悪徳領主と悪徳貴族

 クックック、フェルディナント殿下は予想以上に色に溺れているようである。

 まだ殿下が幼い時分から、侍女を送り込んだ甲斐があったという物だ。


 幼少の頃から、年上の異性とずっと一緒に過ごせば、憧れの感情を覚えても何ら不思議ではない。

 ましてや多感な思春期であれば、色事に並々ならぬ興味を持つものだ。

 すぐ側にいる憧れの異性が自身の言いなりになるとなれば、若い男の欲望がどこへ向かうかは容易に想像ができるだろう。


 ……クククッ、十年以上も経ち、送り込んだ侍女が『嫁き遅れ』と呼ばれる年齢になっているにも関わらず、未だに「夜ぐっすり眠れるのも彼女のお陰だ」と言ってはばからないのだ。

 フェルディナント殿下が、どれだけあの侍女をしているか分かるという物。


 これで我がファーゼスト家が、サンチョウメの後宮を牛耳るという未来が、俄然現実味を帯びてきた。

 もしそうなれば、寵姫となったあの侍女を通して、王家にどれだけの要求を飲ませる事ができるだろうか。


 全く、幼少期の刷り込みとは怖い物だな、フハハハハハハ!





「ルドルフ辺境伯、どうかなさいましたか?」


 モロー伯爵の声で、私は現実に引き戻された。

 第一王子にあてがっていた女が、想定以上に殿下を籠絡していた事で、少々浮ついていたようだ。

 いかんいかん、これからモロー伯爵を相手に重要な商談を行うというのに、気が抜けていたようだ。


「これは失礼、少し他所事よそごとを考えておりまして……昔撒いた種が順調に育っていましてね、それが嬉しいだけですよ」


「そうですか……」


 モロー伯爵はそう一言述べると、再び歩き出した。

 灯りがあるとはいえ、薄暗い廊下をモロー伯爵は先導して歩き、ある部屋へと私を案内する。


 案内された部屋は、特に変わった様子もない普通の応接室。

 まぁ、私がいきなり押し掛けたのだから、準備が整っていなくても無理はない。


「それではルドルフ辺境伯、そちらにお掛け下さい」


 モロー伯爵は私に座るよう促し、自分もイスに腰掛ける。

 私は促されるまま席に座ると、モロー伯爵を正面から捉えた。


 男盛りの三十代半ばを過ぎたモロー伯爵は、いつも笑みを浮かべており、ふくよかな頬を揺らす様は一見柔和な印象を与える。

 しかし、欲望でギラギラと輝く目付きのせいで、口元とは対照的に酷く野心的な人物に見えてしまう。

 また、『王国の胃袋』とまで呼ばれる程の領地を治めているだけあって、モロー伯爵の体躯は、その豊かさ表すかのように豊満であり、両手の指を飾っている彩り鮮やかな大粒の宝石は、伯爵家がいかに富んでいるかを表していた。


 それもこれも、領民から絞り尽くした血税で出来ていると言うのだから、賞賛に値する。

 いやはや、領民かちくから富を生み出すその手腕は、私も見習いたい物である。


「それで、私に一体どのようなご用件ですかな?」


 お互いが席に着いた所で、モロー伯爵から声が掛かった。


 ……さて、ここからが本番だ。


 私はパーティーの最中、頃合いを見てモロー伯爵に声を掛け、二人きりでとある商談がしたいと持ち掛けた。

 それはモロー伯爵のに相応しい、表にはできない贈り物をするためである。


「まずはモロー伯爵、この度はご嫡男のご成人、誠に目出度く存じます。また………………」


 私はまず挨拶の言葉を述べ、続いて美辞麗句を並べて伯爵家を讃える。

 そして、モロー伯爵と半ば儀礼のように世辞を交わした後に、本題を切り出した。


「さて、パーティーの主催者たるモロー伯爵の貴重なお時間を頂いたのは他でもありません。伯爵家の繁栄を祝って、私からとある贈り物がございます」


「ほほう、贈り物ですか」


 モロー伯爵は、内密の贈り物に興味を持ったのか、私の顔をまじまじと見つめてくる。

 私はその視線を感じながら、懐から包みを取り出し、モロー伯爵へと差し出した。


 さて、モロー伯爵は私の用意した贈り物を気に入ってもらえるだろうか?


