第249話 吉岡長増、桃李満天下

九月八日 午三つ刻(1200) 筑前 津屋崎 第一艦隊 小佐々純正


宗殿の軍勢の上陸が終わり、筑前岳山城へ向けて進軍したところだ。第一軍から岳山城の攻城軍を、味方(第一軍)が対応できていない箇所より攻めてほしいとの要望があった。第三軍のみ遅れているが、それでも明日九日には現地に向かえるはずだ。


まだ岳山城落城の知らせ、第一軍が敗走したとの通信は入っていない。なんとか間に合った、とホッと一息ついた時であった。


なに!!??木崎原で

伊東軍が大敗?相良も援軍として向かっておったと?


早すぎる!だーかーら!早かったり変わらなかったり、変わる歴史がどれか先に教えてくれよ!確か四年後くらいじゃなかったか?貴久が死んですぐに攻め入るなんて、これは準備していたとしか考えられん。しかもこの刈り入れの時期に。


いや、三千ならありあわせの兵力か。


たしかに兵力は史実と変わらないようだ。それにしてもこれで伊東の斜陽は免れない。おそらく抵抗はするが、ほどなく肝付も島津に服属する。そして薩摩内で抵抗していた菱刈、入来院、東郷らの国人も傘下に加わるだろう。


幸いにして合戦には加わらなかったものの、伊東と組みしていた事は筒抜けだろうし、島津の攻勢は避けられない。一難去ってまた一難。今島津に回す兵力などないが・・・。いや、島津とてすぐに北上など出来ぬはず。


大隅の肝付はゆくゆくは降るとしてもまだ健在だし、仮に降ったとしても日向の伊東もいる。南肥後と同時に攻める事は出来ないだろう。まずは大隅、そして肥後にくるか日向にくるか、だな。


まったく。


「ハツ ソウシ アテ ヒトシ ヒメ エングンハ ジヨウリク シユウリヨウゴ タケヤマジヨウニ ムカウ イカウ シキケンヲ ヒトシニ イジヨウスル ワレ ノコリノテキジヨウ セイアツト ウスキジヨウ カウリヤクニ ススム ヒメ マルハチ ウマサン(1200)」


今の俺の戦略としてはこうだ。


第一軍と援軍で道雪・臼杵軍を岳山城に足止めし、艦隊は山鹿城から小倉、門司、松山を攻撃し奪還。これは海軍の兵で行い、花尾城の麻生氏とも連携する。長くは時間をかけられぬが、兵数は同じになるので岳山城も落ちる事はないであろう。


豊前諸城を第四軍と第二軍の合同軍に任せ、南下して臼杵城を攻める。艦砲射撃と同時に海上からの上陸も行い、第三軍と第五軍の城攻めを援助する。


総力戦で筑前と豊前では劣勢だが、それは単に兵力の差と道雪・鑑速・鑑理の力によるところが大きい。だがそれも時間とともにわれらが優位にたつ。厳に損害は大きかったものの香春岳城は落ち、道雪・臼杵軍は孤立しつつある。いや、孤立している。


そういう算段をしながら考え事をしていると、俺に会いたいという人がいた。


「申し上げます。大友家臣、吉岡左衛門大夫様がお見えです」。


なに?この期に及んでなんだ?まさか和平の申し出だろうか。

「通せ」

俺は間違いなく和平の使者だとわかってはいたが、会う事にした。


「初めて御意をえまする、吉岡左衛門大夫長増にございます。弾正大弼殿におかれましては私の挨拶に耳を傾けていただき、心より感謝申し上げます。この場を借りて、深く敬意と尊敬の念を表すとともに、弾正大弼殿の高い知識と卓越した指導力が、領国の安寧と発展に貢献してこられた事を心から讃えます。・・・」。


「世辞はいいです。和平の使者にござるか?」

話をしている長増を途中でさえぎり、俺は聞いた。


「は、さようでございます。われらの領国では、お互いに解決しなければならない重要な課題が山積しておるのではないでしょうか。そのため私は困難を乗り越え、両家に繁栄をもたらすために、協力し合う道を選べると信じております」。


「これまでの対立や分裂を超え、真の和平を築くための架け橋となるために参りました。互いの違いを尊重し、対話と協議を通じて解決策を見出し、共に前進してまいろうではありませんか」。


うーん、もっともらしい事を言ってはいるが・・・。


例によって次郎兵衛には留守居役を頼んできたが、直茂と弥三郎、それから庄兵衛の戦略会議室のメンバーは念のために連れてきた。


「直茂、どう思う?」

「そうですね。一理ある事・・・は、あります。しかし、それだけで和平となると弱いような気もしますが」。

「そうだな」


俺はそのままの考えを長増に伝えた。

「うむ。左衛門大夫殿の言い分はわかりました。して、今和平をして、われらにどんな益がありますか?」


「ございまする。まずは、無駄な損害をなくす事が出来まする。そしてどれだけ後で補おうとも、領民のうち家や家族を失ったものは、もとには戻りません。それから銭の問題もございます。戦をするにはまずもって銭がかかります。これはわれらだけではなく、弾正大弼殿も同じではないでしょうか」。


しかし弁がたつなあ。


「なるほど。確かにそうですね。銭もかかるし、戦になれば人も死ぬ。だから、われらは自ら攻め込んでの戦はしてきませんでした。今までの戦はすべて自衛のため。領土を侵されるか、そのおそれがあった時のみ。あわせて盟友から助けを求められても同じ事です」。


長増は反論、ではないが発言してきた。

「では、こたびの戦も自衛のためと?豊前の杉と筑前の麻生は、弾正大弼殿とは盟約を結んでいなかったと思いますが」。


俺もそれに応じる。

「確かに直接の盟は結んでおりませなんだ。しかし援軍を送らなかったとはいえ、毛利とは不可侵の盟を結んでおりました。その庇護下にあった杉と麻生より助力の求めがあれば、助太刀するのが道理ではありませぬか?われらに服属を申し出てきたのです」。


長増は目をつむり、考え込んでいる。


「との」

と弥三郎。

「なんじゃ?」

「先にお知らせしておきたい儀がございます」。

「申せ」


は、と前置きした後に弥三郎は小声で続ける。

「銭の事にございます。戦をする前から、三月の爆破の件もあり、膨大な費用をかけて修復してまいりました」。


うん、そうだな、と俺はうなずく。・・・?銭がどうした。まさか・・・。

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