第24話 性欲と純愛の狭間で……②
こういうときの女の子って本当に力が凄い……。
俺は北条さんに抱きしめられたまま、直立不動となる。
周囲の目があるというのに、彼女はぎゅっと抱きしめたまま動こうとはしない。
「こういうのって恥ずかしいね」
あ、冷静になった。
そして、俺のも冷静になる—————。
「ご、ごめん。考え事してた……」
「田垣さんのこと?」
「え? それもあるけれど、翼のことがメインかな……」
「んんっ? どうして私のことを考えるのに田垣さんが出てくるんだろう……?」
「翼は俺がどんな人だと思ってる?」
「正直に忖度なしに、優しくて大切にしてくれる人」
いや、破壊力なっ!?
そんな誉め言葉を面と向かって、しかも、この至近距離で笑顔で言われて、男がドキッとしないわけないだろ!?
「あ、ありがとう……」
思わず照れてしまう。
「そんな俺になれたのは、田垣さんが中学時代に損得なしに接してくれたからなんだよね」
「じゃあ、今の結月の性格を作ったのは—————」
「うん。田垣さんのおかげかな……」
「そっかぁ~。うーん。何だかいいなぁ~」
「—————え?」
「いや、私ってまだ結月にとって、付き合い始めて、それほど日が経ってないじゃない? ま、言うて、恋人同士になってから1か月くらいじゃない?」
「ま、まあ、確かにそうだよね」
「でも、こんなに好きになっちゃうって思ってもなかった………」
そう言い切った彼女は、恥ずかしさから俺とは視線をあわさずにいた。
俺の片思いからこんなにも素敵な彼女ができるなんて思ってもなかった。
それは俺も同じ気持ちだ—————。
「とにかく! しっかりとデートのエスコートしてくれるんでしょ?」
「もちろん!」
「じゃあ、他の女のことなんて考えないで!」
「あ~、まあ、そうだよね……」
そう言うと、俺は彼女の手を取り、そのまま金閣へと続く道を歩いた。
彼女は金閣を見ると一言————、
「教科書と全く一緒だわ……」
と言いながら、同じ構図で写真を撮っていた。
もちろん、そこに俺ら二人が一緒に入った写真も撮った。
そのまま金閣に一番近いバスの停留所である「金閣寺」から銀閣の最寄のバス停である「銀閣寺」までバスで移動する。
見慣れぬ景色に北条さんはバスの窓からキョロキョロと色々と眺める姿は小学生の子どものそれと同じような印象だった。
そんなことを笑いながら彼女に言うと、彼女はふたたび頬を膨らませて、俺のお腹のあたりをポスポスと小突くように叩いた。
周囲から見れば、沸点にまで届きそうな感じのイチャコラを展開した。
周りのお客さん、ごめんなさい。
銀閣は間近で見ることができ、こちらも北条さんにとっては感動だったらしく、スマートフォンのカメラで写真を収めたり、その景観を撮影したりと興奮状態だった。
見学を終えた後、銀閣の通りにある
付け添えられた塩昆布の話をしてあげたりすると、彼女はいたく感心してその話を聞いていた。
そこからバス道を西に戻ったところに、京都大学がある。
俺たちの高校は関東だから、基本的には関東の大学に進学する生徒が多いけれど、幾ばくかの生徒は京都大学にも進学している。
北条さんのような学年順位の人ならば、京都大学に行く人もいたりするのだろうか。
俺はそんな思いもあって、彼女をこの学舎に連れてきた。
校内に入りはしないものの、正面からその学舎を見つめる彼女の目は、どことなく憧れを感じさせるようなものだった。
「やっぱり、京都大学は京都大学だね………」
彼女がこの言葉をどういう意味で言ったのか、その時の俺にはまだ分からなかった。
もう少し西に行けば京阪の出町柳駅まで行くことになる。
そのころには京都の空には暗雲が立ち込めていた。
そして———————、
ポツポツポツ…………ザァ————————————ッ!!!
大粒の雨粒が、蛇口を解放させたかのように空から落ちてきた。
先ほどまで晴れていた京都の町は一気に灰色と化す。
雨宿りができる場所に大勢の人たちが避難する。
「すっごく濡れちゃったね……」
「翼、大丈夫?」
と、俺が彼女のほうに視線をやると、彼女の服がびしょ濡れで、透けてブラジャーの色がうっすらと見えているのがわかる。
ここには大勢の衆目があることを即座に気づき、彼女を覆い隠すように立ちはだかる。
「ちょ、ちょっと!? 結月? どうしたの?」
「そ、その、服が………ね?」
皆まで言わなくても察して欲しいという感じで彼女に諭す。
彼女は「服?」と言って、チラリと視線を下にやると、顔を真っ赤にして、無言になってしまう。
「もしかして、結構降るのかな……」
「何だか、天気アプリで見たら、そんな感じだね……。それにこの辺一帯にずっと降り続いてる」
「ゲリラ豪雨か……」
「ま、仕方ないよね……」
そう彼女が言った瞬間、小さく「くしゅんっ!」とくしゃみをした。
そっか。一気に雨が降ったせいで、路面温度も急激に下がっているんだ……。
このままじゃ、北条さんが風邪をひいてしまう。
「ねえ、とにかく、どこか服を交換するか何かできる場所があればいいんだけれど……」
「でも、この辺にそんな服屋とかあるの?」
「ないなぁ……」
うん。絶望的な状況……。
とにかく、彼女が濡れているのを何とかしてあげなければ……。
「結月……? ああいった場所って、シャワーとかあるのかな?」
「え?」
俺がせわしなく視線を右、左にやっていると、北条さんから一つ提案がある。
指さす方向には、オシャレな外観の建物がある。
北条さんはスマホの画面をこちらに向けてくる。
そこには、シャワールームの写真などが載っているホテルの写真が出てくる。
「ここで休憩もできるみたいだから、そこで一休みしない? シャワーも浴びれるみたいだし……」
いやいやいや、あのホテルって、普通のホテルじゃないでしょ!?
あれ、ラブホテルだよね!? いや、最近はブティックホテルとか言って、少しエッチな印象は薄れてきているけれど、決して違うものじゃないでしょ!?
俺は驚きふためく。
さすがにこのまま入るのは———————。
その時、彼女は俺に身を寄せてぶるりと身を震わせる。
確かに俺もだんだん体温が下がってきているような気がする。
「じゃあ、入りましょう」
「う、うん……」
俺は彼女の手を引くと、そのままオシャレな建物へと入ることにした。
受付を済ませて、ルームキーを手渡され、そのまま部屋へと向かう。
部屋に入ると、なぜかホッとした。
カバンを傍に置いて、俺は室内をぐるりと見渡す。
大きなテレビにソファにテーブル、大きなダブルのベッドがある。
奥の方にはバスルームがあり、冷えた身体を温められそうだ。
「先にお風呂に入ってきたら?」
「うん……そうする」
北条さんはそういうと、そのままバスルームの方に向かう。
俺は机の上にあるケータリングサービスなどを手に取る。
軽く食事もできるようだ。夏だというのに、温かいスープとかも頼めるらしい。
出てきたら、彼女に出してあげるのも一つかもしれない。
「て、ていうか、ここってラブホテルなんだよな………」
俺の心臓の音が耳まで聞こえてきて、正直五月蝿いと思うほどだった。
ここはどう対応するべきだ?
いや、何もやましいことなんてしないんだから、気にする必要はない。
そ、そう。今、俺たちがやるべきことは雨に打たれて冷え切った体への対処なのだから——————。
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