とある第一王子の華麗なる晩餐

 私の名はフェルディナント=イチロウ=サンチョウメ、栄えあるこのサンチョウメ王国の第一王子だ。


 今日は、王国の胃袋とまで呼ばれる大穀倉地帯を治める、伯爵家の嫡男の成人を祝うパーティーに出席している。


 王国の食料の大部分を担っているだけあって、伯爵家は栄えており、そのパーティーは豪華絢爛。

 視界を埋め尽くすかのように並べられている料理には、特に力を入れているようで、王国の胃袋の名に恥じない晩餐となっている。


 黒いダイヤとも称される茸を散りばめたパスタ。

 ガチョウの肝をくるんで焼いたパイ包み。

 チョウザメの卵を山盛りに乗せたクラッカー。


 様々な山海珍味が、伯爵家のシンボルである小麦と共に饗されていた。

 中でも目を見張るのは、高価な砂糖をふんだんに使用した菓子の数々。


 生クリームの城壁に守られたホールケーキ。

 サクサクに焼かれた生地にカスタードを挟んだシュークリーム。

 石垣のように積み上げられたマカロンの塔。


 これらの品々を見るだけで、伯爵家がどれだけの財力と権勢を誇っているかが分かるだろう。


 しかし、そんな美食の数々に彩られたパーティーだったが、私がそれらを楽しむ事はなかった。

 何故ならこのパーティーでは、私の命が狙われている可能性が高く、折角の料理を前に、味を楽しむ余裕が無いからだ。


 現在我が王国では、正妃の子である私を担ぐ第一王子派と、隣国から嫁いできた妾妃の子を担ぐ第二王子派に分かれ、水面下で激しい権力争いが行われている。


 順当にいけば、私は今年の春、学園を卒業するのと同時に、王太子として任命されるのだが、第二王子派がそれを指をくわえて待っているとは考えられない。

 当然、私の排除を目論んで何か手を打ってくるはずだ。


 そして、今日行われているパーティーの主催者は、第二王子派の筆頭貴族であるモロー伯爵。

 私が正式に王太子に任命されるまで、残り猶予が僅かとなる中、この絶好の機会に、第二王子派が何も仕掛けないと考える方が不自然だ。


 もちろん、パーティーの中で何かトラブルが発生すれば、それは主催者であるモロー伯爵の汚点となってしまうが、擁立する第二王子が次代の国王になる事は、少々の汚点に目を瞑ってもなお魅力的に映る事だろう。


 事実、私は幼少の頃に第二王子派の主催するパーティーで毒を盛られた事がある。

 その時は摂取した量が少なかったからか、何とか一命を取り留める事ができたのだが、恐ろしいのは、どのような手口でどのような毒を盛ったのか、少しも解明する事ができなかった点だ。

 それも、我が王国が誇る宮廷魔術師や宮廷薬師を以てしてもだ。


 結局、主催者である貴族は、少々責任を追及された程度で事は収まり、事件は迷宮入りとなった。

 もし今、同様の手口で毒を盛られたならば、証拠を掴む事ができず、第二王子派の責任を追及する事は適わないだろう。


 なので、私はあの事件以来、いつ如何なる時であろうと毒味役を通してから、物を口に入れる事にしている。

 そして毒味役にはファーゼスト辺境伯が用意したプロフェッショナルを雇い入れ、万全の体制を整えた。


 無条件で辺境伯の事を信頼するのは危険と思うかもしれないが、彼が持つ影響力は絶大であるため、もしも彼が敵に回っているのならば、私の敗けはその時点で決まっている。


 ……だが、恐らくそれはあるまい。

 あの一族は、辺境に対して妙なこだわりを持っているため、中央で行われる政治に興味が薄い。


 歴代のファーゼスト辺境伯達には、功績を讃えて、中央の要職に就くよう打診する事が何度もあったのだが、毎回袖にされていると聞く。

 何でも、初代ファーゼスト辺境伯が交わしたというがあるからだそうで、今でも当主から当主へと、代々大切に引き継がれているらしい。


 初代辺境伯が王国と交わした約束なんて、要約すると『切り開いた魔の領域をファーゼスト家の領地として認める事』だけなのに、彼らは、実り豊かな土地との領地替えを提案しても、華の王都での暮らしを提案しても、頑として首を縦に振らないのだ。


