とある貴族の語り
やぁ、久し振りにこの店に来たけど、見たことのない顔だね。
まぁいいや、今日はちょっと誰かに話しを聞いて欲しい気分でね。
久し振りに王都に来たものだから、寄らせてもらったんだ。
え?注文?
あぁ、そうだね。
じゃあ強めの酒と、つまみになるようなものを適当にお願いしようかな。
私は、普段は辺境にいるから、中々店に顔を出せなくてね、今日は羽を伸ばさせてもらうよ。
えっ?何これ?
…………フライドポテト?
あぁー、これが噂のジャガイモか。
中々美味しそうだね、どれ一つ。
…………ホクホクで美味しいね、気に入ったよ。
んッ……なるほど、お酒にもよく合うね。
それでなんだっけ。
……あぁ、そうそう、今日、叙爵式があったのは知ってるよね?
そう、王都でも話題になってるスズキ家。
その当主のライアンなんだけどさ、実は私の弟なんだよね。
…………シーー!あんまり大きな声を出さないで。
ほら、他の方に迷惑でしょ。
うん、落ち着いたかな?
そう、それでその弟なんだけどさ、昔は私の後を着いてばかりいる可愛い奴だったんだ。
それがいつからか、「辺境の男は強くあらねば!」と言って体を鍛え始めてね……今では魔の領域の主を打ち倒すほどになるとは……
うん、正直な事を言うとコンプレックスだったね。
ほら、辺境って、武力が重視される風潮があるからさ。
弟の凄さを見ると、思う所があったんだよ。
弟から見るとさ、私は病弱らしいよ。
これでも、学園では上から数えた方が早い成績だったのにさ、笑っちゃうよね。
人間の二倍ぐらいの大きさの魔物で、その巨体を生かして、拳や得物を振り回してくる恐ろしい魔物なんだ。
私達は、代々そんな魔物と戦って来たんだけど……
弟が家の戦士団を鍛え始めてから、様子が変わってね。
……何というか、うん……今、家の戦士団の連中は、そんな
いや、本当だよ?
自身の二倍もの大きさの相手に、一歩も引けを取らずに殴り倒すんだ。
大きさが二倍違うんだから、普通の人より二倍は強くなければ倒せない相手のはずなのにね……
…………え?大きさが二倍なら、八倍の戦力差があるって?
どういうこと??
え?単純に、身長が二倍なら、体積は八倍になる???
そうなの?
良く分からないけど、君、頭いいんだね。
え?大人と、三歳児ぐらいの体格差がある?
…………うわぁ、そう聞くと家の戦士団ってヤバいんだね。
そりゃ、そんなのから見たら、私なんてモヤシだよね、ハハハハ。
そっか……うん、今の話を聞いて少しスッキリしたよ。
そんな戦士団を率いる弟は、英雄の器だったんだね。
そうだよね、私の一族が代々倒せなかった魔の領域の主を打ち倒したんだ。
そんな人物が、凡人な訳が無いよね。
うん、そりゃ、スズキの姓も与えられるし、爵位も賜って当然だ。
そんな事も分からなかったなんて。
……そんな英雄の兄として、恥ずかしくないように、これから頑張らなくちゃね。
よし、お代わり!
今日はめでたい日だ、楽しく飲もう。
弟の新しい門出に乾杯!!
……それにしても、あれだけ強いのにまだ強さを求めるなんて、弟は何と戦う気なんだろうな。
え?何の話かって?
少し前に弟に聞かれたんだよ、腕のいい鍛治師の事を。
なんかさ、今使っているのが合わなくなってきたらしくて、叙爵を機に一新するんだってさ。
だからさ、私も知る限り最高の職人を紹介したよ。
君も名前は聞いたことあるんじゃないかな、『
そうそう、あの頑固で有名な名工ワッツ。
弟達の腕前なら、きっとワッツも認めてくれるはずさ。
…………えっ? 引退した?
嘘、もう一年も前に引退してたの!?
