第213話 角牟礼城と日出生城 その弐
九月三日 ※角牟礼城 北東川沿い街道 小田増光大佐
「伏せ!!!」
総員が伏せる。どこから撃ってきているのだ?あたりを見回す。右手の山はさんざん索敵した。左手の川しか考えられない。見ると巨岩がごろごろあり、その影に隠れていたようだ。不覚。挟撃を恐れて北東の山にばかり目がいっていた。
なるほど移動してわれらを攻撃するのは無理だが、隠れながら弾を込め、いっせいに狙い撃つには絶好の場所だ。なぜ気づかなかったのか?なぜ川の向こうにも斥候を送らなかったのか?痛恨の極みだ。しかし、今はそれどろこではない。
「銃兵、第五
銃兵を匍匐前進させ、最前列の大砲の付近まで前進させる。
「そのまま、弾込め!」
伏せた状態でなるべく狙われにくい状態で弾を込めさせる。
「砲兵! 砲手! 一番から十番まで、位置につけ!」
低い姿勢のまま、大砲とその砲架を壁にして所定の場所につかせる。本丸を目標にしていたので仰角を下げ、巨石群に向ける。
「銃兵撃ち方はじめ!」
「用意、撃て!」
第一斉射が敵を襲う。敵も岩に隠れながら打ち返そうとするが、間断なく撃たれるので撃ち返しようがない。そうしているうちに砲撃準備が整った。
「砲兵、撃ちぃ方はじめ!」
「よぅぅい!」
「銃兵伏せ」
「てぇ!」
『用意』と『撃て』の僅かな隙に銃兵を伏せさせる。
十門の大砲が巨石群に向け砲撃を行う。斉射が終われば次弾装填を行い、その間は銃兵が敵兵を狙う。岩石につぶされる者、破壊された岩石の石礫が体に当たり倒れる者、急いで逃げるあまり転んで頭を打つ者。惨憺たる地獄絵図である。
「銃兵横列! 小隊長の指示にしたがい発砲しつつ前進! 歩兵! 銃兵に先行し敵の襲撃に備えよ!」
銃兵と歩兵を一組にして警戒しつつ巨石群へ向かう。
「敵兵なし!」「敵兵なし!」
各所で敵兵殲滅の報告があがる。歩兵と銃兵を下がらせ、本丸への砲撃準備を再開する。もう兵に動揺はないようだ。敵の損害は百五十ほどであろうか。我が方の損害は七名。
■未一つ刻(13:00)
『発 陸軍隊指令 宛 第三軍指令 メ テキコウゲキアリ シカレドモ ソンガイ ケイビニテ ホンマル コウゲキ サイカイス メ 』
『発 第三軍指令 宛 陸軍隊指令 メ レウカイ ケントウヲイノル メ』
「目標 敵城本丸! 撃ちぃ方始めー!」
「用意、てえ!」
一斉に砲門が火を吹いた。先ほどの十門ではない。一個大隊半の三十門だ。一斉射が終われば再装填して再び砲撃する。本丸までの距離は約五町である。手前側ならまだしも、反対側の水の手から平地に入り、攻め上る味方には当たらない。
『発 第三軍指令 宛 陸軍隊指令 メ ホンマル トツニウ コウゲキ ヤメ メ』
■申一つ刻(15:00)
本軍からの攻撃停止の指令により砲撃停止、警戒しつつ、兵に休息をとらせた。死傷者を後方に移動し、大砲の砲架、台車の損傷をしらべ、破損している場合は応急処置を施した。
幸いにして移動が困難な状態のものはなく、戦闘終了後も往路と同じ様に運搬できるようだ。
『発 第三軍指令 宛 陸軍隊指令 メ ホンマル カンラク ケイカイシツツ ホンジンニ モドレ メ』
守備兵の抵抗が厳しく、こちらも城兵と同数の三百程度が損失となったようだが、酉の一つ刻(17:00)に角牟礼城は陥落した。日もくれて、かがり火をともしながら本陣にもどったのは戌三つ刻(20:00)である。
酉三つ刻(18:00)には
『発 第三軍第二指令 宛 第三軍指令 メ ヒジウゼウ カンラク コチラニテ タイキスル ヒツジヨツトキ(14:30) メ』
日出生城はこちらより早く陥落したようだ。おそらく相当の抵抗はあったであろうが、いずれにしても明日司令官と協議の上出立しよう。遅くとも昼過ぎには到着できるであろう。
酒は、一人一合まで、許可した。
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