第673話 hiroshi君、全国ツアー再び

今朝の芸能ニュースはこちら。アーティスト”hiroshi”、ファンに向かい謝罪。

先週より始まりましたアーティスト”hiroshi”全国公演ツアー、各会場のチケットは即日ソールドアウトの盛況振りで、”アーティスト”hiroshi”の人気の高さが伺えます。そうして始まったコンサートツアーですが、最初の開催地福岡会場においてチケットを買えなかったファンと購入済みのファンとの間でいざこざが発生、複数のケガ人が病院に運ばれました。

これを受けコンサート開始前にhiroshi本人より謝罪が行われた模様です。

「この度は多くのファンの皆様に不快な思いをさせてしまった事を深くお詫びいたします。今後はこのような事が起きない様、スタジオCherryとして全力で取り組んでまいります。今後ともアーティスト”hiroshi”をよろしくお願いいたします。」

マスコミ各社には彼の所属事務所より謝罪の文書が送られてきており、今後このような痛ましい事故が起きない様全力で取り組むとの事です。

アーティスト”hiroshi”のツアー中止などと言う事態に発展しない事を祈りたいですね。



おうおう、朝から気になるニュースが飛び込んで来たじゃないですか。やっぱり起きましたか、”暴動”。これを起こさない為にスタジオCherryのスタッフとウチの警備陣が頑張って来てたってのに、そのスタッフを排除しちゃったからな~。hiroshiに深く関わっていた人間ほど現在の体制に不満を持っているからってのは分かるけど、だからって排除しちゃうかね~。現場で踏ん張っていたのは彼女らだって言うのに。

西脇君のお母さん、その辺分かってないんだろうな~。このコンサートツアーも無事に済むのかどうか、事務所としては大変だろうな~。



(side:西脇亮子)


「これはどう言う事ですか?福岡会場に引き続き逢坂会場、名古屋敷会場でもファン同士の乱闘って今までそんな事は報告されていませんでしたよ?それに逢坂会場ではファンがステージに押し寄せようとしたって言うじゃないですか。幸いhiroshiは無事でしたが警備の方は一体どうなっているんですか?」


スタジオCherryの会議室では連日hiroshiコンサートツアーの対策会議が開かれていた。会議の中心である真田統括マネージャーをはじめ綜合警備会社の営業担当などhiroshi全国ツアー公演に係わる人間が一堂に会してはいるものの、具体的な方策が見いだせずにいた。


「西脇代表のお言葉、大変申し訳なく思います。今回の事態は我々全ての関係者がアーティストhiroshiのコンサートにおける警備を甘く見積もっていたという点が原因であったと思われます。こちらとしても原因究明の為これまでの警備記録を精査させて頂きましたが、あの人数でよくこれだけの規模のイベント警備を行っていたモノだと感心を通り越して呆れてしまったほどでした。現在の警備は以前からの警備体制と通常のアイドルコンサート警備を比較精査し導き出された体制で行っておりますが、とてもではありませんが対応しきれません。我が社の統括部が再調査の元算出した警備計画では警備規模は現在の四倍、海外のビッグアーティストが来訪公演を行った際のモノを参考にして最低限の状態であると言った結論に達しました。その際の予算ですが現在の六倍、スタジオS&Bが提示された予算の三倍は最低でも掛かると言うのが当社の見積もりに成ります。」


「な、どう言う事ですか?それに計算がおかしくないですか?警備の規模が四倍なのになんで予算が六倍にまで膨らむんですか。我々を馬鹿にしているのですか?」

憤りを隠せず声を荒げる真田統括マネージャー。


「はい、お言葉ごもっともだと思われます。ご説明いたしますと、現在行われているのは一般警備と呼ばれる体制です。警備員も当社の社員を中心にアルバイトなどを含めた人員で行っております。ですがこれではhiroshiファンの圧力には勝てないのです。その為質の向上が求められます。警備員一人一人に全国大会出場の現役アスリート並みの身体能力が求められるのです。つまり要人警護に当たるSPに匹敵する人員の確保が求められます。あくまでそれは理想ですので全部が全部そうした人員を確保する事は不可能ですが、それに近い状態を揃えようとするとどうしてもこれだけの予算が掛かるのです。また現在の人員で人数を増やした形で対応する事も不可能ではありませんが、それこそ警察が厳戒態勢を敷いたような状態になってしまいますが、いかがいたしましょうか?それでも予算の方はそこまで変わらないと思いますが。」


「それでは今までどうやってファンの制御を行っていたと言うのですか、真田統括マネージャー、その辺の調査は行っているのでしょう?」

思わず声を上げる西脇代表、真田統括マネージャーは部下から渡された調査資料を読み上げた。


「はい、これまでスタジオCherryが行っていた対策はファンの分離でした。実際にコンサートを見に来るファンとチケットが手に入らず諦めきれずに押し寄せるファンとを上手い事分けていた様です。具体的にはコンサート会場の選定の際、周辺にイベントを行えるスペースのある会場を選出、コンサートに合わせファン感謝イベントを開催、イベント会場でのライブビューイングを通じて観客を分けていた様です。その際イベント会場では様々なグッズの販売や食事の提供、ファンモラルの啓蒙を行いhiroshiファンの質の向上を図っていた模様です。」


「何ですかその至れり尽くせりは、そんなことまでしていたら我々の利益がなくなってしまうではないですか。前代表は一体何を考えていたんですか。」


頭を抱える西脇代表。これではスタジオCherryは慈善団体か宗教団体ではないか、我々は利益追求の芸能事務所ではないのかと。


「では真田統括マネージャー、統括部としての結論はどうなっていますか。」


「はい、結論から言いますと今後のhiroshiのコンサートは中止すべきと言うのが我々の意見となります。現在のコンサートスケジュールを中止する事は今後のスタジオCherryの運営にも関わってくるため推奨できませんが、以降はテレビやラジオなどの媒体を通じての活動に絞るべきではないかと考えます。」


真田統括マネージャーの言葉に難しい顔をして瞑目する西脇代表。暫しの沈黙の後、彼女は今後の方針を口にした。


「hiroshi全国ツアー公演が予定されている中央都会場、北海道会場周辺において物品の販売及びモニタービューが行えないかどうか会場主催者側に打診してください。会場警備に関しては現在の二倍の体制で対応をお願いします。多少のいざこざはこの際目をつぶります、事態が拡大しない様に物品販売会場なりへの誘導を行う様にしてください。

今後の”hiroshi”コンサートに関しては映画館や球場を利用してのライブビューイングで対応しましょう。その際の映像に関しては制作事務所等とよく話し合ってください。今は何としてもこの難局を乗り切るんです、皆気合を入れてください。」


「「「はい!」」」


方針は決定した。

思惑の外れた利益度外視のコンサート。

スタジオCherryの受難はまだ始まったばかりである。

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