第25話 初めての……③

「昨晩はお楽しみでしたね♡」

「あははは…………」


 どこぞのRPGで定番の宿屋のセリフを言われて、私は愛想笑いしか浮かべられないでいる。

 昨日はあのまままさかの流れで離れで延長戦をしてしまった。

 藤原くんがエッチなことを好きすぎるからいけないのよ!

 決して、私の—————問題でもあるわね。

 私は今まで男に触れられることすら嫌がってきた。

 別に潔癖症だからとかそう言う問題ではない。

 単に、これまでそういうことが発端となって、女の争いの中に巻き込まれてきたからだ。

 それを避けるために持って来いなのが、とにかく異性との関わり合いを極限まで減らすということ。

 どうやら、女という生き物は、嫉妬深いということ———。

 自分の移駐にある人が他の女の子と話をしているだけでも、自分の彼氏(実際はそうではないにもかかわらず)を奪われたと思えるらしい。

 いや、まあ、昨日、ようやくその感覚が理解できたところが私にはあった。

 昨日、藤原くんの同級生だった田垣さんと彼が楽しそうに話している姿を見て、私は何かモヤッとした感情を覚えた。

 たぶん、あの感情が嫉妬なのだろう。

 てか、私ってば、嫉妬を覚えるほど、藤原くんのことを好きになっていて、それほどまでに心の狭い女になってしまっていたのかと、少しばかり自己嫌悪に陥ったほどだ。

 まあ、そんなプチ憂鬱タイムは、ラブホテルでいただいたスイーツでしっかりと吹き飛んでしまったのだが………。(決して、ラブホテルではエッチなことばかりしていたわけではないのだよ!)

 閑話休題。

 つまり、私は男の子との接触は、ほぼなかったと言ってよい。

 そして、ついに出来た恋人————。

 藤原くんは私にとって「初めて」の人だったのだけれど……。

 そんな彼も初めてだったのに、「モノ」が凄かった。

 最初は異物がメリメリと押し込まれてくる感覚が凄くて、ドン引きしそうになってしまったけれど、優しくアプローチしてくれたおかげで私の初体験は、それほど大きな痛みを覚えることなく終えることができた。

 が、回数が——————。

 さらには「生」—————。

 いやぁ、ダメだってのは分かっているんだよ……。うん。分かっている。

 けれどもね、あの気持ちよさは止められなかった。

 ああ、これが昇天するということか、絶頂するということは————。

 まあ、そんなわけでどうやら私は一日にして、エッチだったということが露見したのであった。


「ねえ? 翼ちゃん、聞いてる?」

「あ、はい! すみません! ちょっとボーっとしていました……」

「はぁ……。今日もお手伝いを頼もうと思っていたんだけれど……。止めた方が良い?」

「いえ! させてください! 煩悩を払いたいので!」

「ぼ、煩悩?」

「あ、いえ、そうではなくて——————」


 私はどうやら気分がハイになっているらしい。

 朝から余計なことを言ってしまった。

 頼子さんはニヤニヤと顔をほころばせて、


「へぇ~、そんなに結月のが良かった?」

「ひぃっ!?」

「翼ちゃんって案外、好きそうだものね?」

「な、何のことですか?」


 もう、自分の中で思い当たる節しかない———!

 私はガクブルと震える。


「ま、ヤるのは構わないけれど、音は気を付けた方が良いわよ?」

「聞こえてました!?」

「え? 昨晩、本当にしちゃったの?」

「——————あ。」


 さらに墓穴を掘るとは————。

 私は耳までりんごのように真っ赤にして、俯いてしまう。


「まあ! 本当にお盛んなのね! やっぱり若いって凄いわね! お昼にシてから、夜も本当に延長戦に突入しちゃうなんて!」

「あぁぁああぁぁぁ…………」


 私は何とも言えない敗北感を嗚咽を吐き出しながら、訴えた。


「あ、でも、避妊だけは本当に気をつけなさいよ。必要ならば、ちゃんと購入して持っておくのも嗜みよ!」


 いや、それ、どんな嗜みなんですか?

 まるでヤリ子みたいじゃないですか……。

 私はそういうキャラではないんです……。


「でも、翼ちゃんにそこまで愛されちゃったってことは、間違いなく結月はもう少しヘバっているかぁ……」

「あの……、私はサキュバスじゃないんですよ?」

「まあ、近いようなモンよ。翼ちゃん、エッチそうだし」

「そのふわっとした感じでエッチ認定出すのやめてもらってもいいですか!?」

「ささっ! 寝不足じゃない? 大丈夫なら、お店、手伝ってよね!」

「寝不足なんかじゃありません!」


 それは半分嘘。

 藤原くんも実は絶倫と呼ばれる類いの男の子で、延長戦でも数回ほど行為は及んだのだから、寝る時間は当然遅くなった。


「あら、そう。じゃあ、着替えて来て、お店のホールをお願いするわね」

「あ、はい。分かりました」


 私は着替えるために離れに今一度戻る。

 すると、藤原くんがのっそりと起床していた。


「結月、頼子さんに怒られちゃったよ?」

「え? マジで?」

「まあ、そんな激おこってわけじゃないけれど、やっぱり行為に関しては考えなきゃだめだよ……」

「うう……ごめん……。翼が可愛くて—————」

「ああっ! そういうところだよ! そういう無意識で私の気持ちをきゅん♡とさせるようなことを言わないの……。と、とにかく、東京に戻ったらその辺のルール作りをしないと、間違いなく学生生活に支障をきたすと思うわ……」

「それはマズ過ぎるな……」

「時としてエロは国を亡ぼすのよ」

「マジかよ……」

「だからこそ、身を滅ぼさないためにも考えないとね……。と、とにかく、毎日のキスはOKだけれど、それ以上は要相談ってことで……」

「分かった……」


 いや、そんなにしょんぼりとしないでもいいのに————。

 何だか、しょんぼりした子犬を見ているようで、こちらの胸がキュンキュンさせられちゃうでしょ……。


「ば、バカなんだから………」

「え? 何か言った?」

「何でもない! とにかく、着替えたらお店のホールに出なきゃいけないから、また後でね!」


 私はそう言うと、部屋に入り、制服に着替える。

 身だしなみを整えて、三角巾を頭にかぶり、完成だ。

 メイクはあっさりとした感じのものにして、準備完了。


「じゃあ、行って来るわね」

「あ、俺も準備できたから」


 そう言う藤原くんを見ると、ジーンズのパンツに上は白のTシャツのみ。

 そこに作業用の服をサッと羽織るだけ。

 なんとも、男性用の服は楽そうだなぁ……。


「じゃ、じゃあ、一緒に行く?」

「お、おう! 今日も一緒に頑張ろうぜ!」

「実家のお手伝いをしっかりと手伝っているんだから、明日はお土産買いにどこか連れて行ってよね」

「う、うん。分かった————」


 私はそんな彼の頬にチュッとキスをする。

 彼は驚いた顔でこちらを見てくる。


「そ、その……、今日の分、ね!」


 私はそう言うと、足早にお店の方に走っていった。


「一緒に行くんじゃなかったのかよ……」


 藤原くんは私の背中に向かって、ポツリと呟いた。

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