第167話 年賀挨拶と新参者

永禄十一年 正月 小佐々城 小佐々弾正大弼純正


年が開けて永禄十一年となった。


小佐々城には親族、譜代の直参から外様までが集まって、俺に挨拶を行っている。


「新年のご慶賀重畳めでたく、お祝い申し上げたてまつりまする。源朝臣小佐々弾正大弼様、念願成就のため、われら家臣一枚岩となり、邁進する所存にございまする。幾久しく一同、御願いたてまつりまする。」


固い挨拶を立て板に水の様に話すのは譜代の筆頭、深作治郎兵衛兼続だ。総勢四~五十名いるだろうか。小佐々も大きくなった。南蛮かぶれ?と言われるかもしれないが、俺にとってはこっちが普通。上座には畳の上に椅子を置いている。


家臣たちが座る畳敷きも、ゆくゆくは全部椅子にしたい。


見渡すと昨年傘下に入った筑前衆もいたが、見慣れない顔ぶれもいた。天草の国衆や筑後、北肥後の国人衆だ。


筑後生葉郡・竹野郡の星野重実、上妻郡の五条鎮量、おなじく上妻郡の黒木鑑隆がいる。さらに三潴郡 の西牟田鎮豊、御池郡の三池鎮実、そして驚きは筆頭の蒲池鑑盛だ。筑後十五城のほとんどがいる。


肥後は天草郡の大矢野種光、上津浦鎮貞、志岐鎮経で、天草五人衆のうち三名。そして北肥後は小代実忠と内古閑鎮真である。


小代と内古閑はわかる。昨年からの交渉で交易でのつきあいはあった。流れとしては理解できる。天草の三人は北上の気配をみせる島津に、相良では敵わぬと決断したのだろう。で、あればしっかり守ってやらねばならぬ。


しかし、筑後は驚きだ。ほぼ一国ではないか。そして調略もなにもしていない。おそらくは高田弾正の影響もあるのだろう。仕置のあとの筑前の様子が、噂になって伝わったのかも知れぬ。こういう噂は良くも悪くも広まるのが早い。


「あまり仰々しく、偉そうに話すのは好きではない。が、ここに来て俺に年賀の挨拶をしているという事は、俺に、小佐々に従属すると理解していいのだな?」


「はは、お初に御意をえまする、蒲池近江守鑑盛と申します。弾正大弼様におかれましては・・・。」


筑後国衆のなかでも大身の蒲池鑑盛が言上している。『義の人』として名高い蒲池鑑盛。かつて龍造寺隆信の曽祖父、龍造寺家兼が佐賀を追われた時にかくまい、復帰を援助した。さらに隆信が追われた際も再度援助し、龍造寺家成長の一因となった。


その鑑盛がここにいるのだ。よほどの事なのだろう。


聞くところによると、大友氏の筑後国人衆に対する扱いは相当過酷だったようで、大友の外征では常に第一線で戦わされた。そのくせ大友の一門や譜代は、後方から督戦していたのだ。


さきの筑前の戦いでは、浮羽郡の問注所氏がほぼ全滅した。また筑後の国人領主は、任官や叙位、家督相続まで全て大友家が決めていた。さらには必要に応じて戦費の供出や賦役の義務があったのだ。


もう一つ、大友家に古くから伝わっている「八朔太刀馬の儀式」に、貢物を持参しての参加するのも義務だ。蒲池鑑盛の父・蒲池鑑貞(鑑久)は、これを怠ったために府内に呼び出され誅殺された。


そりゃあ嫌気がさすよね。心底、可哀想になった。いい加減、儀式に来なかっただけで殺すって、頭おかしいやろ。いまさらだけど、この時代これが普通なのか?しかも親殺されて今まで黙っていたって、そりゃ背くわ。力関係でやむなく我慢していたのだろう。


「その方らの気持ちあいわかった。今後はわが小佐々を頼るといい。外敵からは全力で守り申そう。それから、わが小佐々にはその様な儀式はないゆえ、安心せよ。あるとしても参加は自由じゃ。貢物も気持ちで良い。任官や叙位も自由だし、家督相続も事後報告でよい。ただしお家騒動なら介入するぞ。」


「ありがたき幸せに存じまする。幾久しく、よろしくお願い申し上げまする。」


・・・・・・・・・・・。


間違いなく大友と戦になるな。

覚悟と準備はしておこう。


しかし幸運だったのは毛利から同盟の打診があった事だ。明日以降挨拶の使者もくるであろう。強きと結んで弱きを攻める。兵法の常道である。毛利は背後に尼子という爆弾を抱えてはいるが、それでも豊前にて長年大友とやり合ってきた。


それだけの地力があるのだ。それに比べて大友は、六カ国守護とは言うが、完全支配しているのは豊後のみ。豊前北部は毛利にとられているし、筑前はおろか筑後と肥後も・・・。どちらを選ぶかは児戯に等しい。決まっておる。


向こうから来なくても近々使者を送ろうと思ってところだ。俺は元就のお眼鏡にかなったということかな?

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