 こういったエピソードは、王国貴族達の間でも知られており、ファーゼスト辺境伯家は、代々政治色を持たない、中立の派閥として有名だ。

 勿論、今代のファーゼスト辺境伯も例にもれず公明正大で人格者と名高く、王家からの信頼も厚い人物である。



「…………ふぅ」


 人の波が途切れたタイミングで、私は溜まっていた物を吐き出すように息を吐いた。

 僅かに痒む首筋を一掻きし、呼吸を整える。

 自分が思っているよりも疲れているのかもしれない。

 命の危険を感じながら過ぎる時間は、想像以上に私の精神を削っていたようだ。


「殿下、こちらをどうぞ」


 毒味役である侍女から一杯の水が差し出された。

 私はその気遣いに笑顔を返し、受け取った液体を嚥下する。


「…………ふぅ」


 喉の奥から感じる柑橘類の風味に癒されながら、息を吐く。


 毎度の事ながらこの有能な侍女には、いつも感心させられる。

 彼女は、毒味役という危険な職に就いているにも関わらず、秘書のような役目もこなし、更には私の体調にまで気を配ってくれている。

 今回も彼女が気を回してくれたおかげで、幾分か気が楽になった。


「殿下、そんなに気を張っていては、気疲れでかえって隙が生まれてしまいます。時には気を緩める事も必要かと存じます」


 彼女がここまで言うのなら、私の疲労はそれほどまでに達しているという事なのだろう。


「お前の言葉にはいつも助けられているが、今回は聞けん。逆に聞くが、この場でどうやって気を抜けと言うのだ?」


 だが、この場は第二王子派の本拠地であり、気を緩める事は私の命に直結する。

 そんな状況でどうやって気を休めろというのだ。


 しかし、私の疑問は見透かされていたようで、侍女は澄ました顔でこう告げる。


「あちらをご覧下さい。あそこであれば、殿下も幾らかは気を休める事が可能かと」


 侍女が指し示した方向には、ファーゼスト一家が勢揃いしていた。


 数々の施策を打ち立てて王国に多大な貢献をする『麒麟児』ルドルフ=ファーゼスト辺境伯。


 その人脈と手腕で教会内部の腐敗を正し、民草に信仰と希望を与える『裁きの鉄槌ジャッジメント』ゲオルグ司教。


 神々の寵愛を一身に受け、その奇跡で人々を癒して安らぎを与える『聖女』アメリア。


 成程、確かに彼らの下であれば、第二王子派の影を気にする必要は無い。

 一家の団欒に水を差すようで気が引けるが、少しの間、羽休めをさせてもらうとしようか。

 そう思い、私は王国で一番信頼できる一家の下へと足を運んだ。


「遠い辺境から、わざわざご苦労。パーティーは楽しんでいるかな?」


 私の声に反応し、こちらに振り返るファーゼスト一家。


「…………チッ」


 どこからか舌打ちが聞こえたような気がして、音の発生源を探ろうとするが、特に怪しい動きをする者はいない。

 …………聖女様がニコニコと微笑んでいるだけだ。

 何だか良く分からないが、背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、聖女様に微笑みを返す。


 そんなやり取りをする中、ルドルフ辺境伯が一歩前に出てきて、臣下の礼を取る。


「これはフェルディナント殿下、ご機嫌麗しゅうございます」


「よい、そう畏まるな。辺境伯には色々と世話になっている事も多い。今日は私が気を休めるためにも、楽にしてもらえないか?」


 この場に気を休めに来たのに、一々儀礼を気にしていたのでは、余計に疲れてしまう。


「成る程、そういう事であれば、殿下の為にも善処致しましょう」


 私の意を汲んで、ニヤリと笑みを浮かべる辺境伯。

 その笑みに釣られて、私も笑みをこぼす。


「時に殿下、そこで控える侍女のはいかがですか?しっかりと教育したつもりでございますが、何かはございませんか?」


 ん、具合?何故そのような言い回しを……

 あぁ、そうか、毒味役である彼女の具合が悪ければ、それはつまり、私の食事にが盛られていたという事だ。


「辺境伯が心配するような事は、何も無いので安心するがいい。彼女には満足しているし、ファーゼストのがいかに高度であるかは、私がこの身で知っている」


 彼女が一人いるだけで、どれだけ助かっている事か。

 毒物に対する深い見識は勿論の事、政務の補佐からマネージメントに至るまで、その活躍は多岐に渡っており、更には一人で三人分の仕事をこなす程の敏腕さを誇る。


「クックック、それ程までに重宝して頂けるとは、仕込んだ甲斐があったというものです」


 辺境と呼ばれる程の厳しい環境でありながら、このレベルの人材を一定数輩出し続けるのだから、辺境伯の手腕には本当に驚かされる。


「あぁ、私が夜ぐっすり眠る事ができるのも、彼女のお陰だ」


 それに、もしも彼女を雇う事ができなかったら、見えない暗殺者の影に怯え、どれだけ眠れない夜を過ごした事だろうか。

 彼女を派遣してくれた辺境伯には、本当に感謝している。


「ほう、そこまでですか?もう十年以上経つので、年齢が少し気になっていたのですが…………いえ、殿下のご期待に添えるのであれば、その者にとっても何よりの喜びでございましょう」