「こ、これは!?」


 包みの中を確認したモロー伯爵は、その顔を驚愕の色に染める。


 ふむ、どうやら掴みは良さそうである。

 モロー伯爵には、私からの贈り物を快く受け取って貰えそうだ。


「実は先日、我が領地でが手に入りましてね、これをモロー伯爵に受け取って頂きたいのですよ」


 包みの中に入っていたのは、純白の粉。

 先日手に入れたばかりの、人を狂わせる魔法の粉である。


「この品を私に?」


「えぇ、左様でございます。モロー伯爵ならこの品を扱えると思いまして…………受け取って頂けますか?」


 そう言ってにこやかな笑顔を向けると、モロー伯爵は戸惑った表情を浮かべる。


 辺境伯と名高い私から、堂々と麻薬を蔓延させる片棒を担げと言われれば、驚き戸惑うのも無理もない。

 だが、私はモロー伯爵の人柄を良く知っている。

 この男は、自身の利益の為ならば他人を悪魔に売り渡す事を厭わぬ、人間の屑である。

 今も、驚きの表情を浮かべながら、頭の中では目まぐるしい速さで金勘定を行っている事だろう。


「ええ勿論ですとも。ありがたく頂戴致しましょう」


 モロー伯爵は、数瞬考えを巡らせた後にそう答えた。


 クククッ、やはりな。

 麻薬から得られる利益は莫大であるため、モロー伯爵ならば必ずそう言ってくれると思っていた。

 一度麻薬の味を覚えた領民かちくは非常に従順だと聞くので、これでより領地の運営が捗る事だろう。

 何人もの領民かちくが身を滅ぼす事になるのだろうが、別に構うまい、奴らは気が付けば数が増えているのだから。


「それで、私は辺境伯のに、何で以って応えれば宜しいでしょうか?」


 モロー伯爵は包みを懐にしまうと、私の顔色を伺うように問い掛けてきた。

 その問いに、私は余裕の笑みを浮かべて答える。


「いえいえ、お気になさらず。今後ともモロー伯爵とを築ければ、他には何も結構です」


 モロー伯爵程の大貴族が麻薬をバラ撒いてくれれば、それは瞬く間に王国中に広まって行くだろう。

 麻薬と共にが広まれば、それは全て御柱様への供物となる。

 おまけにモロー伯爵家とは、秘密を共有する事で強い繋がりを得られるため、利益としては十分なのだ。


 だがモロー伯爵は、私の言葉にどこか納得のいかない表情を浮かべた。


「しかし、それでは私の気が済まない」


 ふむ、確かに御柱様の事を知らないモロー伯爵からすれば、自身ばかりが大金を得ている状況に怪しさを感じるのかもしれぬな。


「では、こうしてはいかがでしょう?実は、他にもモロー伯爵のために用意した特別な商品があるのですが、そちらを高値で購入頂けませんか?」


「何と、まだ何かあるのですか?」


「ええ、左様でございます」


 今回、私が用意した品は麻薬だけでは無い。

 もう一つの商品は、元々高値で売るつもりではあったが、この調子なら、少しばかり吹っかけても問題無さそうだ。


「モロー伯爵は、がとてもお好きと伺いましたので、飛び切り美しい一品をご用意致しました」


「花……ですと?一体、何の話ですか?」


 私の遠回しな表現がいまいち理解できないのか、モロー伯爵は首をかしげて怪訝そうな表情を浮かべた。


「何をおっしゃいます、モロー伯爵は大変多くの花を愛でていらっしゃるではありませんか」


「ルドルフ辺境伯、貴方は一体何を言いたいのですか?」


 モロー伯爵が戸惑いの色を濃くする中、部屋の入り口からノックの音が聞こえてきた。


