第214話 斜陽の六カ国太守 宗麟の焦り

九月三日 未二つ刻(13:30) ※臼杵城 ※大友宗麟


「申し上げます!昨日、午一つ刻(11:00)、日田城降伏にございます!」

「なにい!?まさか・・・降伏したのか?間違いないのか?」

「は!間違いございませぬ。複数が確認いたしております」。


日田城降伏には耳を疑った。※道雪が※豊前松山城や※門司城を落とした報は届いてなかったのか。届いておれば、降伏などはしなかったであろうに。


確かに二万という兵はわが大友の持てる限界の兵力じゃ。あとは城ひとつにつき、守備兵五百前後しか残っておらぬ。しかし豊前の道雪が毛利領を攻め取り、※鑑速や※鑑理が守りを固めておれば、勝ちは見えてくる。すでに戦は始まっているのだ。


やつらもわが領内に攻め入ってきたとなれば、攻められても文句は言えまい。そのまま筑前へ攻め込む事ができる。北肥後の国衆と阿蘇が小佐々を抑えるゆえ、やつらも全力を豊前につぎ込む事はできぬ。


筑後から攻め入られれば苦しいが、踏ん張ってくれればこちらに有利に進んだものを。くそう!このままではまずい。日田城の件は隠し、豊前の勝ちだけを知らせて士気を保つのだ。わが大友は国衆の力が強い。ゆえに叛乱が多いのだ。


そうじゃ、北肥後の連中と一緒に小佐々を攻めさせておる阿蘇に使者を出そう。敵が豊後に攻め入ってきたとなれば話は別だ。かき集めても五千にも、いや、いずれにしても足りぬ。こちらの援軍に来てもらおう。


屈辱である。あってはならぬ事だ。いままで敵地にて劣勢はあれども、この豊後に攻め込まれる事などなかったのだ!伊東にも援軍を頼むべきか?いや、われは九州探題ぞ。六カ国守護ぞ。


攻めの要請ならばいざ知らず、守りの援軍などもらっては、示しがつかぬ。しかし、そんな事は言っておられぬか。負けてしまえば意味がないのだ。国が滅んでしまう。


負ける?このわしがか?


この大友左衛門督義鎮が、ついこの間まで、気にもとめぬ塵芥と同じであった小佐々に、負ける、だと?そんなばかな。あり得ぬ話だ。この臼杵城まで攻めてくるとは思えぬが、いや攻めてきたとて負けはせぬ。


引き潮のときしか渡れぬし、水軍でもないと攻める事などできぬ。まて、いったいわしは何を考えておるのだ。そのような事あるわけがなかろう!冷静に考え、適切に処せば何の問題もないはずだ。


豊前ではわれらが有利だ。道雪は松山、門司、小倉を落とし、※香春岳城は吉弘鑑理が守っている。おそらく敵は香春岳城を落とし、退路を断ってそのまま北に圧力をかけるつもりだろう。しかし※長野城には臼杵鑑速を配しておる。


毛利勢の花尾城に攻勢をかけるもよし、南下して香春岳城の援軍としてもよい。豊前は問題ない。問題は筑後口だ。北肥後も隈部ら国人衆が抑えとなっておるであろうから、阿蘇をこちらに呼んだとて、即劣勢にはならぬはずだ。


兵力だけで言えば互角か上をいく。豊後内の国人衆に再度軍役を課して危急存亡の時だとして戦わせねばならぬな。


「誰かある!国人衆に知らせを出せ!」

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