第170話 高城城あらため諫早城

永禄十一年 一月 小佐々城 小佐々純正


皆を集めて発表した。


「われらは小佐々城より伊佐早の高城城に居城を移す。無論縄張りは破却したのち新たに築城する。目安は二年だ」。


家臣全員が、さもありなん、という態度をとる。


「伊佐早平野は西肥前ならびに南肥前の中で一番の広さがある。また、彼杵・高来・藤津の三郡をまたぐ要衝にあり陸・海ともに交通の便も良い。そして名も伊佐早から諫早にあらためる」。


「純堯よ、城代として補佐してくれるな」


「はは、もちろんにございます」


高城城は龍造寺との戦の際、大村軍と有馬軍の攻撃をうけ落城。その後取り返したものの、補修を続けて使っていた。西郷純堯の居城であり、伊佐早地区の政庁でもあった。純堯の知行も伊佐早のままだ。


住み慣れた沢森城から小佐々城に移って五年。長かった様な短かった様な・・・。最期までいろいろ考えたんだけどね。実際城下町が面積的に限界に達しているのは確か。山の斜面を切り開いて宅地にしてはいるものの、不便である。


小佐々が戦ではなく銭で平和を買う大名だというのは周知の事実。商人大名と揶揄する者もいるだろうが、戦はしないに越した事はないのだ。そこで忠右衛門と専門のスタッフで適地を探していたところ。伊佐早に決定した。


信長が岐阜城に移ったのも軍事・経済的理由があったのだろう。あと二~三回移転するのかな?さて、費用と期間は・・・。


「忠右衛門、詳細を皆に示せ」


はは、と忠右衛門が紙を広げ説明する。


・土地造成費 六万二千五百貫

・石材+石材移動+石垣積み 十二万五千貫

・天主建築費 二万五千貫

・木材 一万二千五百貫

・御殿建築費 十万四千二百貫

・櫓+塀建築費 八万三千三百五十貫


しめて四十一万二千二百五十貫となり申す。


(なんて?まじなんて?やばすぎん?)


規模は別として、今までの山城を築くならここまで金はかからないだろう。天守や御殿などは守りに必要ないからだ。石垣も全部でなくてもよい。土塁と空堀でよいのだ。しかし、今回の居城となる諫早城は違う。


われら小佐々の経済力を内外ともに見せつけるために必要だ。そのため場所は要害ではなく交通の要衝。東に有明海、西に大村湾、そして南に橘湾を要する三郡の交わる場所だ。栄えぬはずがない。


この諫早城を一年半から二年でつくる。


大事業となるが、大きな公共事業だ。景気をさらに良くして欲しい。また、近く戦略会議でも発表しようと思うが、長崎に造船所をつくり、大型化した艦船の新造、補修・改修をおこなう。


そして面高村の軍港と造船所機能を長崎に移す。技術街(前殖産方、現工部省管轄)はそのまま。造船所は小型から中型の商船専用とする。いまのところ小佐々の領内では海賊はでていない。


しかがって商船に武装は必要ない。これからもそうであって欲しいものだ。軍港に関しては七ツ釜のままでいいと思ったが、大型化が予想される艦船を多数収容するのには狭い。


艦隊数と編成隻数が増えてくれば、いずれにしても移転はやむなしだったろう。沿岸警備の地方隊の様な役割をもたせて存続させよう。航続距離と隻数が増えてくれば、一箇所で肥前全域を賄える様になるだろうが、いずれにしても狭い。


本部を七ツ釜において、支所をいくつかつくるとしよう。平戸、唐津、佐世保、口之津等だな。長崎はそれを(今のところ全海軍)を統括する肥前鎮守府の所在地とする。いずれにしても日の本の西の端だ。


海軍力を背景にした輸送の効率化を図りさらなる富国強兵をめざす。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「兄上」


「なんだ、治郎」


「居城を移して伊佐早を諫早に変えるとの事」


「うむ、それがどうした?」


「はい。私も沢森の当主となりました。元服もすませ、父上の補佐はあるとはいえ、なんとかやれているつもりです」


「どうしたんだ?なにかあるのか?」


「はい」


「なんだ?」


「名前を変えとうございます」


「なんの名だ?」


「父上には了承をいただいているのですが」


「うむ」


「『太田の湊を和を以て治める』。沢森を太田和に変え、太田和村そして太田和湊にしとうございます」


「なるほど。・・・そうか。うむ。良い名じゃ。小佐々は俺の代で大きくなった。沢森も同じ。驕りではないが、事実じゃ。節目として、よいであろう」


沢森村が太田和村になり、沢森家が太田和家となった。太田の湊が太田和の湊になったのだ。


・・・・うん、つながった。ここは歴史に戻ったな。大村は滅んでいるけど。

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