 コンコンコン


「失礼致します伯爵様、ファーゼスト辺境伯の家令達をお連れ致しましたが、お通ししても宜しいでしょうか?」


 部屋の外から、モロー伯爵の侍従の声が聞こえてくる。


「おお、丁度良かった。モロー伯爵、今話していた品が届いたようですよ」


「……通せ」


 モロー伯爵が短く告げると部屋の扉が静かに開かれる。


「ご苦労だったヨーゼフ、お前はそのまま下がれ」


 私はヨーゼフにはそのまま去るように伝え、運ばれてきたそれを部屋の中へと招く。

 そして、部屋の扉が完全に閉まったのを確認すると、私は再びモロー伯爵へと向かい合い、道中で仕入れたを紹介する。


「こちらの花の名をと言うのですが…………モロー伯爵は花はお好きではございませんでしたか?」


 私がそう言うと、の格好をした花はペコリと頭を下げて微笑んだ。


「…………なるほど、これは確かに綺麗な花でございますな、ハハハハ」


 ここへきて、ようやく私の言いたい事を理解したモロー伯爵が、口角を上げ好色そうな笑みを浮かべる。

 心無しか、部屋の空気が緩んだようにも感じられる。


「ハハハハ、気に入って貰えたようで何よりです」


 モロー伯爵と言えば、気に入った娘がいれば、権力に物を言わせてでも我が物とする事で有名である。

 今でも何人もの愛妾を抱え、夜な夜な領地の後継者問題について、精力的に取り組んでいるそうだ。


「いや、ルドルフ辺境伯もお人が悪い、そうならそうとおっしゃって下されば良いのに」


「では、お買上げという事で?」


「ええ、これ程美しい花は久し振りですからな」


 私が用意した花は、貴族の血を引いていると言われても不思議ではない程に整った姿形をしているため、伯爵家の後継者問題に、また一つ波紋を呼ぶ事になるかもしれない。


 …………いや、待てよ?

 どうせ伯爵家に手を出すなら、成人したばかりの長男に近付いた方が、上策ではないか?

 もしフレデリカが、モロー伯爵の子を身籠ったとしても、その子が伯爵家の中で高い地位を得られるとは考え難い。

 ならば、次期伯爵に一番近い長男を今の内から籠絡して、次代のモロー伯爵を骨抜きにした方が有益なのではないか?

 フェルディナント殿下の例もある事だし、やってみる価値はありそうだ。


「もし良ければ、こちらの花をモロー伯爵のお子様にいかがですか?」


 私の提案に、モロー伯爵は口元をいやらしく歪める。


「息子の愛玩奴隷としてか?」


「……奴隷?一体何の事か、私には分かりませんな」


 おっと危ない危ない、危うく言質を取られるところだった。

 今の言葉に頷いていれば、私は違法に奴隷を取り扱う犯罪者になってしまうではないか。

 いいですかモロー伯爵、この国に奴隷など存在しないのですよ?


 おどけた口調でモロー伯爵の罠を掻い潜り、私はニヤリと笑いかけた。

 するとモロー伯爵は、私の言葉を聞いて無駄だと悟ったのか、話題を次へと切り替えてくる。


「ところでルドルフ辺境伯。こちらの花はどこで、どのように見つけて来られたのですか?」


「どこでと言われても、花などどこにでも咲いているでしょう」


「いえ、気になる事がございまして……詳しく教えて頂けませんか?」


 うん?モロー伯爵が何を言いたいのか、いまいち理解できない。

 道端に咲いている花を手折るのは、モロー伯爵の常套手段のはず。

 同様の手法で仕入れた花の事を聞いて、何がしたいのだろうか?


