第667話 終焉

立ち上る一筋の白煙、リン棒を振るいおりんを打ち鳴らす。

“チーーーン”

室内に広がる澄んだ鐘の

手を合わせ故人の冥福を祈る。


「わざわざこんな遠方まで申し訳ございません。」


「いえ、これも私の仕事ですので。」

俺は座布団から膝を降ろし、声を掛けてきた女性に向き直る。


「そろそろ半年になるって言うのに全然実感が湧かなくって、多分それで今回の様な事に・・・。本当にご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。」


「いえ、我々学園の方こそなぜこんな不手際が起きたのか。ご遺族の方の傷に塩を塗るような真似を、誠に申し訳ありませんでした。」


仏壇の前で互いに頭を下げる両者。

その様子が可笑しかったのか女性は笑みを漏らし、テーブル席への着座を促した。


“コトリ”

注がれた湯呑みからは仄かな茶葉の香りが広がる。

「あの子がいなくなったってのがいまだに信じられないんですよ。私の中ではあの子は元気に生きていた。それこそ難関の私立桜泉学園高等部に合格して、学生寮に入っている。そんな風に思っていたんですよ。冷静に考えればそんな事あるはずはないんですが、そうやって自分を誤魔化す事でこの子を失ったショックから自分を守ろうとしていたのかもしれません。

こないだもね、あの子が突然電話をしてきてくれたんですよ。私の声を聞きたくなったって言って。何事かと思いました、学園でいじめにでもあってるんじゃないかってね。でもあの子は学園ではみんな親切で上手くやってるって、自分の事よりも私の心配ばかりして。長生きしてくれって、大好きだよって、言ってくれたんです。

変ですよね、こんな話。でも私思うんです、あれはあの子なりの別れの言葉だったんじゃないかって。

自分は大丈夫だから私にも一歩足を踏み出してほしい、そんなメッセージだったんじゃないかって。」


目の前の女性、菊池洋子さんの母親はそう言うと、仏壇にあげられた娘の遺影に目を向けるのでした。


「では私はこれで。振り込まれました入学金と前期授業料は、先程お伺いした口座の方に間違いなく返金させていただきます。それとこれはお渡しするかどうか迷ったのですが。」


俺は胸ポケットから一冊の学生証を取り出す。そこに貼られた身分証写真には、緊張した顔の菊池洋子さんが桜泉学園高等部の制服を着て写っていた。

口元を押さえ嗚咽を漏らす女性。

「あの子は・・・幸せだったのでしょうか。」


「分かりません。ただ・・・」

俺はお母さんの目を真っ直ぐに見詰め答えた。


「菊池洋子さんは確かにそこに生きていた。形はどうであれそこには彼女の青春があった。全ての人々がその事を忘れようと、俺だけは決して忘れる事はありません。絶対に。」


俺は一礼をするとその場を後にした。残された女性は、去っていく青年の背中をいつまでも見詰め続けるのであった。



“ドゴンッドゴンッドゴンッドゴンッドゴンッドゴンッドゴンッドゴンッ”


打ち付けられるこぶし、止まる事のない連打。その重く激しいこぶしの一打一打がいにしえの神の神核を正確に撃ち抜き彼の存在を破壊していく。その者の拳は龍の牙、そのあぎとに咥えられたモノに逃げるすべはない。そこにあるのは絶対なる破壊。咀嚼され、噛み砕かれ、全てを失う逃れようのない絶望。


“ドゴンッドゴンッドゴンッドゴンッドゴンッドゴンッドゴンッドゴンッ”


終わる事のない嵐のような蹂躙は彼の存在の全てを叩き潰し、そのモノはもの言わぬ案山子となった。


人の死とは何か。それは状態の変化と言えるだろう。肉体は土に帰り、魂は涅槃へと旅立つ。あの世で休養を終えた魂は再び現世に戻り新たな肉体を得て新たな人生を始める。

では神の死とは何か。神とは意思を持った現象だ。その信仰の有無に関わらず神は神であるがゆえに神なのだ。そこに人の意思は関係ない。故に神に死と言う概念はない。消滅し、その存在が失われようと、いずれ形を取り戻し再誕する。神は現象であるがゆえにその有り様は権能と言う形で現れる。再誕し新たなる存在となろうとその有り様は変わらない。

故に神は不死身であり不死である。


“我が神よ。今ここに失われようとしている神よ。その身が壊れ失われようとそれは死にあらず、悠久の時の中で再誕し、再びロキとしての姿を取り戻すであろう。何故なら神とはその有り様、現象そのものであるがゆえに。ならばその有り様が変化したモノは元の神足り得るのだろうか。”


