第223話 純正ノ決断、出撃ス

九月四日 午三つ刻(1200)小佐々城 小佐々弾正大弼純正


兵力はかなりこちらが優勢かと思ったが、豊前戦線とそれ以外で、予想どおり戦果が分かれてきた。豊前の戦況はかなり悪い。


・※豊前松山城、※門司城、※小倉城陥落

・※山鹿城陥落

・筑前岳山城へ※立花、臼杵軍進軍の恐れあり

・香春岳城にて立花鑑載、高橋鑑種戦死


・筑後下高橋城にて筑紫惟門戦死


第三、第四、第五には指示を出した。その後、予測通り戦況は進んでいる。問題はない。しかし豊前の立花軍は連戦連勝で、各地の土豪を糾合して増える一方だ。中小の土豪には筑後や肥後、豊後の状況は伝わりにくいのだろう。


現に豊前筑前の北部では、『さすが※道雪やはり頼るは大友よ』と、そんな雰囲気が蔓延している。香春岳城も落とせたわけではないから、敵にとって、目に見える劣勢ではない。


無論、道雪や※鑑速などは状況をよくわかっているだろうから、局所的な勝利と認識しているだろう。これは、忍びを使って積極的に筑後や肥後、豊後の動静を知らせて、兵の士気を下げる必要があるな。


「千方!いるか?」

「石宗衆、これに!」

千方は不在のようだ。


「石宗衆は筑前豊前の敵方、日和見の土豪に、筑後、肥後、豊後の動静を流せ!こちらに不利な情報は流すなよ!」

「ははあ!」


香春岳城の五千は多少減って4千五百ほどになっているとしても、立花臼杵隊は無傷。それどころか一万六七千~には膨れ上がっているだろう。対してこちらは二千前後の損害で、両軍あわせても一万四千。


おそらく山鹿城落城のしらせは第一、第二軍にも届いていようから、宗像どのは気が気ではないであろう。もともと兵力では敵が優位だった。そしてそれが、さらに広がった。武装の面で覆せるかと思ったが、なかなかどうして、手強い。


いずれにしても、最終的には宗麟を屈服させて、豊前も降伏させようと思っていた。


しかしこちらの動きより道雪が早すぎる。このままいけば宗像どのはおろか、他の筑前の国衆の士気にも影響を及ぼす。そうなればわが軍からは脱走兵が相次ぎ、将の離反も出てくるかもしれない。それだけは防がねばならない。


みんな俺を、小佐々を頼って服属したのだ。


・・・。


前世でもそうだったが、人に借りを作りたい人はいないだろう。いずれ返さなくてはいけないし、その際に何を要求されるかわからない。そうなった時に出来ません、とは言えないもんな。あんまり借りは作りたくない。


いっそのこと服属させるか?いや、もうそんなタイミングは逸したし、大義名分がない。いやいや、それは俺の現代人的発想か?難癖つけてで、いいじゃないか。いや、気分が悪い。そして元々俺は、小佐々以外を全部服属させる路線じゃない。


結果的に九州で大勢力になったけれども、平和で豊かで、みんなが安心して暮らせれば、別にどうでも良かったんだよね。最初は。あれ、俺、覇権主義的な考えになってる?・・・いや、考えて考えて、考え抜いた結果、こうならざるを得なかった。


結果論だ。


肥前に残っている全兵力を出す。そして宗どのと宇久どのにも協力を要請しよう。波多、伊万里、相神浦松浦の兵千五百。後藤、宇久、宗の四千五百。合計六千。海軍の全艦隊と海兵隊、総力をあげて豊前の敵にあたろう。


文字通り小佐々対大友の総力戦だ。万が一のための守備隊など、残しておく余裕はなくなった。


今がその、『万が一』のときなのだ。


『発 総軍司令部 宛 第一第二軍司令部ならびに笠山信号所 ヒメ タイ ダウセツ エングン ハケンス ダイイチグンハ タケヤマジヨウ キユウエンニ ムカイ ダイニグンハ カワラダケジヨウ ニテ テキト タイジセヨ ヒメ 四日 午三つ刻(1200)』

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