【コメディ】とびらひざ蹴り
「俺の目の前に好きな子があらわれるー--っ」
俺の叫び声は、昼の屋上に大きく響き渡る。
その声は遠くのほうへ細くたなびき立っていき、小さな山にぶつかったのか
ぶつかってないのか、とりあえず分かったことがある。
「嘘じゃないか」
蒲焼中学校の屋上では、告白するとそれが真実になるって言い伝えを試した。
恥を偲んで試した。なんでかって、俺には好きな人がいないからだ。
好きって言葉すら意味がわからない。俺には姉がいるし、母親もいるが、父親がいない3人家族。そう、女系家族。たった一人の男である僕は、我が家の女性に頭があがらない。だから女性っていうものは痛いほどよくわかる。どれくらい痛いかっていうとそうだなぁ、飛行機の着陸時に思いっきり俺の顔にタイヤが突っ込んでくるぐらい痛い。もう痛いどころじゃないかそれ。でもまぁそういう感じだ。
カラスの鳴き声が妙にむなしくしてくる。帰って夕飯の手伝いしなくちゃなぁ。
俺は無性にこの場から立ち去りたくなり、扉に膝蹴りをくらわしながら開けられることを知っていたので、それをやった。
そしたらその扉はいきなり開き、少女に膝蹴りをくらわしていた。クリーンヒット。我ながらやるものだ。
しかし、少女は悶絶、のたうち、足をじたばた。
「あぁ……やっちまったぜ」
「ゃ……そうじゃないでしょ」
絞って出した声だった。
辛酸と苦痛を味わった少女は真っ青な顔をして汗をかき辛そうだ。
冷や汗と熱い汗を肌に感じた俺は地に這いずる少女に謝罪を忘れていた。
「すんまそん」
空耳ですみませんって聞こえる荒業を投げかける。
少女はふるふるしてる。ふるふるしながら……そして、
俺を殴ったんだ。はじめて宙をまったよ、ママ。ありのままに殴られたよママ。
わずか数秒なのにスローに感じるぜ、これが俺の真価なのか。ああっ、ちきしょーいてぇ、でもなんだろうこれは、この感情は。
俺は思いっきり廊下にたたきつけられた。
そして少女は恥ずかしがりながら僕に言った。
「……産まれちゃうじゃない」
「う、宇宙人か。そんな方法で、俺は不純異性交遊してしまったのか」
「あら、そうでもないわ。付き合えばいいじゃない」
……なんそれ。
「なしよりのありというべきか、ありよりのなしというべきか。いや基本はないといいたいが、ありと言っておかないとこの先、この宇宙を感じてそうな女子にどこかへ連れてかれ、人体解剖されかねん。 ここはあえて従うか。うん、付き合おう」
「……ぇ。それってこここここここここ、こくはく? ば、ばっかじゃない? 女の子に嘘の告白すると捕まるわよ」
急にこの宇宙少女は頬をチェリー色に染めた。
「え、そ、そんな法律がっ。ハムラビ法典から武家諸法度まで隅々まで読みつくしたこの法律家の無頼漢であるこの俺がっ」
「まぁ、ルールなんていらないっていうのね」
「いやいやいや、罪刑法定主義のこの世の中にそれは、無理というもんがあるでしょ」
「まぁっ、私は罪な女といいたいのね。わかったわ、付き合いましょう」
ん? いままで、弁解するのに必死だったが、よく見れば超美少女じゃないか……超美少女の宇宙人か……。
宇宙的少女は俺にテレパシーを放った。
「あ、仕返ししなきゃ」
そういって彼女は俺に手を重ね……るようにしてしっぺをくらわした。
「はい」
初めて、俺は少女に太陽があるって知ったのだった。
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