第169話 第二回練習艦隊 台湾編

永禄十一年 正月 小佐々弾正大弼純正


正月には、技術的な進歩が二つあった。一つは明からの橋梁技術士派遣にて雪浦川の架橋が完了した事。これにより国内での実績が出来たので、後進の指導とともに各地にて架橋工事が実施される。


もう一つは、朝鮮からの陶工技師の派遣協力協定が結ばれた事だ。対馬宗氏の影響が大きい。唐津から伊万里、有田、波佐見、三川内と、可能性のある土地で調査を行い、登り窯(どこかの社会科見学で見た様な?)を作って高温での焼成を可能にする。


そうだ、領内全域を探すのはもちろんだが、同盟諸国、毛利や織田の領内でも許可をもらって調査をしよう。何事かと詮索されるだろうが、そこは可能な限り隠す。


何度だったか忘れたが、確か1,000℃以上はあったはずだ。これで耐火粘土を元に耐火レンガをつくり、さらに高温で使える炉の原型みたいな物をつくる。陶磁器の製作は並行して行おう。


完成すれば酸素の供給量を調節して、炭焼き窯みたいに不完全燃焼させてコークスをつくれるかもしれない。現在の野焼きでは効率が悪いのだ。時間はかかるかもしれないが、地道にやっていこう。


ガラスづくりも高温だったが、あれは温度を下げるために灰を混ぜていたと聞く。やばい、頭が痛くなりそうだ。


何事も試行錯誤、だなあ。


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永禄十一年 一月 台湾北方海上 籠手田安経


台湾の湊、基隆が見えてきた。もっとも湊といっても、『隆盛の基』となる様に願ってわしがそう名付けただけで、そうなるかわからない。便宜上そう呼んでいる。当然湊町としての体はなしていない。


前回の航海で調べたが、北側は海に面し、東西と南の三方は山に囲まれた天然の良港なのだ。


琉球にも近く、新たな航路とすれば定期船が行き交う様になるかもしれない。今回はここに開拓団を置き、わが小佐々家の南蛮進出の足がかりとしよう。形としては横瀬浦や七ツ釜と近いだろうか。


いやいや天然の良港は、得てして似た地形だ。しかしここは三方を山に囲まれているので風や波浪からは船を守るのに適している。


ポルトガル(南蛮の中で髪の黄金色な者を、殿いわくそう呼んでいる)や明、そして倭寇の連中も根城にしていると聞く。武器は置いておくが、武力衝突は起きない様にしなければ。


入植者は百人。正確に言えば五十人ほどだ。もっと少なくても良かったのだろうが、なにせ未知の土地である。どのような外敵がいるかもわからない。鉄砲なども含めた守備隊に五十人を入れた。


残りが領民から募った入植者だ。医者もいれば農民や漁民もいる。まるでノアの箱舟だ。家畜もいる。まずは衣食住。住むところをつくり、食べ物を探す。衣はなんとかなるであろうか。


さて、これが百人、二百人と増えていくのだろうか。楽しみだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・※台湾は江戸時代には高山国、明側からの呼び名は小琉球だったようですが、作中ではややこしくなるので台湾とします。籠手田安経はキリシタンなのでノアの箱舟を知っています。

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