第143話 舞に殴られるよ!

同年 二月 小佐々城


別件で、使者がきた。それと身内からも。


側室なんて冗談じゃない。一人で十分だ。舞とは円満で何の問題もない。あるとすれば、あっちの方だが、それも解決されていないのに側室とかありえんし。殺されるよ。


「兄上、何を悩まれているのですか?」


「うわあ!」

弟の治郎だ。こいつ全然変わってない。気配を消すのは特技なんだろうか。


「お前、ちゃんと声かけて、返事確認してから部屋に入れよ!」

「いや、何回も呼びましたよ。それで返事がないから心配で入ってみたら、なんだかぶつぶつぶつぶつ言ってるし。」


「う、あ、ごほん。」

「ひょっとして、側室の事ですか?」


「え、なんでわかった?」


「だって、まだお子がいないでしょう?兄上が姉上を気遣っているのはよくわかりますから。」


う、しかし、この点で俺は治郎に負けている。治郎はすでに嫡男を生んでいるのだ。いや、産んだのは綾だけど。そして勝ち負けでもない。


「治郎よ、もしお前が俺と同じ様に、側室を娶らなければならないとしたら、どうする?」

「兄上、質問がおかしいですよ。娶らなければのなら、娶るでしょう。」


「いや、確かにそうなんだが。」

(こいつめ、揚げ足とりやがって。正しいけどさ。)


「私の場合は、もしそういう話が出てきたら、少し考えますが、それが必要だとしたら受け入れます。」


「兄上が小佐々のご当主となられ、私は平戸から戻って沢森をついで当主となりました。若輩ゆえ父上の助けは必要ですが、それでもお家の行く先に責任を感じています。それゆえ跡継ぎの事ならば、周りの家臣が必要と判断し、そうする外ない、一番の道ならば、それを選びます。」


(なんだこいつ、しばらく見ない間に、いや、平戸に養子に行ってからか。逞しく成長したな。)


「いずれにしても、兄上が必要ないとご判断されたのであれば、無理に娶る事はせずともよいかと存じます。」


「そうか。ありがとう。そうだ、何か話があったんじゃないのか?」

なんだか少し落ち着いた。弟に諭されるなんてな。


「そうでした。実は海軍伝習所、今は兵学校というのでしたか。その学校に入りとうございます。」


「海軍、か?」


「はい。私も沢森の為に、小佐々の為に、お役に立ちとうございます。」


「良いのではないか。ただし!」


「今までは殿、殿!と言っていた家臣もおらぬし近習もおらぬ。自分の事は自分でやらねばならぬし、綾とも休暇まで何ヶ月もあえぬぞ。それでも良いのか?それに試験もある。沢森の当主だとして優遇はされぬぞ。無論、俺の弟だとしてもだ。」

「もとより覚悟の上です。」


「そうか。それなら、俺から義太夫に伝えておく。今は中途半端な時期だから、定員が割れていれば、臨時試験で入れるかもしれぬ。もし定員に達しているのであれば、来年の入学になるぞ。よいな。」


「はい!ありがとうございます。」

笑顔で帰っていった。


さて、俺はこれからが最難関だ・・・。ふう。


「あら、よろしいのではありませんか。」

え?早くない?


「あなた様がお決めになって、それが小佐々の家にとって必要な事なら、わたくしが取り立てて騒ぐ様な事では有りませぬ。ただ・・・」


ただ・・・?


「わたくしが二番は嫌でございますよ。」


(もちろん!)


・・・で、円満に朝廷から側室を迎えることになりましたとさ。

(二条・・・?)

身内は丁重にお断りです。

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