 十年……そう言えばもうそんなに経つか。

 それだけの期間、主従として過ごしていれば、お互いの考え方も分かってくるし、阿吽の呼吸という物も生まれてくる。


「彼女は勤勉で、年を追う毎に良い仕事をするようになっているし、今では私の良き理解者と言っても良いだろう。彼女には十分満足している」


 だが、そうか……

 良く考えれば私に尽くすばかりで、彼女の『女』としての時間は過ぎ去ろうとしている。

 彼女の働きがどれだけ素晴らしいかは、私も認める所だ。

 部下の貢献に対して報いる事も、良い関係を維持していくためには必要な事だ。

 ふむ、何か良い案は無いものか…………


「…………では殿下、こうしてはいかがでございましょう?殿下はいずれこの国を負って立つ身。殿下の信頼厚いその者に、いずれは後宮を任せてみては?」


 後宮を任せる侍女頭といえば、下手な貴族に匹敵する程の権力を持つ重要な役職。

 それだけに、信頼できる者でなけれ任せられない大任であるが、十年以上共に過ごした彼女であれば、任せるに足る実績がある。

 それほどの地位となれば、良縁を結ぶ事も容易であろう。


「……ふむ、考えておこう」


 とはいえ、まだ先の事であるし、私の一存だけで決める事のできない大事だ。

 だが、もしその時がくれば検討の余地はある。

 覚えておくとしようか。


「…………だそうだ、分かったな?貴様は余計な事を考えずに、殿下に誠心誠意、仕えていればいい」


「はい!…………必ずや……必ずや、殿下とルドルフ様のご期待に応えてみせます!!」


 私が先々の事を考えている間に、辺境伯は彼女に励ましの声を掛けていた。

 普段は澄まし顔の彼女が、珍しく感情を表に出しているのがとても印象的である。


「あらあら?ふ〜ん、うふふふふ」


 ふと横を見ると、聖女様がニコニコとした笑みを深めている。


 一体、何だと言うのだろうか。


 聖女様の笑顔に、どこか気恥ずかしい物を感じ、痒む首筋をポリポリと掻く。

 そんな私を見て、ファーゼスト一家はそれぞれに笑みを浮かべ、私もそれにつられるようにして笑った。




 だが、楽しい時間はいつまでも続く事はなく、一人の人物が訪れた事によって終わりを告げる。


「皆さん、楽しんでいらっしゃいますかな?」


 声の主は、このパーティーの主催者である第二王子派の筆頭貴族、モロー伯爵。

 私が、今日この場で一番気を付けなければならない人物だ。


 私の緊張を察してくれたのか、ルドルフ辺境伯が進んでモロー伯爵へと挨拶を行う。


「これはモロー伯爵ではございませんか。本日はお招き頂き、誠にありがとうございます」


「こちらこそ、息子の成人祝いのために、遠い辺境よりお越し下さり、ありがとうございます。また、サンチョウメ王国の次代を担うフェルディナント殿下にまでお祝い頂き、身にあまる光栄にございます」


