【コメディ】けれどもヴァレンタイン

 バレンタイン、それは甘い響きだ。だが、私はあまり好きではない。女の子からチョコレートをもらったらお返しをしなくてはならない。しなければいいじゃないかという輩もいるが、女子が手作りで作ってきたものもあるし、お返しをしなくてはならない。よって、この日は存在を消すに限る。

つまり屋上の裏に隠れよう、これで全て解決だ。

学校のチャイムが鳴り、授業が始まる。

ふふふ、私が学校に来てると知っている人間はそんないないはずだ。

仲良くしている用務員のおじさんぐらいだ。はははははは。

バタン、という大きな音を立てて扉が割れたかのような音がした。

物騒な人だ、誰もここにいないと思っているのか。

「きょうすけーいるんでしょ、あんたーわかってんだからね」

ふむ、一番まずい相手にバレてしまっていたようだ。とはいってもここにいることはバレまい。なにせ屋上のう

「みぃつけた」

ショートカット姿の彼女が風に揺れて逆光の整った顔はすぐ怒った。

「あんたねー、そんなとこにいたってすぐわかるんだから。幼馴染舐めないでよね」

「いや、君から逃げようとしたわけじゃない」

「あんた、私の名前は君じゃないわ」

「あげは君から逃げようとしたわけじゃない。それは世界が三転倒立しても僕は脚立の上で倒立して否定しよう」

「またわけわからない事いわないでよね」

そういうと彼女はどこからともなく筒状の何かを出した。

「あげは君だって理解できないことをするじゃないか」

「うるさいわね! あんたよりマシよ。昭和貴族のおぼっちゃんぶっちゃって」

「そういうなら関わらなければいいものの。君のそれは、どうせアレなんだろう」

「わるい?」

そういうと彼女は筒状のものを僕に向けて構えた。

ボスン。勢いめがけて僕の顔にかかったそれは甘い匂いが漂ってきたそれだ。

「あ」

「なにが不満なのよ、私のチョコレートよ」

もう一発。

「い」

「ああああああああいいいいいい?バカなこといってんじゃないわよわよ。ばかああああ」

続けてボスン。ボスンボスンボスンボスンボスンボスン。

「し」

ボスンボスンボスン。

チョコレートまみれになっていくよ、僕の身体が甘くなって。

「きっと冷蔵庫にはいれば僕はチョコレートになるな。ははは」

「なあに笑ってんのよ」

ボスンボスボスボスボス。

チョコレートバズーカーにまみれていく自分。

「もうなにがなんだか」

「最後にもう一発あんだからねー」

ぽすっ。

そんな優しい音をたてて、ハート型の小さなチョコレートが

僕の口の中に吸い込まれていった。

「どう? 私の気持ち」

「うーん、デリシャス」

彼女に向ってサムズアップ! 彼女はホールドミー!

「授業はもういいのかい?」

「あなたのせいで私もさぼりよ」

僕とキミとで今日は甘い記念日。

「き、みじゃないわよ!」

え、えすぱあですかっ!

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