して女優転向まで健闘してくれるための交換条件として出されている
千歳さんと話したいことはいろいろあったのだけれど、あまり悠月の復帰はまだ彼女から前向きな言葉を聞けただけだ。休止している理由も聞けずじまいのままで、私の進退を話題に出すのははばかられる。
「おい、褒めてるんだからそんな暗い顔するなよ。何も今日明日ですぐクビってわけじゃないから」
「……明後日くらいってことですか?」
「はははっ。お前、バラエティでそれくらい言えればなぁ」
冗談のつもりではなかったけれど、千歳さんに笑われてしまった。とりあえず、私がクビになるのは明後日でもないみたいだ。
「少なくとも来月のライブ……定期のミニじゃないほうな、それまでは安心していいぞ」
「えっと……次って横浜でしたっけ? あそこけっこう大きいですよね?」
「一万だな。席は埋まるとは思うが、
千歳さんはそう言うが、多分社交辞令みたいなものだろう。
ただ私もそれにふてくされず、「頑張ります」と答えた。もちろん言葉通り、自分なりにできることは全力でやる。
アイドルのファン養成所へ通うようになって数日、私の気持ちは少しずつ――いや、もしかしたら大きく変化していた。あの日、観覧車で撮った悠月との写真はまだSNSに上げていなかった。
私がSNSでなにしても基本放任されているけれど、恒星ウェスタリスのセンターアイドルが写っている写真だ。それも彼女は活動休止中。適当にあげて、変に誤解でも広まってしまうと問題になる。
「千歳さん。悠月さんのことで……」
「なんだ、進展か? 復帰できそうなら早く教えてくれ。いろいろ準備とかあるんだ」
千歳さんが食い気味で話に乗ってきた。
「すみません、復帰のことじゃないんですけど……ただこの前一緒に写真撮って」
私は悠月とのツーショット写真を見せると、ほうと、千歳さんが感心する。
「なんだ、仲良くなったのか? いい傾向じゃないか。このまま説得してくれよ」
「……そっちも、頑張りますけど。それでこの写真、SNSにあげてもいいですか? 悠月さんのこと心配しているファン多いですし、体調不良じゃないってのは事務所からも発表してますけど、元気そうな写真あったらみんな喜ぶかなって」
「なるほど、いいんじゃないか。ちょっとは茜原のSNSもちょっとは注目されるだろうし」
千歳さんからの了承ももらったので、今晩にでも投稿しよう。
「ただ元気そうって言うけど、月岡これ顔真っ赤じゃないか? 熱とかじゃないんだよな?」
「えっ? ……言われてみれば赤いですね。……いやほら、証明の関係とかだと思いますよ。だってこの日は朝から元気に応援してましたし」
「応援か。月岡、まだあれやっているのか?」
「まぁ、はい」
怪訝な顔を見るに、千歳さんからしても養成所はあまり好意的な場所ではないらしい。
「……あーあと茜原、明日お前ファンミーティングだよな。頑張ってこい。そろそろフォロワー二万人くらい越えとけ」
「そっちも頑張りますけど、ファンミーティングに来る人って、だいたいもう既に私のフォロワーじゃないですか?」
「そういう細かいところ気にしているから、フォロワー増えないんだぞ」
「えええぇ……」
的確なツッコミだと思ったが、今度は注意されてしまった。
バラエティ受けするトークというのは難しい。
今日も事務所に顔を出す前、ファンの養成所で講義を受けてきていた。
私が体験入学しているって言ったら、千歳さんはいい顔しないだろう。午前中の講義内容は座学と筆記テストたった。これには決意を新たにした私も、受ける必要があるのかとまた葛藤を生んでいた。
だけど悠月には、
「アイドル業界全体の知識はあったほうが、継ちゃんも仕事しやくすなると思うよ?」
と言われて、たしかにそうだと納得する。他のアイドルグループのことを全く知らないと、さすがに何かしらの仕事で絡みがあったときとかに気まずいし問題にもなりかねない。下手したら、世間的に大人気なアイドルと共演なんかできても、「誰さんでしたっけ?」みたいにうっかり名前を聞いてしまったら失礼でしかないだろう。
そういうことでアイドル知識を詰め込んで、そのまま筆記テストまで受けさせられた。
他の生徒達が高得点ばかりの中、私は半分くらいしか点が取れなかった。いや、さっきの授業で習ってない問題は出ても解けないって。
もちろん体験入学だし、誰に怒られるわけでもなかったのだけれど。
「継ちゃん、こういうときわからなくても解答欄埋めたほうがいいよっ」
「え、なにその受験のテクニックみたいの」
「そうじゃなくて、当たってても間違ってても、なにか書いといたほうがテレビ受けいいから!」
「……急にアイドルとして真面目なアドバイスだった」
その流れで悠月から、バラエティ受けするアイドルについてのいろはを教わる。
「継ちゃんはバラエティ感全然ないのも魅力なんだけどねぇ」
とぼやいていたけれど、私はとにかく人気になりたい。
悠月に教わったことを意識して、日頃のトークも頑張っていたわけだった。
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