第142話 従四位下と肥前守
永禄十年 正月 小佐々城 小佐々純正
確認するけど、今、従四位下弾正大弼なんだよね。
大友義鎮が正四位下だから、並んじゃいけない。今は絶対にここでストップ。肥前守はどうだろうなあ。大友も同じ肥前守護だから、かなり目立つよな。どうすっか。朝廷から正式に任命されるから支配地だろうけど、明智日向守とか羽柴筑前守とか、まったく関係ない人もいたし。
従四位下でも修理大夫の有馬晴純と同じだし、民部大輔の大村純忠の正五位下より二つ上。いつの間にか抜いている。なんで悩んでいるかって言うと、
目の前に朝廷のご使者どの、勅使がいる。
当然上座に座ってもらって、盛大な饗応をしているんだが・・・。これを受けるかどうか迷っている。でも、受けたら絶対刺激するよなあ。ただ、もともと弾正大弼で従四位下なんだけど、肥前守はね・・・・。
でも守護って同じ国に二人もいたっけか?分国守護?全部でざっくり五十としても、全国の戦国大名と武将、ゆうにその十倍はいるぞ。なんだこの現象?
家系的にはうちは宇多天皇を太祖として、敦実親王を初代とする第17代近江守佐々木満信一族の末裔。室町幕府4代将軍足利義持の倭寇取締りの命により、肥前国小佐々村へ下向して名前を変えた。その肥前小佐々氏が彼杵に移ってきたらしいけど・・・。
どこまで本当かわからん。結構この時代、官位も官職名も勝手に名乗っている人多かったらしいからな。
「直茂、弥三郎、どう思う?」
傍らにいる二人に聞く。
「それがしはよき事かと存じます。わざわざ朝廷の勅使を迎えて叙任されるのです。そう何度もある事ではありません。」
そう答えるのは、尾和谷弥三郎だ。
もともとは西郷家臣で、西郷家が大村家の三城城攻めの際に、指揮を取った尾和谷軍兵衛の息子である。父親である軍兵衛はさきの高城城防衛戦にて討ち死にしている。博識で判断力もあるので、評定衆(戦略情報会議員)として取り立てた。直茂も一目置いている。
「わたくしもよき事かと存じます。ただ、無用な軋轢を生まぬために、叙任までの経緯の確認と、大友への忖度は必要かと。」
そうだ、
「叔父上。いや常陸介」
「はは。」
「こたびの叙任までの経緯を説明してくれるか。」
「は、こたびの叙任につきましては、献金の事もございますが、筑前の騒乱の影響が大きいようです。朝廷におかれましては、大友義鎮に六カ国太守は荷が重いのでは?との考えの方々も多うございました。これに対し、殿の治むる肥前は騒乱はありつつも、いずれも短期に収めております。また、殿の戦のやりようが、必要に迫られて身を守るためであった、という意見が大勢を占めておりました。それゆえこたびの叙任にあいなったと考えまする。」
「なるほどな。しかしそれを大友が納得するだろうか。」
「納得するも何も、帝がお喜びになり、そうお決めになったのですから、どうにもできません。辞退しなくてもよろしいかと。それに大友がへそを曲げて献金をしないとなったならば、それをわれらが肩代わりすればいいだけの事です。」
直茂が言う。
「それに確かに、われらの方が大友に比べると非力です。しかし大友は大きいがゆえに四方に敵、敵となりうる存在がいたるところにおりまする。われらを討伐するためには名分もありませんし、すぐに兵を動かすことなどできますまい。ましてやこたびの騒乱は、少なくともあと一~二年は続くと思われます。」
妙に、説得力が、ある。
「その通りです。お受けなされませ。」
と弥三郎。
「それがしも同じ考えにございます。」
叔父上。
「あいわかった。ご使者殿にはその様にお伝えいたそう。大友の件も含めてな。」
肥前守に、なった。
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