第24話 性欲と純愛の狭間で……③

 ザァ———————………


 シャワーの温かいお湯を全身で受ける。

 が、私の心臓の音は高鳴っていた。

 つ、ついに来ちゃったのだ。ら、ラブホテルに…………。


「あ、雨宿りで来たけれど、やっぱり結月だって期待はしちゃうよね……?」


 私は自身の肌を流れ落ちるお湯を見つめつつ、ポツリと呟く。

 夏は汗をよくかくから、もしも……もしもの時のために、しっかりとボディソープで体を洗う。

 スンスンッ! と鼻で腕を匂うが汗のにおいなどはなく、ボディソープの優しく甘い香りがする。

 これだけ綺麗にしておけば大丈夫かな……。

 私は泡を洗い落とすと、湯船につかる。

 ゲリラ豪雨でがっつりと冷えた体の芯までしっかりと温かさが沁みてくる。


「あったかい………」


 それにしても、かなり大きなお風呂だ。

 一人で入るには勿体ないような気がしてならない。


「結月も一緒に入っても良かったかも……」


 そうすれば時間が短くて済むから、一緒にいられる時間も長くなるのに……。

 と、少しばかり自分勝手なことを考えた自分を少しばかり内心で咎める。


「初めて……か…………」


 私はちゃぽんとお湯から腕を伸ばし、その腕を見つめる。

 そして、ゆっくりと手を胸の部分に当てる。


「初めてをするなら、やっぱり結月がいいな…………」


 つい、本音を言ってしまう。

 藤原くんがこの場にいないのは分かっているのに、何だか恥ずかしくなってしまい。

 そのまま湯船にぶくぶくと顔を沈めてしまう。

 私は気持ちを落ち着かせると、そのままお風呂から上がり、水気をふき取ると用意されてあったガウンを着る。

 おおぉ………。何だか洋物の映画で見たことのあるものだ……。

 袖に腕を通すと、ふんわりとした肌触りが何とも言えず気持ちがいい。

 これ、すごくいい——————!

思わず欲しくなってしまった。いけない、いけない。

 シャツなどを乾かす準備をしてから、浴室を後にする。

 そこにはソファでくつろいでいる藤原くんがいた。

 慌ててリモコンを操作したような気がするけれど、今は別に気にしなくてもいいか、とそのままにする。


「結月、いいお湯だったよ。結月も入ってきたら?」

「お、おうっ!」

「それにしても、こういうホテルってこんなに大きなお風呂なのね……。一人じゃなくて、二人でも十分一緒に入れたと思うよ」

「ええっ!? 二人で?」

「うん。それくらい大きかったよ」

「で、でも、二人で入ったら、お互いが見えちゃうじゃないか……」


 そう言われて、私は「あ……」と小さく言葉を漏らして、恥ずかしさで赤面してしまう。


「そ、そういうつもりじゃなくって……。あ、あの……」

「ご、ごめん! 俺、入ってくる!」


 藤原くんは逃げるように浴室に向かっていった。

 私はそっと浴室の方に目をやる。

 驚いたことに、浴室はほぼ丸見えに近い角度だ……。

 いや、これはさすがにどういうプレイ? 羞恥?

 私は心中穏やかになれなくなってしまう。

 あ、そうか。だから、藤原くんはテレビを見て、私の方を気にしないようにしてくれていたのか……。

 それならば、と私もテレビのリモコンのスイッチを押す。

 と、私は思わず画面に釘付けになってしまう。

 部屋に設置された60インチもありそうなテレビに映し出されたのは、綺麗な肌をした女優さんが一糸まとわず、男性と絡み合っている姿だった。

 しかも、その場所というのが、まさかの浴室—————!?

 シャワーのお湯が肌のなめらかな流線を滑り落ちつつも、激しく男性が女性の後ろから腰を打ち付ける。

 女性は壁に手をつき、何とか体を支えるが、口からは甘い吐息とともに、喘ぎが漏れ出していた。

 腰を打ち付けるのをやめると、そのまま男性は女性を抱きしめ、優しく唇を奪う。

 て、これ、アダルト~~~~~~~~~~~~~~っ!?!?!?

