第682話 体育祭、お昼休憩

「”速い速い、流石は伝説の第二回逃走王フロンティア大会の覇者、青の騎士木村英雄君!三年生男子、一年生男子との距離をグングン離してバトンをアンカーの高宮ひろし君に渡したぞ~!

高宮ひろし君独走状態でも決して手は抜かない、その差をさらに広げて行く、圧倒的、圧倒的だ~!後続との距離五十メートルは離して今、ゴ~~~~ル!!

勝利の栄冠は二年生男子生徒チームに輝いた~!!”」


割れんばかりの歓声、女子生徒たちの黄色い声援が飛び交う中高宮ひろし君は大きく手を振り笑顔でその声に応えていた。

まさに圧巻、康太君、木村君ですでに勝敗が決していると言っても過言ではない状況でのアンカーひろし君。う~ん、この三タテはもはや反則だよな~、誰も勝てないっての。一年坊主のツートップ+林も頑張ったんだけどいかんせんステージが違う。三年生鏑木先輩に至ってはもはや呆れてたもんな~。鏑木先輩、あなたは決して遅くなんてないんです、一年坊主のツートップなんかよりかは全然早いし康太君よりも早いんです。ただ林の奴と逃走王たちがおかしいだけなんです。

こいつら絶対体育祭とかのレベルじゃないし、一年坊主、三年生の先輩方、ドンマイ。


天海君お疲れ~。今年は結構頑張ってたんじゃない?


「あぁ、佐々木君。相変わらずの玉入れ捌き、見事とし言い様がなかったよ。どうやったらあれだけの正確な投擲が出来るんだい?」


う~ん、どうやってと言われても空間を把握して他の参加者に邪魔にならない軌道で投げ入れてるだけだし。ただ俯いた状態で手首のスナップだけでそれを行ってるからかなり異常に見えるとは思うけど大した事はやってないのよ?


「イヤイヤイヤ、それって大した事だからね?バスケットのノールックパスもびっくりだから。途中女子生徒が”もうコイツ一人でいいんじゃね?”って顔してたから。玉入れカゴに玉がぎっしり入った光景なんてめったに見れるもんじゃないから。」


いや~、照れるな~。ああいうただ無心になってやれるものって結構好きなんだよね、梱包材のプチプチ潰したりペットのブラッシングしたり。


「ペットのブラッシングは少し違うと思うんだけど気持ちはなんとなくわかるよ。ただ一人で黙々とやる作業っていいよね。俺の場合庭の草むしりをしてると似た様なテンションになるかな。」


あ~、それも分かるわ~、やっぱ天海君とは気が合うわ~。それより天海君、借り物競争で御呼びが掛かってたけどなんてお題だったの?因みに俺は”騒動の元”。


「ブフォ、体育祭実行委員会辛辣。それってほとんど個人指名じゃん。俺のは”気怠い人”。」


アハハハ、凄いピッタリ。でもその生徒も良く天海君の事知ってたね、この学園だと意外に難しいお題だったんじゃないの?


「それがそうでもないみたい。後で聞いたら各学年に一人はいるんだって。一年生だと松前君、三年生だと横田先輩辺りだったらしい。」


あ~、って二人とも喫茶止まり木の常連じゃん。あそこって変わり種カードに出てくる人物の巣窟じゃね?


「確かに。でも木村君が”騎士”ってお題で捕まってたのは分かるけど高木君が”フィクサー”ってお題で捕まってたのが分からなかった。」


あ~、多分お題を考えた奴も捕まえた奴も内部進学生だったんじゃないかな?康太君中等部時代は“陰の王”って呼ばれてたらしいから。それなりに有名だったらしいよ?


「へ~、意外。普通にまじめな男子生徒にしか見えないんだけど、人って色々あるんだね。」


いや、俺としては天海君がVツーバーやってる事の方が意外だけどね、普段のイメージからはかけ離れてるから。配信を見れば即納得するんだけど。


「それはほっといてよ。それよりもお昼だよお昼、午後からの競技もあるんだから早くお弁当にしないと。」


そうでした、天海君今日はコンビニ弁当なの?俺のお弁当少し摘まむ?