あちゃー、知らなかったとはいえ、店の地図まで渡しちゃったよ。
……え? 店は息子が跡を継いでるの?
うーん、店の看板を変えずに続けられているのならとりあえず大丈夫かな。
まぁ、弟の事だ、上手くやるさ。
そうそう、上手くやると言えば、スズキ家で働いているメイドの一人と中々上手くやってるらしい。
訓練一筋だった弟にも、ようやく春がやってきたようで私も両親も安心したものだよ。
それも、あのファーゼスト家の出身のメイドだ、そこらの令嬢を貰うより、よっぽど頼りになる。
本当、いい娘を捕まえたものだ。
辺境に来るだけあって、戦術にも詳しいしね。
よく、戦士団の訓練を見て「攻め」がどうとか、「受け手」がどうとか、一緒にやってきたメイド達と討論してるらしいよ。
…………あれ?今、店に入ってきたのって、先輩?
先輩ー、ロバート先輩ー! こっちこっち!
そんな風に、入口でウロウロしてたら不審者に見えますよー。
……先輩、お久し振りです、学園の卒業式以来ですか?
確か今は、家を継いでロバート=オオクラ=トヨトミになられたんですよね、おめでとうございます。
……そんなにキョロキョロしてどうしたんですか?
あっ、さては先輩、『紳士倶楽部』に来るの初めてですね?
そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ、ここにいる紳士達は皆口が固いですから。
この店の中で見聞きした事は外に持ち出さないのが、暗黙ルールです。
何といっても、皆紳士ですから安心していいですよ、ハハハハ。
ロバート先輩はどうします?
あっ、私が奢りますよ、初めての『紳士倶楽部』なんですから、楽しんでいって下さい。
そうだ、家督継いだお祝いを私にさせて下さい。
だから、難しい顔をしてないで、何でも言って下さい。
この店のサービスは凄いですよ、顧客の要望に高いレベルで応えてくれますから、きっと先輩も満足できますよ。
…………え? 十歳ぐらいの女の子?
いや……さすがにそれはいくらなんでも……………
……先輩、そんな趣味してたんですね…………
そ、そんな怒らないで下さい、口外なんてしませんよ。
私も紳士にあるまじき行動をして、この店を出入り禁止にされたくありませんから。
あっ、そうだ。
私が先輩のために一肌脱ぎますよ。
こう見えても、私はこの店の店主と顔馴染みなんで、話を付けておきますよ。
先輩は確か王都に住んでましたよね、次にこの店に来る頃には、先輩もきっと楽しめますよ。
いやいや、そんなに恥ずかしがらなくてもいいですって。
あまり大きな声では言えませんが、そういう趣味を持った方って結構多いみたいですよ。
先輩だけじゃないんですから、否定しなくても大丈夫ですよ。
ここの店にやってくる紳士達は、大なり小なり何かを抱えてるもんなんですから。
えっ? 私ですか?
……ほら、弟が、今日叙爵されたじゃないですか。
私の場合はそれですかね。
やっぱり、優秀な弟を持つと肩身が狭いというか、兄として思う所があった訳で……
嫌いとかでは無いですよ、弟も私の事を思っているのがわかりましたから。
さっきもこの子に聞いて貰ってたんですが、やっぱり、弟の才能に嫉妬してたんですよね。
だけど、それも今日でお終しまい。
弟は英雄なんです。
その兄がいつまでもそんな小さい事でウジウジしてたらみっともないでしょう?
あいつは、これから隣の領地で魔物と戦っていくんです。
私はそれを支える。
英雄の兄として恥ずかしくないように、頑張らなくちゃいけないんです。
だから、先輩もそんな顔しないで下さいよ。
先輩の趣味に合う子はいませんが、それは私が後日何とかしますから、今日は飲んで楽しみましょう。
ほらほら、今日は私の奢りですよ。
では、いいですか?
先輩との再会を祝して、カンパーイ!
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