第144話 開戦と恐怖

永禄十年 四月 小佐々城 小佐々純正


動いた。


俺は今小佐々城主殿にて評定を開いている。戦略情報会議ね。参加しているのは、


・鍋島直茂

・尾和谷弥三郎

・佐志方庄兵衛

・沢森利三郎

・深作治郎兵衛

・佐志方杢兵衛

・沢森政種

・空閑三河守(藤原千方は不在)

・成松信勝(龍造寺家より派遣)

である。


三月に大友宗麟が宝満城の高橋鑑種を討伐すべく、戸次鑑連を主将とした豊前・筑後連合軍を派遣したのだ。前回は挟撃を恐れて退却したが、今回は充分に備えをしている。三城の中間にある宝満城を落としてくさびを打ち、立花山城と古処山城を分断するためだ。


この軍の主兵力として、豊後国や筑後国の国人衆、鑑種の甥・鑑実を中心とする一萬田氏までもが加わっていた。


「さて、直茂、この動きどう思う?」

鍋島直茂に聞いた。


「されば、膠着状態を打開するための一手かと存じます。さきの退却から筑前国内では反大友が優勢で、大友側の勢力に支援しようにも各個撃破され、ままなりませんでした。筑後の衆がなかなか動かず手を焼いたようですが、ここにきて動員できるまとまった兵が集まった様にございます。」


「また、宝満城が落ちますれば、支城の岩屋城も孤立しますゆえ落城は必至。そうなれば完全に、立花山城と古処山城は分断されまする。」


なるほど、と俺はうなずいた。


「しかし、毛利の動きが気になりまする。ここで毛利が入ってくれば、流れが一気に反大友に傾きまする。下手すれば筑前だけに留まらず、筑後、豊前まで巻き込みますぞ。」

発言は弥三郎だ。


「うむ。もっともだ。三河守、どうだ?」


「今のところ、毛利に動きはありません。ただ、妙な噂がたっております。」


「妙な噂?」

三河守に聞く。


「されば宝満城主の高橋鑑種は毛利に、勝利の暁には豊前の国、香春岳城をくれと要求していたようにございます。」


「ふむ。」


「しかし毛利としてはここで承諾すれば、自陣営にいる香春岳城城主の杉連緒(すぎつらつぐ)の離反をまねくと、承諾できませんでした。そこで高橋鑑種は代案として、筑前六郡を要求し、毛利はこれを受け入れました。」


全員が聞き入っている。


「しかし筑前六郡となれば、今、反大友で結束している立花や秋月、それから宗像や筑紫の領地をのぞけば、ほとんど残ってはおらぬではないか。特に秋月は領土欲が強いと聞く、納得はしまい。」

と聞き返したのは、深作治郎兵衛である。


「毛利としては、どちらでも良かったのではないでしょうか。自分たちは豊前を完全制覇したい。筑前は二の次。毛利が攻め取った体で、高橋がとる。他の国人衆に、それぞれの条件など明かす必要はありませんからね。もしそれで内輪もめが起きても、毛利は関しない。目的はあくまで大友の弱体化。筑前などその後どうとでもできる、そう考えているのではないでしょうか。」

庄兵衛が分析する。


「ところが、です。」

三河守が間に入る。


「高橋側には『毛利が香春岳城を渋っているのは杉を高橋より重要視しているからだ。約束は反故にされかねぬ。』、杉側には『戦が終われば香春岳城は高橋の物になる』、そして秋月には『高橋は戦の報奨として筑前六郡を約束されている』と。この様な噂が流れております。」


なんと!全員が顔を見合わせる。


「二虎競食の計、離間の計だな。まるで。厳密には違うが。」

父の沢森政種がぼそっと言う。


ん?親父歴史マニアだったか?


「計略でござるか。一体・・・」

杢兵衛の言葉に利三郎が、


「大友で間違いありますまい。一人心当たりがあり申す。」


「誰だ?」


「角隈石宗と申す者。大友の軍配・軍略者にございます。一度会った事があります。なかなかの人物にござった。宗麟も有能ではありますが、石宗は家臣からの信頼も厚く、当主の宗麟からも師と仰がれております。殿、今後は戰場だけではなく、謀にも細心の注意を払わねばなりません。さらに、今以上に情報を吟味し、取捨選択していく必要がございます。」


「あいわかった。」

俺は正直恐怖を覚えた。さすが大友、人材が豊富だ。これから島津に毛利でしょ。白髪になるよ。


「申し上げます!」

耳を塞ぐ様な大声で伝令が叫ぶ。


「なんだ!入れ!」


「はは!」


「申せ!」


「はは!高橋軍の将、福井玄鉄、戸次軍に急襲!戸次軍奮戦し敵を退却させるも、混乱した国衆と連携がとれず被害甚大!敗退にございます!」


「大友が引いたと!」


「はは!」


「まさに、蟻の一穴ですな。」

成松信勝が言った。

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