始まりの時

綴。

第1話 始まりの時

「もう、今日からおてては繋がないの!」

 新しい靴を一生懸命履きながらみぃちゃんが言う。


「どうして?」

「今日から一年生だもん!」


「そっか。偉いね!」

「うん!お姉ちゃんだもん!」


 入学式へ出かける朝、新しい制服を着て、黄色い帽子を被って、みぃちゃんは笑顔で言った。


「危ない所はちゃんと止まって、車や自転車が来ていないか見なきゃダメだよ。」

「もうーパパ、わかってるって!」

「そっか」

 パパは少しだけ寂しそうに苦笑いをした。


 桜の花びらが風に吹かれて、ヒラヒラと紙吹雪のように舞った。


「ぅわぁー、綺麗!」

「ほんとだねー、綺麗だね!」

 パパはみぃちゃんの足元ばかりを気にして。


「みぃちゃんが一年生になったからお祝いしてくれてるのかなぁ」

 私はヒラヒラと舞う桜の花びらを見つめながら、空を仰ぐ。


「ぅわぁー、お空からいっぱい降ってくるねー!」

 みぃちゃんはとびきりの笑顔で両手をいっぱいに広げて、空を見上げた。


「あっ、そっかぁ!おばあちゃんだ!」

「ん?おばあちゃん?」

 みぃちゃんの言葉を聞いて、パパは不思議そうにしていたけど。

 私にはわかっていた。


 車椅子に乗ったおばあちゃんと一緒に散歩をした道。

「次に桜の花が咲いたら、みぃちゃんは一年生だねぇ。凄いねぇ。お姉ちゃんだね!」

 おばあちゃんが枝だけの寒そうな桜の木を見上げながら言ってたなぁ。


「そっか。みぃちゃん一年生になったらお姉ちゃんになるのか」

「そうだよ!お祝いしなきゃねー!」

「お祝い?!ぅわぁー楽しみっ!!」

 みぃちゃんはワクワクした顔でおばあちゃんと話をしていたな。




「おばあちゃーん!ありがとー!」

 大きな声でお空に向かって、みぃちゃんはお礼を言った。

 少し寂しい気持ちになったけど。

 見上げた空は、青く清んでいて、始まりの時を祝福してくれている。

 舞い散る桜の花びらが一枚、ふわりとみぃちゃんの黄色い帽子にくっついた。


 私はにっこりと微笑んで、携帯で写真を撮った。



「ママ、お空ばかり見てると転んじゃうよ!」

とみぃちゃんは私の手を握った。

「パパ、早くいくよ!」

とパパと手を繋いだ。




「ママ、転ばないようにね!」

「はい、ありがとう。」


 パパと目が合って、ふたりで微笑んだ。


 少し大きくなった私のお腹。


 桜の花びらの祝福を浴びながら、私達は手を繋いで小学校へと向かって歩いて行く。



 みぃちゃんは今日から一年生だ。



  了 

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始まりの時 綴。 @HOO-MII

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