 私の命を狙う者達のまとめ役だというのに、いけしゃあしゃあと言ってのけるモロー伯爵。


 顔を合わせずに済むのであれば、それに越した事はないのだろうが、彼が主催者するパーティーに参加しておきながら、一言も言葉を交わさないのは不可能だ。

 ならば、ファーゼスト一家が側にいるこの機会に、今日の挨拶を済ましてしまうのが上策であろう。


「『食』を司るモロー領は王国のかなめの一つ。その要所の未来を担う継嗣の成人は、王家に取っても慶ばしい事である」


「勿体ないお言葉、大変恐縮にございます。殿下のお言葉を息子が聞いたら、さぞかし喜ぶ事でしょう」


 私は心の内を理性で覆い隠して笑顔で接し、対するモロー伯爵も、白々しい笑顔を私に向けた。


「それに、このような豪勢なパーティーは見た事がない。さすがは王国の胃袋と名高いモロー伯爵だな」


 そして、私が当たり障りない世辞を送ると、モロー伯爵は大袈裟に喜びを表した。


「はっはっはっ、そうでしょうとも。『食』には我が家の威信が掛かっておりますからな!特に、菓子類に関しては料理長が腕によりをかけておりましてな…………もう食べられましたか?」


 確かに言うだけあって、用意された料理はどれも絶品ばかり。

 モロー伯爵の思惑はどうであれ、それらを作り上げた料理人達の仕事は称賛に値する。


「ケーキに、シュークリームに、マカロン、どれも絶品であった。そう料理長に伝えておいてくれるか?」


「ははぁっ!料理長には必ず伝えておきましょう」


 私がそう伝えると、モロー伯爵はどこか誇らしげに頷いて一礼する。


「それでは、私は他にも挨拶する所がありますので、恐縮ですが失礼致します。引き続きパーティーをお楽しみ下さいませ」


「…………ああ、そうさせてもらおう」


「では、これにて」


 そう言って、この場を去っていくモロー伯爵。


 その姿を見て、思わず気が抜けてしまう。

 何か仕掛けてくるかと身構えていたが、少し会話をしただけで、モロー伯爵はあっさりと引き下がっていったのだ。


 ポリポリ。

 首筋に思い出したような痒みを感じ、掻いて鎮める。


 いや、私の気を緩めるための罠かもしれない、モロー伯爵が直接手を下さずとも出来る事はたくさんある。

 特に、以前盛られたような毒には警戒せねばならない。

 その事を毒味役にも伝え、私はパーティーが終わる時間まで慎重に行動をする事を決めた。


 また、いつまでもファーゼスト一家の側にばかりいる訳にもいかないため、私達はルドルフ辺境伯達に礼を述べてその場を離れる事にした。


 パーティーの参加者達と会話をしながら、第二王子派の動向に気を配って時間が過ぎるのを待つ。


 だが、モロー伯爵はそれ以降、こちらの様子を一顧だにする事なく、終いにはファーゼスト辺境伯を連れてパーティー会場から出て行こうとするではないか。


 ひょっとして、何も仕掛けるつもりがない?

