第25話 初めての……②

 離れへ私たちは頼子さんから逃げるように入ると、リビングでゆっくりとソファに身を沈める。

 今日は何だか色々とあった。

 そして、それ以上に身も心も満たされた……。

 子宮も満たされた? それは言わないで欲しい。さすがに恥ずかしい。


「ごめん……」


 藤原くんが突然謝ってくる。

 私はそっとそちらに視線を向ける。

 私と同じようにソファに横になる彼は、なぜか申し訳なさそうな顔をしている。


「どうして謝るの?」

「いや、初めてで……その激しかったと思うから……」


 その余韻に浸ってしまいそうな言い方はやめてほしい。

 恥ずかしさが込み上げてきてしまう。

 少し頬を赤らめてしまう私に、彼は視線をふいと逸らそうとする。

 私は彼の手を握りしめる。


「大丈夫だよ。結月……。そんな謝ることじゃないよ」

「………翼………」

「まあ、初夜までちょっとばかり付き合い始めてから期間が短いように思えるけれど、でも、いつかはしちゃうんだろうなって思っていたし……。それに上手いか下手かは分からないけれど、結月……、私、気持ち良かったよ。初めてって痛いって聞いていたし、恐怖があったけれど、私のこと考えて丁寧にしてくれたから、痛みはほとんどなかった……。あ、でも、ちょっと回数が多すぎて、今、あそこに違和感は感じてるけれどね……。だから、謝ることなんて何もないよ。私も結月と出来て嬉しかったから」


 そう言いながら、少し照れてしまう。

 ただ、握った彼の手から温もりを感じる。


「翼……」

「結月……どうしたの?」


 彼は私の方に向くと、そのまま私を抱きしめた。

 何だか、甘えている赤子のような感じがする。

 ああ、こういうの私弱いかも……。何だか、胸がきゅーんってしちゃう。


「俺、翼のことが好きで好きで仕方ないんだよ」

「分かってるよ……。その気持ちは『カノジョ契約』だったころから伝わってたし……」

「それはそれで何だかがっついているようで恥ずかしい……」

「あ、でも、それほどまで好かれてるんだぁ~って思うと、私も結月のことを意識してみるようになったのは事実かな……」

「本当に?」

「うん。だって、結月が私に好きっていうときの顔は冗談や嘘をついているような顔じゃなかったからね。だから、『あ、この人、本気で私のことが好きなんだ』って思うようになって、そこから私も意識しちゃうようになったんだよねぇ」

「だって、好きだから仕方なかったんだよ」

「も、もう……敢えて言わないでよ。恥ずかしいから」

「何度でも言ってやる。俺は北条翼のことが大好きだ——。

 ちょっとしたところで出す素の翼の可愛らしさが好きだ——。

 ご飯を食べているときの何気ない笑顔が好きだ——。

 俺に対して、少しムッとして起こる表情も好きだ——。

 ふわっと俺を包み込んでくれる優しさが好きだ——。

 ちょっとエッチな翼も好きだ———」

「ちょいちょいちょい! 最後のは何!? エッチってどういうこと?」

「え? 今日のホテルでのこと覚えてないのか?」

「え? あ……。うーん。途中から意識がトリップしてしまったような感じになってたときがあったかも……」

「そ、そうなのか……」


 何だか、色んな私の好きを言われて、恥ずかしさもあるが、それ以上に今日のホテルでのことが気になってしまう。

 私はトリップしたあとにどんなことをしてしまったんだろう。

 彼に馬乗りになるように私は姿勢を変えると、


「私はどういうことをしたの?」


 そう問いかけると、藤原くんは喉をゴクリと鳴らした。

 そ、そんなにヤバイの?


「えっと……母さんが言っていた通り、『一度ヤったら変わるもんよ』って話の通りだったから………」


 そう言われて私の顔の血の気は引いた。

 どうやら、相当やばいことをしたのだろうか……。


「も、もしかして、最後?」

「うん。最後。」


 私の問いかけに、藤原くんは首を激しく縦に振る。

 そう言えば、最後を終えた後、賢者タイムに入った時に私の意識は冷静さを取り戻した。

 が、もちろん、腹部の温かさを感じて、自身のしでかしたことに気づき、慌てて浴室でシャワーを浴びて、アフターピルを飲んだ。

 もしかして——————、


「翼が、今みたいに馬乗りになって、『生で欲しいの』って甘えて、そのまま自分で—————」

「——————!?」


 その瞬間に私は藤原くんの口を手で押さえる。

 もうそれ以上語らなくていい。

 それ以上語った場合、もしも、この離れに頼子さん手先(盗聴器)が及んでいると考えると恐ろしさに繋がってしまう。

 間違いなく、ニコニコ顔の頼子さんが、「ほら~、私、言ったでしょ~?」とドヤ顔をしてくるのは目に見えている。

 まさか自分から望んで藤原くんを誘惑して、そのまま……。

 どうやら、生でシたのは、彼からではなく自分から進んでしたということに気づかされ、私は少しばかり驚き、同時に少々羞恥心が込み上げてきた。

 ああ、私ってば、エッチだったんだ………。


「ゆ、結月……。あのことは忘れてほしいんだけれど……」

「ええ……。さすがに印象が強すぎて………」


 そうだよね……。

 私もさすがに頭をガンッと殴られたような感じになったもの。

 そんな印象深い私との性行為を忘れろというのは、到底無理な話であることは今察した。


「じゃ、じゃあ、お願いだから、頼子さんには……いいえ、誰にも絶対に言っちゃだめだからね!」

「お、おうっ! 分かった」

「そ、そうしたら、またシてもいいから—————」


 私が彼の耳元でそう囁く。彼は無言だが、ゴクッと唾を飲み込む音が耳元でする。

 と、同時に馬乗りになっている私のお尻のあたりにが当たる。

 私はジト目で藤原くんを睨みつける。


「こ、これは生理現象だから………」


 弁解の余地を与えてほしいとばかりに彼は言ってくる。

 とはいえ、私も耳元で期待させるようなことを言ってしまったので、それは私にも責任がないわけではない。


「エッチ………」

「許してくれよ……」

「許したら、どうするの? これ?」

「こ、これは………」

「仕方ないなぁ……」


 私はそのまま彼にキスをする。

 それはある意味で「いいよ」の印————。

 彼の言う通り私はやっぱり「エッチ」なんだろうな———。

 頼子さんの言う通り、一度しちゃうと変わっちゃうんだろうな———。

 私はそのまま彼と延長戦を——————、もう、結月、そこはダメだからッ!

 これじゃあ、頼子さんの言う通りじゃない………。

 暑い夏の夜の、私たちの熱い関係に終わりはなかった。

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