 たぶん、藤原くんのことだから、私の方を見ないで済むように、とテレビをつけたに違いない。

 しかし、突如と放送されているエッチなシーンに釘付けになったのか、頭が真っ白になったのかは変わらないけれど、見てしまっていたのだろう。


「はわわわわ…………」


 思わず私はリモコンに手を伸ばそうとする。もちろん、消すためだ。

 しかし、勢い焦った私は思わずリモコンを跳ね飛ばすようにしてしまい、そのままテーブルの下に落としてしまう。

 テレビから目を背けようとするけれど、内容は激しさを増し、女優の声も本気のような声に聞こえてくる。

 これは演技であって本気でない。

 そんなことは十分に知っている。しかし、それ以上にこれから、このような行為をしてしまうかもしれないと思おうと、私は思わずそのシーンを凝視してしまった。

 お風呂場で女優は足をガクガクとさせて腰砕けになり、それを男優がひょいっとお姫様抱っこでベッドに連れていく。

 なぜかタオルが敷かれたベッドに寝かされた彼女は、抵抗する暇もなく、そのまま男性の指で果てる。果てた後もまだ執拗に———————。

 私はそこでリモコンに手が届き、スイッチをオフにする。

 す、すごい……。もちろん、見ちゃいけない年齢だから、ああいうものをしっかりと見たのは初めてだけど、衝撃が強かった。

 あれは演技。演技だけれど、同じようなことをこれからする……?

 しかも、浴室シーンって—————。

 だからさっきの藤原くんの反応は何かあるような違和感を感じたのだ。


「も、もしかして!? 結月、私と浴室でシてるのを妄想しちゃってたのかなぁ………」


 自分で言いながら恥ずかしくなる。

 私は彼が帰ってくるまで、ベッドで横になっておこうと思い、ベッドに飛び込む。

 柔らかなベッドは私を受け止めると、うつぶせのまま、ベッドの枕もとにあるものに手が伸びる。


「これって……ローションってやつかしら……」


 どこぞのメーカーのサラダドレッシングの容器に似た感じのものだが、斜めに向けるととろりとした物体が角度に合わせて移動しているのがわかる。


「それにこれって————」


 私は容器を開けると、そこには5枚つづりの避妊具があった。

 ご、五回もしちゃえるの!?

 それに、もしもの時用というのがよく分かるが、避妊薬(箱を見る限り、アフターピルと呼ばれるものらしい)も置かれていた。


「これって本当に飲めば、もしも、中に出されても大丈夫なのかしら……」


 て、私ってば何を考えているの!?

 まだ、初めてすらしたことがないのに、突如の中出…………。


 がちゃ………………


 突如、後ろの方から音がする。

 私は振り返ると、そこにはガウン姿の藤原くんがいた。

 私の姿はというと、避妊薬の箱を右手に持ち、コンドームを左手で持っている。

 いや、普通にヤる気満々の女の子にしか見えなくない?

 私は一瞬の判断ミスによって起こった彼への誤解を解かなければと焦りを感じて、血の気が引いていくのがわかる。

 それに私の今の姿は彼に下着を丸見えの状態という何とも彼の性欲をそそる状態だということも彼の理性を壊す要素にもなったかもしれない。


「ち、違うのよ、結月! これはね—————」


 私はうつぶせから起き上がるようにしつつ、反論を始める。

 が、その動きはそのまま彼によって封じ込められる。

 両腕の手首を封じ込まれて、私は身動き一つできない。

 少しばかりの恐怖を感じないわけではない。

 確かに相手は藤原くんなのだけれど、このままでは何だか強姦に近いそれにしか思えない。

 そう思い、顔が強張った瞬間————。

 彼はそっと私を抱き起し、そのまま抱きしめられる。


「無茶苦茶にしたりなんかしないよ……。お互い初めてなんだからさ……」

「うん。ありがとう、結月」

「少し怖かった?」

「めっちゃ怖かった……」

「でも、さっき、見てたでしょ? エッチなヤツ……」


 私は思わずピクンッと反応してしまう。

 演技だってわかっているのに、なぜか下腹部が少し熱くなっているのは自分でも分かっていた。


「キスしてもいい?」

「…………うん」


 私は小さく呟き、頷く。

 彼の顔が近づいてくる。

 うん。少し濡れた髪、そして彼の顔……。

 藤原くんの顔面偏差値は彼が思っている以上に、カッコいい。

 いや、恋人フィルターがかかっているとか言わないで欲しい。

 マジでイケメンだと思う。どうして、みんなは彼を放っていたのだろう……。

 かくいう私も人間関係を築きたくないせいで、彼のことをないがしろにしていたけれど………。

 ちゅっ……ちゅっ……

 と唇が何度か触れ合い、そしてそのまま深いキスに入っていく。

 口の中で舌が絡み合い、彼の温かさが私に伝わってくる。

 そして、そのまま私は再び押し倒される。

 彼はそのまま私の横に並ぶように寝転び、首筋に軽くキスをしつつ—————。

 彼の男らしい指が私の敏感なところを—————。

 ダメ! このままじゃ、声が漏れちゃう~~~~~~~。

 いつの間にかはだけたガウンから顔をのぞかせるピンク色の突起に彼がちゅっと吸い付いて、私の我慢は限界を超えた。


「ふわぁぁぁぁ…………」


 も、もう、このままあの映像みたいにきっと私たちは——————。

 期待と喜びと恐怖がうずまき、私の心臓が大きな音を立て始めた。

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