なんか体育祭って言ったらウチのメイドが張り切って作ってくれたんだよ。一人じゃ食べきれないからさ。


「そう言う事なら遠慮なく。俺はコンビニのおにぎりだったから。」

やいのやいの下らない事を話しながら教室へ戻る俺たちなのでした。



「”こちら放送委員会です。大会本部放送ブースよりお昼の放送をお送りします。

皆様午前中の競技、お疲れ様でした。本年度の体育祭も大変盛り上がっております。

本日は特別に体育祭ゲスト学園OB・OGのこちらの方々においでいただいております。本年度夏に行われますオリンピックロンドン大会に陸上男子二百メートルで出場されます大和陸上界の最速王伊達一馬選手と、陸上女子四百メートルに出場されます本条まなみ選手です。”」


「”陸上男子二百メートルの伊達一馬です。本日はお招きいただけましてありがとうございます。”」

「”陸上女子四百メートルの本条まなみです。今日の体育祭、大変楽しみにしていました、お招きありがとうございます。”」


「”伊達選手、本条選手、本当にお忙しいスケジュールの中お越しいただきましてありがとうございます。両選手の目から見て学園生徒の頑張りはいかがでしたでしょうか?”」


「”いや~、昨年も驚きましたが、学園生徒のレベルがさらに上がっている事に驚きました。特に女子生徒のレベルアップは目を見張る物がありましたね。桜泉学園高等部女子の各大会での活躍は学園OBとして嬉しく聞かせて頂いています。今回の体育祭ではその成果が遺憾なく発揮されている様に感じました。”」


「”そうですね、私もその事は強く感じました。桜泉学園と言いますとどうしても逃走王の高宮ひろし君や木村英雄君の事が話題になりますが、学園運動部全体のレベルアップは驚きの一言です。私の学生時代よりも数段上なんじゃないでしょうか?

この中から将来のメダリストが誕生したと聞いてもなにも不思議はないと思います。それほどに見事でした。”」


「”現役メダリストのお二人にそこまでおっしゃっていただけたなら、学園生徒も励みになると思います。ではお二人から見て注目された生徒などはおられましたでしょうか?”」


「”はい、やはり私たちは陸上選手なのでどうしても後輩たちの走りに目が行ってしまいますが、二年生の高宮ひろし君と木村英雄君の走りは別格でした。彼らならそのまま世界大会に連れて行ってもいい成績を残してくれるのではないでしょうか。それと一年生の林一真君、彼は凄いです、昨年度時点の高宮ひろし君や木村英雄君以上のモノを感じました。一年生と言う事でまだまだ伸びしろも感じますし、これからが期待できますね。あと名前が分からないのですが、玉入れで異常なほどの正確性で球をカゴに入れていた男子生徒がいましたよね?地味な競技ですが職人技の様なあの技能、凄く印象に残りました。”」


”私は二年生女子の双龍寺蓮華さん、石川縁さん、兵頭雪さん、でしょうか。この三人の速さは群を抜いていましたから。ただ他の生徒さんたちも非常に高いポテンシャルを発揮していたので、午後の競技も楽しみです。”


「”なるほど、お二人からの高い評価、この放送を聞かれている生徒たちにもよく伝わったと思います。生徒の皆さん、午後の競技も頑張ってください。”」



「ねぇ、佐々木君。さっき伊達選手が言ってた玉入れ職人って佐々木君の事だよね。」


だね~、まさか玉入れで褒められるとは思わなかったよ。あ、よかったらこのロールキャベツもどう?トマトソースでよく煮込んであるから味が染みてて美味しいよ。


「どうもありがとう。って言うか佐々木君の所のメイドさん作り過ぎだよ。三段お重って何人で食べる事を想定してるのさ。」


アハハハ、でも大丈夫なんじゃない?さっきから腹ペコモンスター共がお弁当の残りを狙ってるから。


「腹ペコモンスターって、ヒーッ!」


これより我が家のメイド特製弁当争奪ジャンケン大会をはじめる。量的に勝ち残り四人まで、欲しかったらこの俺に連続で勝ち残れ負けた者、あいこの者は着席と言う事で。

最初はグー、ジャンケンポン!


お昼休憩の二年Gクラスは、本日も大変賑やかなのでした。



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