「モロー伯爵がそこまでおっしゃるなら構いません。こちらの花は私が伯爵領に来る道中、とある暴漢に手折られそうになっていた所を私が摘んで来たのです。確かエッジ領の辺りだったと思いますが……」


 私はが村娘を誘拐してきた時の事を思い出しながら答える。

 ……おっとそういえば、この花をダグラスに返す約束をしていたな。

 いかんいかん、忘れる所だった。


「…………なるほど、そう言う事でしたか、良く分かりました。それで、私はこの花に幾ら支払えば良いのですかな?」


 ふむ……我が家の利益を確保しつつ、約束の事も考えるとなると…………


「そうですな、今後も私にの世話を任せて頂くと言う事でいかがでしょう?」


 今後も定期的にを売り込む約束をしておくのがベストだろう。

 こうしておけば、中古の花を引き取りたいとして言い出しても、新しい花を届けるのだから嫌とは言われまい。

 おまけに、定期的に花が高値で売れるのだから、高い利益も得られる。


「な、なんですと!?」


 モロー伯爵が、本日の何度目かの驚きの声を上げる。


「おや、ご不満でしたか?」


「いえ、そう言う訳では…………」


 そう口ごもった後に、モロー伯爵は何かを考えるようにブツブツと呟き始める。

 支払うべき金額の勘定でもしているのだろうか?


