16話 ヘケト
「は?」
「30分だけでいいんで、お願いします」
「…良いだろう。30分だ」
よかったー。
「ロイ、ついて行け」
「え?」
「お前が逃げるかもしれないだろそれを防ぐためだ」
「あの…食事ぐらい一人でさせてくれないですかね?」
「逃げない保証はあるのか」
「いや、無いですけど」
「ならそれは無理だ」
理不尽だ…。…なら
「もし無理って言うなら…この話は無しだ。お前たちには手は貸さない」
「ほう?」
流石にこれにハマるやつは居ないか、大人しくこのまま説明を聞くか…。
「分かった。ただし15分だ」
ちょっろ。
※ ※ ※ ※
「来たか。なら説明を始めよう」
女は口調を強めてなにかの話を語り始めた。
「時は遥か遠い昔、このリト砂漠には何もなかった…」
御伽噺か何かか?
「あるとすれば、ただ一つの大きな湖…ヘケトの涙だけだ。ヘケトの涙はま、だリトに何もなかった頃、人々は飢え、干からびて死んでいった、そんな姿に涙した神ヘケトが生み出したものである。ヘケトの救いによって人々は生きながらえやがて国へと大きくなっていった。だがそこにもう一つの国が出来た…、それが今のリト王国だ。リト国は元々リトの砂漠に住み着いていた権力を振りかざすクズどもの集まりだった。そして彼らは言った、『このリト砂漠は我々リト王国の所有地だ』と。名前を同じリトにしただけで奴らは自分たちこそがヘケトの涙の所有者だと言った。勿論それが許せるわけもなく彼らはリトの民に歯向かった…、だが権力が物を言う時代それが通用するわけもなく彼らはヘケトの涙を失った。今のリトは世界を支える国の一つにもなりつつあるがこれを聞いてもそれが許せるか?」
「……」
「どうした、言葉も出ないか?」
「それだけか?」
「…? なんだと」
女は強い口調で言った。
「追い出された彼らってのは、今のヘケトの民だよな?」
「そうだが?」
「追い出されて大切な湖さえも失った…、たしかに恨むようなことかもしれないが今は平和な国を築いている、それでよくはないのか?」
「…!? 貴様、ヘケトの人々がどれほど苦しい思いをしてきたか…」
「ちょっとちょっと!? ローザ姉さんやめてくださいよ!」
「俺にはわからない、たとえ辛い思いをしてもそこで全てが終わったわけじゃない、今幸せなら何でも良いと思うんだよ」
こういった性格だからこそ友達が出来ないのだろうか、それと友だちが出来なかったからこういう性格になってしまったのか。どちらにせよ卑屈な性格であることに変わりは無い。ミカゲが言っていることは妥協をしてでも結果が良ければ全て良し、ミカゲにとって間違っては居なくとも見様によっては大間違いだ。
「腕の立つ奴がいるって聞いたのに…、こんな奴に頼るんじゃなかった…」
部屋の空気はとてつもないほど悪い。だが、そんなときでもお構い無しで飛び込んでいくのがミカゲの得意分野だ。
「で?」
「はぁ?」
すでにブチギレているローザ姉さんに特大ストレートをかます。ホントに…空気の読めない奴だ…。
「だからー…、俺の仕事は? そのために呼んだんでしょ?」
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