第227話 第二艦隊戦記 角力灘ヨリ五島灘へ

九月四日 未三つ刻(1400) 長崎 第二艦隊旗艦 姉川 延安准将


当然わが艦隊にも出撃命令がくだされた。小佐々海軍の全艦艇総動員で大友にあたるようだ。そして艦隊総員乗艦し、五島の宇久様と合流するため、福江の湊へ向かう。現在総員に伝達し、矢弾や軍需物資の積み込みをしているところだ。


戦時ゆえ半舷上陸(乗組員の半数ずつの上陸/休暇)になっているが、それでも急いだとして完了するのは夜になる。出港は明日、九月五日の卯の三つ刻(0600)以降になるだろう。


明日は朝から北の風だ。長崎を出港したばかりは7ノット程度だが、角力灘から五島灘にかけての洋上で15ノット前後までいく。福江に近づく頃には10ノット前後までになるが、到着は未一つ刻(1300)ごろ、遅くても未三つ刻(1400)ごろにはなるだろう。


こういうとき、経験のある小佐々水軍や五島水軍出身者、漁師出身者が士官や兵にいるのは心強い。なんでも南蛮渡来ではなく、日の本で艦を動かすには、日の本の民の経験と技術も必要なのだ。


第一艦隊は北の風であるから、壱岐までは距離もあるし、いずれにしても平戸あたりで一旦停泊せねばなるまい。各艦隊で現場につく時間に着くのに違いが出てくるぞ。特に塩田津の湊まで行って戻って津屋崎に向かう第三艦隊は、一番遅くなるであろう。


もっとも今回は海戦よりも、兵の輸送が主な役目になりそうだ。宗どのか、宇久どのか、それとも後藤どのをはじめとして親族衆か。どの部隊が最初に上陸するかが争点に事になるな。


兵力で比べれば三個艦隊の海兵(ここでは白兵戦要員)をあわせても※道雪・※臼杵軍より少ない。まともにぶつかれば、かなりの損害は免れぬな。ただし大砲と鉄砲をどう運用するかによっても変わってくる。


われらは鉄砲の保有数でも群を抜いておるからな。普通の大名の倍は持っておろう。


五島への殿の援軍要請は、我が艦隊が持っていく。これから発信したとて夜間になるので、我が艦隊が持参してそのままお伝えするのが一番早いのだ。何か海上で早い伝達方法はないものか。


現状としては海上の島に信号所を増設すれば船で行く手間が省ける。今回の宇久どので言えば、蛎浦島と江島、そして江島と平島間はどうしても船が必要だが、それ以外は信号でのやり取りが可能だ。


陸上での信号通信にばかり目がいっていたので、海上通信がおろそかになっていたのだ。確かに頻度は少ないかもしれないが、五島や対馬に迅速に信号が送れたら、かなり戦略的優位にたつことができるだろう。


海路で文をわたすのは実際に一刻半ほどだから、その時間を足してもほぼ陸路と変わらぬくらいの速さで送る事ができる。


長崎から五島の福江までは最短距離でいくと島がない。風さえあれば朝出れば夕刻にはつく距離だ。しかし、殿が時々言うヒトゴーマルマルとかフタマルサンマルとはいったいどんな意味なのだろうか。何かの暗号か?

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