“ズオズオズオズオ”

修羅おにの手から闇が伸びる。闇は広がりロキの全身を包み込む。


“古き血を引き継ぎしいにしえの神よ。その血ゆえに混沌と混乱を引き起こせし遊戯の神ゲームマスターよ。

その権能は失われた。

再誕し、新たなる神性として現象を紡ぐが良い生まれ変わらんことを。”

<<再誕再臨ゴッドブレイク>>


周囲一帯を眩い光が包む。

その光が治まった時、そこには小さな光の玉が浮かんでいた。


“エリザベス”


「はい、ご主人様。」

それはそこにあった。死そのものと言うべきナニカはうやうやしく修羅おにこうべを垂れるのであった。


“これを伊邪那美命様のもとへ”


「畏まりました。」


ナニカは宙に浮く光の玉を懐にいだくと、静かに闇の中へと消えていった。


“因果応報。

人は弱い、神と人との間には決してくつがえす事の出来ない隔たりがある。

神の試練、神々の遊戯。面白半分に弄ばれた人間達。

その業はながきに渡り積もり積もってある現象を引き起こす。

修羅おにの誕生。

遊戯子どもの時間は終わった。

神々愚か者どもよ、再誕の時だ。”


“ブワッ”

突如吹き荒れる質量を伴う力の奔流。それはある意思のもと一点に向かい立ち上るのだった。



(side : 神動画チャンネル視聴者)


名無しの神性>

なぁ、ロキ様負けちゃったんだが・・・。

名無しの神性>

ごめん、展開が凄過ぎてついて行けてない。

名無しの神性>

今北産業、誰か教えてクレメンス?

名無しの神性>

配信運営ロキ様だった。

人間がロキ様ボコッた。(神の試練)

人間がロキ様(本体)を呼び出してボコッた。←今ここ

名無しの神性>

サンキューちゃん、って意味が分からない。

名無しの神性>

安心して、私も分かってないから。

名無しの神性>

あ、ロキ様何か黒いのに包まれちゃった。

名無しの神性>

人間が何か言ってる。“ゴッドブレイク”?なんだそりゃ?

名無しの神性>

ギャーーーーー!!

名無しの神性>

ギャーーーーー!!

名無しの神性>

目が~!目が~!

名無しの神性>

ふっ、愚か者どもめ。こんな事もあろうかとサングラス装備の私、大勝利ってなんじゃありゃーーー!!

名無しの神性>

はぁ~、酷い目にあったって何あの光の玉?

名無しの神性>

多分ロキ様。さっき権能を奪うって言ってたから、実質全くの別神。性格も人格も変わったと思われ。

名無しの神性>

それって実質的な“神殺し”じゃね?存在が変えられちゃったんだよね。

名無しの神性>

恐らくその辺の野良神と同等の存在にまで格下げされてる模様。もはや実質的な殺神。

名無しの神性>

・・・・ええええええ!!

名無しの神性>

・・・・ええええええ!!

名無しの神性>

人間怖い、人間怖い、人間怖い!!

名無しの神性>

また人間が何か言ってる。“子どもの時間は終わった。愚か者どもよ、再誕の時だ。”って一体?

名無しの神性>

うわ~!!何か来た~!!

名無しの神性>

ギャーって何ともない?何かに覆われた気がしたんだけど。

名無しの神性>

バカ、自分の身体をよく見てみろ。“祝福”を掛けられてるぞ!

名無しの神性>

品行方正の祝福?自分自身を見詰め直し、より自身を高めましょう?

名無しの神性>

げ、これって鍛練モニタリングの奴じゃん。努力すれば能力アップ、サボれば能力がどんどん下がる奴。人間がヒーコラ良いながらダイエットに励んでた奴。

あ、期限設定がある、期限は三年か~。俺らにとっては短いな。

名無しの神性>

これって警告って奴なんじゃない?いつでも殺れるぞって言う。でもそう言うのは投稿運営者に言って欲しいよねって何か捕まってる。

名無しの神性>

アイツらって投稿運営者じゃね?結構いるな。

名無しの神性>

さっきの死を振り撒くナニカが配下を引き連れて現れたんですけど!

一人一人棺桶に閉じ込められて連れて行かれちゃったんですけど!!

名無しの神性>

人間怖い。取り敢えず今日から筋トレ始めます。


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