 いや、そんなまさか…………


 私の思考を置いて、二人は会場を去ろうとするが、その寸前に、ルドルフ辺境伯がこちらに振り向いて、会場内に響き渡るように声を上げた。


「それではお集まりの皆さま、本日は皆さまのために、私が飛びきりの余興をご用意致しました。この者は見ての通り、私のにございまして、皆様のお言葉に応えるよう言い付けてございます。是非何なりとお申し付け下さいませ」


 そう言ってルドルフ辺境伯は、今まで側に連れていたドーベルマンの仮面を付けた男を残して、会場を去って行く。


 バタンと音を立てて扉が閉まり、一瞬の静寂が場を支配したかと思うと、一気にざわめきの波が広がる。


「ルドルフ辺境伯の余興だと………」


「あの仮面の男は一体何者だ…………」


「あれはもしや、ファーゼスト・フロントに現れた…………」


 口々に、仮面の男の話題が上る中、私も目を擦って仮面の男を凝視する。


 実はパーティーが始まって以来、ルドルフ辺境伯の連れるミステリアスな仮面の男が誰なのか、そこかしこで噂になっていたのだ。

 そして、耳の早い人間であれば、つい先日ファーゼスト・フロントに現れた、『黒い牙ブラックファング』と呼ばれる、ルドルフ辺境伯の右腕の存在に思い至った事だろう。


 つまり、ルドルフ辺境伯は、このパーティー会場に話題を提供すると共に、自身の右腕の存在を王国中に知らしめるつもりのようだ。


 気の早い者なんかは、興味津々で『黒い牙ブラックファング』の下に集まっていく。

 私も好奇心に勝てず、ルドルフ辺境伯との友好を深める為にも、『黒い牙ブラックファング』の所に足を運ぼうとしていた。


 実は、ファーゼスト・フロントで起きた大捕物に、私は大きな興味を抱いていた。

 悪の組織を一網打尽にするという、まるで演劇の一幕のような痛快な出来事が現実に起きたのだ。

 実際に、耳敏い人間が演劇の演目にしようという話も上がっているくらいである。


 そんな、皆が憧れるような人間が目の前にいて、しかも主であるルドルフ辺境伯は『何でも応える』と言っているのだ。

 正直に言って、私もファーゼスト・フロントで起きた大捕物の一部始終を直接聞いてみたいと思っている。


 興奮で胸が高まっているのか、どこか息苦しさを感じる。

 思わず走って近付きたい気持ちを押さえて、ゆっくりと歩み寄ろうとする。


 ……ぜぇ、ぜえ


 一歩、また一歩と足を進める度に、心臓の鼓動が速くなり、息苦しさが増していく。


 ……ヒュー、ヒュー


 そして終いには、自分の喉から掠れるような異音が聞こえ始めた。







 何だこれは、私の身に一体何が…………







 自身の身に異変が起きている事にようやく気が付く事ができたが、時既に遅く、血の気が引いて意識が薄れ始める。


 ……これはまさか、あの時と同じ毒!

 何故だ、一体どのようにして私に毒を盛ったのだ!?


 痒みのために喉を掻きむしり、空気を求めて必死になって呼吸を繰り返そうとするが、次第に喉が締まって呼吸も満足に行えないような状態に陥ってしまう。


 必ず毒味役を通していたというのに、どのようにして……


 とうとう立っていられなくなり、床にうずくまるようにして倒れ伏した。

 何とか首を回して辺りを見回すが、私以外に不調を訴える人間の姿は、毒味役も含めて見られない。


 まさか、毒味役が裏切ったか!?

 ……いや、それは考えられない。

 床に倒れた私を前に、右往左往する彼女の姿に嘘偽りは見られないし、それにもし仮に裏切っていたのならば、わざわざ第二王子派の本拠地で毒を盛る必要はない。

 日常生活の中で機会はいくらでもあるため、この場で彼女が毒を盛る事はあり得ない。


 では、一体誰が……どのようにして………………


「殿下、フェルディナント殿下!意識をしっかり持って下さい、殿下!!」


 会場が騒然となる中、慌てふためく毒味役の声だけが、妙にはっきりと耳に届く。




 そして、私の意識は暗い闇の底へと沈んでいった。

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