第222話 府内まで八町 由布院山城

九月四日 巳の一つ刻(0900)角牟礼城下 第三軍 蒲池鑑盛


角牟礼城には守備兵五百を残し、日出生城の別働隊と合流すべく出立した。二刻(4時間)ほど両側が切り立った山道を進むと日出生城に到着し、そのまま※由布院山城へ向かう。大軍が長い隘路を進む。伏兵に襲われたりすれば、いかな大軍でもなすすべがない。


周囲に最大限の注意を払いながら進んで、到着したのは酉三つ刻(1800)であった。本来、なにもなければ申二つ刻(1530)頃に到着してもおかしくない距離ではあるが、安全を最優先させた。あの様な場所では大砲や騎馬隊は役にたたない。


大友の主力が豊前に出ているからこそ可能な行軍だ。


「これは、無理だ」。

正確に言うと、無理ではない。無理ではないが力攻めでは難しい。由布岳の中腹に築かれた山城は、これぞまさしく要害である。損害も大きいであろう。山麓から由布院山城を見上げたわしは考えた。


しかも守るは※戸次道雪が家臣、※由布家続。親兄弟皆名将、勇将の誉れ高い家門だ。降伏など、まずあり得ないであろう。で、あれば無理攻めせずに押さえの兵を置き、北上するのが得策である。われらの目的は由布院山城を落とす事ではない。


府内のある大分郡から海沿いに北上して豊前に抜ける速見郡の小浦村を押さえ、大友を南北で分断。そして府内へ向かう。無論、落としたほうがいいに越した事ではないが、無理攻めするほどでもない。


そして大分郡から玖珠郡、日田郡へ続く街道沿いの若杉山石原村と並柳村を押さえていればよい。日田城から角牟礼城、日出生城まではわが軍の勢力下であるから、完全に分断する事が可能だ。ゆえに、夕食の前に軍議を開いた。


「各々方、今われらは豊後に侵攻し、由布院山城を前にしておる。府内まで八里弱(32km)にして、四刻(8時間)で攻めかかれるところまで来ておるが、これからどうすべきか考えをお聞かせ願いたい」。


わしは皆を前にして聞いた。


「わしは、急ぐ必要はないと存ずる。大友の主力は遠く豊前まで出払っておるし、われらの脅威となる兵が、ここに残っているとも思えぬ。絞れるだけ絞っての二万であろうから、どう頑張っても五千も集まりますまい」。

最初に発言したのは西牟田殿だ。


「さよう。ここはじっくりと構えて、これからの事を協議するのが肝要かと存ずる」。星野殿が同意する。


「草野どのは何かござらぬか?」

一人考えている草野殿に聞く。


「そう、ですな。とりたててはございませぬが。・・・ここいらで各軍の状況を再確認してみる必要があると存ずる。豊前の第一、第二軍は別として、第四軍と第五軍は共同戦線を張るかもしれません。お互いの位置や情報を共有しておけば、いざという時に役に立つと存ずる」。


なるほど。確かにそうだ。


「そうですな。第四軍は状況によって豊後に入るか豊前に向かうか違うであろうし、第五軍にしても、今隈部と戦っておるのか、それとも肥後の国衆とまとまってこちらに向かっておるのか、はたまたすでに豊後に入っておるのか。それによってはわれらの行動も変わってくるかもしれぬ」。


みながうなずく。


「それでは今日はもう日も暮れておりますし、食事にするとして、ゆっくり休んで明日一日は情報を収集整理して、明後日再度軍議を行い今後の動きを決める、これでよろしいか?」


反対意見、特に質問等もでなかったので、軍議を終わりとした。

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