 まぁ確かに、私も安値で売るつもりはないので、定期的に私から花を買う事になれば、それなりの支出になるかもしれない。

 しかし、所詮はその辺に生えている草花だ、モロー伯爵の財力からすれば、その程度の出費はほんの雀の涙にしかならないはず。


 そんな風にお互いが考えに耽っている時の事だ。

 どこからか喧騒のような物が聞こえ始める。

 段々と大きくなるそれは、どうやらパーティー会場から聞こえてくるようだ。


「何やら騒がしいようですな…………ルドルフ辺境伯、この続きはまた後日で構いませんか?」


 モロー伯爵は、会場から聞こえてくる騒ぎを耳にして、慌てふためいた様子を見せる。


 …………ふむ、確か本日招かれている第一王子は、モロー伯爵とは別の派閥の人物。

 ここで何か問題が起これば、それはモロー伯爵の大きな疵になり兼ねないのだから、その気苦労は計り知れない。

 今も、騒ぎの音を聞いて相当に神経を擦り減らしている事だろう。


 しかし私は、この喧騒がモロー伯爵が想像するような不穏な物ではないと知っているため、落ち着いてモロー伯爵に語り掛ける。


「あぁ、それならご心配には及びません。先程会場に私の犬を置いてきましたので、きっと犬の芸に盛り上がっているのでしょう」


「……犬と言うと、ルドルフ辺境伯がお連れになっていたアレですか?」


「えぇ、アレは私の言う事を何でも聞くので、今日のに丁度良いと連れてきたのですよ」


「余興…………ですと?」


 中央の貴族は、色々と闇を抱えている貴族が多いと聞くから、私の余興はさぞ盛り上がることだろう。

 今頃は、貴族達の無茶振りに振り回されて、犬畜生のように地を這うの姿があるに違いない。


「クックック、会場はさぞかし盛り上がっているでしょうね?……そうだモロー伯爵にも、後で私の犬の芸を披露致しましょうか?きっとご満足頂けると思いますよ!」


 私との商談で余興が楽しめないのだから、後日犬を派遣しようかと考えていると、モロー伯爵は息を吐いて椅子に体重を預けた。


「………………」


 会場の騒ぎが、私の余興による物だと分かって気が抜けたのだろう。

 そう考えると、モロー伯爵には少しばかり悪い事をしてしまったのかもしれない。


「……ご安心頂けましたか?」


 そう私が問いかけると、モロー伯爵は疲れた顔を私に向ける。


「ええ、安心致しました。……では、先程のの世話の件ですが、是非宜しくお願い致します」


「そうですか、それでは無事に商談成立ですね」


 私はその言葉と共に、飛び切りの笑顔をモロー伯爵へ贈った。

 モロー伯爵からは疲れた笑みが返ってくる。


 ふむ、パーティーの開催で疲労困憊のモロー伯爵には、気分転換が必要なのかもしれない。

 幸い、商談が思っていた以上に早く纏まったため、今から戻れば、駄犬の愉快な様子が見られる事だろう。


「これからどうです、まだ余興に間に合うかもしれませんので、一緒に見に行きませんか?」


「…………いえ、私は結構です」


 モロー伯爵は、頭を振って私の誘いを断った。


「そうですか、それは残念ですが…………あっ、なるほどそういう事でしたか、これは気が付きませんでした」


 しかし、部屋を辞去しようとした所で、私はある事に気が付いた。

 私が一人で部屋を出ていけば、部屋の中には必然的にが取り残される事になる。


「これにて、私は失礼致しますので、後は…………ごゆっくり下さい」


 モロー伯爵も、下らぬ犬の芸を見るより、綺麗な花を愛でる方が癒される事だろう。

 つまり、これからたっぷりと英気を養うという事だ。


 …………うん?そうするとあの花は、モロー伯爵に手折られた後に、その息子に散らされる事になるのかな?


 クックックッ、フハハハハ、アーハッハッハッハ!


 これでは、になってしまうではないか!?

 何と、中央の貴族はそれほどまでに業が深かったか、クククク、クハハハハハハ!!


 予想以上にいい商談ができたと、ほくそ笑みながらパーティ会場に戻る。


 そして扉を開けると、場の空気が思っていたより重たい事に気が付いた。

 どうやら、私の余興が気に入らない者がいるようだ。


「皆様、私の用意した余興はいかがでしたかな?」


「こここ、これが余興だと?辺境伯にとっては、これが余興でしかないと言うのか?」


 そう言って、どこかの貴族が私を非難してくる。

 どうやら、平民かちくを見世物にするのが気に食わないようだ。


 やれやれ、稀にこういったやからを見かけるが、やれ平民を大切にしろだ、やれ人間の尊厳がどうだと非常に口うるさい。

 中央の貴族には珍しく、高潔な心根の持ち主だと言えなくもないが、折角皆で盛り上がっている所に水を差すのは、いかがな物かと思われる。


 なので、この鬱陶しい偽善者には、穏便に退場してもらう事にしよう。


「おや、顔色が優れませんが、大丈夫ですか?モロー伯爵もお疲れの様子でしたし、貴方も少し休まれては、いかがですか?」


 私はそう言いながら、領地に生息する凶暴な魔獣と相対した時の事をイメージして、全力の殺気を目の前の偽善者に放つ。


「ひ、ひぃぃぃ!!」


 すると、その貴族は呆気ないくらいにあっさりと意識を放り投げた。


 ふん、ご立派なお題目を掲げるなら、それ相応の根性を見せて欲しい物だ。

 あの程度の殺気で気を失うなど、とんだお坊ちゃんである。


「やれやれ、余程日頃の疲れが溜まっているとみえる……誰か落ち着ける場所に連れていってやれ」


 私がそう言って余興の邪魔者を排除すると、そのの後に続いて、何人もの人物が会場を後にしていくではないか。

 恐らくあの偽善者の賛同者であろうが、思った以上の人数が彼の後を追って退場している。


 …………ふむ。


「あの方は、余程人望があるようだ……」


「…………ぷっ」


 私の痛烈な皮肉に会場の誰かが吹き出した。


「ぷははははははははは」


 一人が吹き出し始めると、誰も彼もが堪えるのを諦め、堰を切ったように次々に笑い声が上がり始める。


 クククッ、やはり中央の貴族達はとても良いをしている。

 あの様に高潔な人物を物笑いの種にするのだから。


 私は、上品な笑い声を上げる貴族の皆様の前に立ち、優雅に一礼を披露して見せる。


 湧き上がる歓声と拍手の数々。


 すると、貴族の方々の賞賛の言葉に紛れて、駄犬の呟きが耳に入ってきた。


「けっ、役者が違ぇんだよ、役者が」


 あん?

 何故、貴様が偉そうにふんぞり返っているのだ?

 ……いいだろう、そんなに犬の役が気に入ったのなら、私が徹底的に躾けてやろう。

 そのニヤけた髭面がどう歪むのか、領地に戻ってからが楽しみだな!


 クックックッ、フハハハハ、アーハッハッハッハ!

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