第111話 義姉と幸若丸と父と母

同月  小佐々城 小佐々純正


ふと、思った。

ねえちゃん、もういいんじゃね?


義姉は俺が転生してきた時すでに未亡人だった。針尾との戦で、夫である俺の兄を亡くしていたのだ。だから一人息子の幸若丸は可愛くてしょうがない。


その幸若丸はもう六歳になって、俺の事を「ちーち」とは呼ばなくなった。なんだかちょっと悲しいが、当たり前か。ほとんど城にはいなかったし、もう小学校一年生だ。だんだん、父親がどうだとか、母親がどうだとか、わかる年頃だ。


もう、二十一か。


ねえちゃん、再婚できないかな?子供はもちろん大事だけど、そろそろ自分の幸せを考えてもいいころなんじゃないだろうか。まだまだ若すぎるぞ。


ねえちゃんは、伊佐早の金尾城主喜々津氏の娘。大村の勢力下で西郷氏と大村がまだ親密だったころ、輿入れしてきた。


「いやお前簡単に言うけどな、平成やったらよかばってん、今こん世ん中ん常識じゃきつかぞ。」

「なんいいよっとや親父。今は平成じゃなくて令和ぞ。」


「ん?」

「ん?」


「いや、永禄か。」

ハモってしまった。今ここには二人しかいない。ぶっちゃけトークができる空間だ。


「それはともかく、お前が小佐々をついで、千寿丸が平戸の家督をついでいるから、実質幸若丸が沢森の跡継ぎだ。六歳で、あと五年もすれば元服できる年になる。」

と親父が言う。


「そうなんよねえ。そんな状況でねえちゃんの再婚て、どうなんやろうか。」


「幸は嫁入りしてきて沢森の人間になったが、そこで他人を婿養子、というのもおかしな話になる。血のつながらない息子と娘ができるんだからな。」


「うーん、そうだよね。それから、千寿の平戸養子は俺がいたからいいとしても、俺の小佐々相続は幸若がいたからできた事なんだよね。沢森の跡継ぎとして。」


「そうだ。だからこのまま成長すれば、幸若が家督をつぐ。今は俺が代行やってるようなもんだ。それに沢森は昔とは違って、十万石の大名の親族筆頭になるわけだからな。」


「それがわかっていて、たとえ良い話があったとしても、息子の事を考えたら、再婚は考えないんじゃないか。」


もっともだ。この時代、これはかなりの理由になる。


「それに、あんまりいいたくない事だが・・・子供がいると嫌がる男が多いのは、事実だ。」


「うーん、でも子供いる・いない関係なく、ねえちゃんなら、引く手あまただと思うけどなあ~」


「まあ、難しいところだ。それとな、」


「うん?」

親父が腹を押えて、満腹みたいなジェスチャーをして、拳でグッドサインをつくって、くいっくいっと部屋の外を指す。


なんだ、まさか・・・?

「いや、そのまさかなんだよね・・・・あははははは。」


うそやん!?弟?妹?まじか!

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