第674話 彼と彼女の日常

”ガチャリ”

行って来ま~す。

玄関扉を開き元気よく外へ出る。今朝の天気は快晴、青い空がどこまでも続き気分を高揚させてくれる。

”今日は何かいいことがありそうだ。”そんな予感を感じながら門扉もんぴを開いて家を出た。


「おはようございます。今朝はお早いお出掛けなんですね?」


身体の動きを止め声がした方をそっと振り向く。そこには金髪碧眼の美女、お隣に住むジョアンナ・マーシャルストーカーの姿が。

あっれ~、おかしいぞ~。俺いつもより三十分早く家を出たよね?何でお隣さんがここにいるのかな?盗聴傍聴関係は全てシャットダウンしているはずだよね?もしかして出待ちかな?あまり無理するのは身体によくないですよ?


「いえいえ、たまたま私が家を出た時間帯にのっぺりさんが家を出られた、それだけですよ?でも家を出るタイミングまで合うなんてすごい偶然。もしかしたら私達って相性がいいのかもしれませんね♪

折角ご近所なんですし、今度良かったら我が家のパーティーにご招待したいのですがいかがですか?」


アハハハ、凄い偶然ですね。こんなに朝早く家を出られるなんてお忙しいんじゃないんですか?いつまでもおしゃべりで時間を無駄にしても仕方がありませんし、早く駅に向かいましょう。いや~、忙しいって大変ですよね~。

俺は急ぎ駅に歩を進めるのでした。

ストーカーえ~、全然慣れないわ。



揺れる車内、朝の通勤電車でおしゃべりに興じる男女。

「それでね、私言ってあげたんですよ。”ケイト、あなたはがっつき過ぎです”って。そうしたら彼女なんて言ったと思います?”ピザと男は熱々の方がいい、私はこの熱い気持ちを大切にしたいの。”って全く反省のそぶりを見せないんですよ?

でもそこが彼女のいい所でもあるんですけどね。ってこんな話し詰まらなかったですかね。ごめんなさい、朝から下らない事ばかりしゃべっちゃって。」


いえ、そんな事ないですよ?ケイトさんは良いお友達なんですね。どんな方なんだろうな~、陽気な人なんでしょうね。

俺は取り繕うような笑顔を浮かべそう答える。


「えぇ、ケイトはとても明るくていつも笑っている様な子ですよ。のっぺりさんも一度会った事ありますよ、バトルフィールドの時に一緒にいた背の低い方の子ですから。」


バトルフィールドの時の背の低い方ってキャットウーマンじゃん。あいつスーパーヒーローのくせに男に振られまくってるのかよ。しかもピザと男を同率で語るってどんだけ肉食?それじゃあストレス発散で夜の街で暴れる訳だよ。フロンティア連合の悪人さん方、ドンマイ。


「そう言えばのっぺりさんっていつもトレーニングとかどうしてるんですか?あれだけの身体能力を維持するのは並大抵の事じゃないと思うんですけど。普段学園に通われてる以外特別な事ってされてませんよね?」


あ~、トレーニングね~。俺って走り回る以外にこれと言ってやってないんだよね~。モデルの修行の一環で常に人の事を観察し人となりを想像するって事はしてるけどそれくらい?後はペットと遊んだりするくらいかな。


「それだけなんですか?やっぱり才能って奴なんですかね。」


あ~、才能だったら俺よりも木村君やひろし君の方が高いんじゃないかな~。俺の場合環境と状況がたまたまマッチしたってのが大きいかな。俺って回復能力が異常に高いんだよね。だからって調子に乗って目茶苦茶トレーニングをしてたら今みたいになったって感じ?どうしてこうなったのかは正直分からん。

あ、そろそろ到着だね。それじゃ、俺はこれで。お仕事頑張ってください。

俺はホームに降りるとスタスタと改札を出て、一度手を振ってから学園に向けて移動するのでした。



(side:ジョアンナ・マーシャル)


「のっぺりさん、いってらっしゃい。」


私は手を振り立ち去って行く男性を笑顔で見送ります。この私がこんな事をする様になるなんて、以前の私が見たら驚きで顎を外したかもしれませんね。


『お嬢様、お待ちしておりました。この後は支社の方でよろしいでしょうか?』

彼と別れた後、私はすぐに待っていたであろう社用車に乗り込み職場へと向かう。移動中の車内は部下から事業報告を聞く時間だ。


『その件については本社と連絡を取って社内会議に掛けてから返答をする様にしてちょうだい。それでスタジオS&Bとの業務提携の話しはどうなっているのかしら。あそこは多方面の事業展開をしているから興味を持ってもらえると思うのだけれど。』


『はい、現在スタジオS&Bは不良債権と化した元大手芸能事務所の立て直し事業に力を入れている様で、業務の海外展開までは会社規模的に手が回らないとの返答を頂いております。ただモデルSakiのフロンティア連合におけるマネジメント事業に関しては一定の理解を示して貰えました。スタジオS&BはモデルSakiと木村英雄と言う二人の逃走王の所属事務所となります。事務所としても逃走王の仕事であれば可能な範囲で受けたいとの意向を頂いており、その事は本人たちの了承も得ているとおっしゃっておりました。』


『分かりました。では私たちは二人の逃走王たちの海外窓口として取りまとめを行う方向で話しを進めましょう。それだけでもかなり大きな契約に成ります、しっかり話しを進めてください。』


『畏まりました。次に本社と共に進めています大和における化粧品の販売についてに成ります。』


私は部下の報告を聞きながら窓の外を眺める。どこまでも広がる青い空、この空の下であの人は今日も走り回っているのだろう。その走りを止めない様に彼の環境を整えるのはの務め。いつかあの人が私に振り向いてくれるその日まで、陰に日向にあの人を支えて行く事が私の役割なのだから。

ジョアンナ・マーシャルは使命感と共に胸に広がる温かな感情に、顔をほころばせるのでした。

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