ショートショートの空

新浜 星路

青春ショートショート 【夕顔】

カーテンから覗くうっすらとした光が僕を照らしてた。

 昨日の真奈美の笑顔が浮かぶ。今日はいい日になりそうな気がする。

 学校に登校して、下駄箱で靴を脱ぐ。

「あ、ゆーじ君」

呼ばれた方を向けばやっぱり真奈美だった。子供のような顔に大きな瞳でいつも僕を呼ぶ。部活のために、ショートヘアにして、少し小麦がかった肌に、少し年齢の割には大人びたスタイルをした彼女。

でも、眩しい笑顔を向ける真奈美は目がどこか違和感があった。

別に様子がおかしいわけでもない。だけど、僕はなんとなく、このままでいいのかな

と思いつつも「よっ」と、軽く挨拶しただけで真奈美を目で切った。

いつもならそんな感じで終わるひとときも、今日は違った。

右手に強く圧力がかかる。けどどことなく優しい温かみ。

「ねぇ、ちょっと。ゆーじ君。放課後時間ある?」

やっぱり何かあるな、これ。愛の告白とかそういうもんじゃないな。

といっても、真奈美から言われて断れる理由もなく

「うん」

とだけ頷いた。


放課後の学校。廊下にまで漂う焼却炉の焦げた匂い。古びたほこり臭い廊下。

それを感じさせるのは、僕しかここにいないからかもしれない。

緊張する、教室には多分、真奈美がいるから。

扉を開けると、教室には真奈美が薄暗い教室内からの夕日に顔が半分照らされていた。

「ごめんね、今日は」

どことなく乾いた笑顔で僕を見る。

なんだ、やっぱり良くないことじゃないか。僕はもう悟った。

だから、こういう時は。

「うぐっ、ごめんなさい」

分かっていても彼女の涙や声は僕の心にガラスのように突き刺さる。

痛い、痛すぎる。

何も話を聞いていないけど、なんとなくわかる。

けど、僕はどうしていいのかわからない。

「どうしたの?」

本当は聞きたくない。絶対に痛い。辛い、泣きたい。そうなるに決まってる。

「らんぼう……されちゃった」

「なんとなく、わかってた」

辛いし痛いけど、真奈美を悲しませたくなかった。

「怒んないから」

「ほんと?」

彼女は滝のような涙と洟声で顔のいろんなとこを紅くしながら震えた。

「ほんと」

決して、辛くて痛くて死にたくて、どうしようもなくても、今が踏ん張り時だと自分にいって、めいいっぱいのはっきりした声で言う。

「うん」

夕暮れが気が付けば夜に近づいてた。カラスの声がどこかで遠のいていった。

カラスの声は僕らに光をくれるのかな。

僕は真奈美の髪をすくように髪を撫でた。

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