第23話 学業も恋も成就したい!③
「あ、田垣さん……?」
「そう! 覚えていてくれたんだね!」
藤原くんが少し不安そうに問い返すように言うと、田垣さんと呼ばれた女の子は喜ぶ。
私は何だか気まずいような気持ちになってしまう。
ここにいてもいいのだろうか————と。
「さすがにまだ引っ越してから4か月しか経っていないんですから覚えてますよ」
「そうかい? 私は心配していたんだよ? もしかしたら、私のことを本気で忘れてしまうんじゃないかってね」
『私たち』ではなく、『私』なんだ……。
どういう関係なんだろう。
私はある意味常備スキルようなものである「存在感隠し」で大人しく後ろに立つことにした。
「ところで、やっぱりお盆だから実家に帰ってきたのかい?」
「あはは……。まあ、そんなものです。母さんがうるさいから」
「そりゃそうだろう! だって、頼子さんは君のことをいつも大事にしているからね!」
私と同じで頼子さんのことを名前で呼ぶなんて近しい間柄なのかな……。
私の心はいつしかギュゥと力づくで掴まれたような痛みのようなものを覚えていた。
何だか、苦しいな………。
「もし、時間があるならば一緒に食事でもして、東京での生活の苦労話でも聞かせてもらえればと思っていたんだけれど、お連れの女性が待っているみたいだね」
あれ? 私のこと気づいていらっしゃったのね……。
私のことをスルーしながら話を進めていたのかと思っていた私は少しばかり驚いた。
「ああ、そうなんだ。こちらは北条翼さん。東京で仲良くなったんだ」
「あ、あの……結月の彼女の北条翼と言います」
私は緊張しながらもはっきりと言い放つ。
ここで怖気吐くつもりなどない。自分は藤原くんの彼女であることをはっきりと伝えておかなくてはならない。
何だか、田垣さんに負けそうな気がしてしまったから。
つい、焦りからそんな発言が出てしまった。
目の前の田垣さんは虚を突かれたような表情で、私を見つめてくる。
そして、左の手のひらに右手の拳をポーンと叩いて、
「結月くん、やるじゃないか! 東京に行っていきなりリア充デビューかね?」
「ええっ!? 田垣さん、そういう恥ずかしいことを言います?」
「うんうん! いやぁ、私としても幸せだよ! ついに、あの結月くんに春が来たのだからね!」
あれ? 思っていたのを印象が違うんだけれど……。
田垣さんが藤原くんのことを好きなのかと思っていたのだが、反応からして実はそうではないらしい?
「ごめん、翼。抜けたまま会話に突入したのが問題だったわ……」
「あ、そうだったね。私は結月くんと中学時代の同級生で学級委員をしていた
中学時代のことを知っている女の子。
多分、その一部始終を見てきた人なのだろう。その言葉を発するときの表情はそれまでの明るさは微塵にも感じられなかった。
「だから、決して、私が結月くんの恋人だという風に誤解するのだけはやめてくれよ?」
「ま、そういうわけだから、翼もそんなに……その威嚇的な対応はしないで大丈夫だよ」
「———————!?」
私ってば勘違いから凄い過ちをしてしまったのではないだろうか。
物凄く恥ずかしい!
穴があれば、飛び込んで蓋をしたいレベルだ。
「あ、あの……すみません。私の勘違いで……」
「あはは。大丈夫だよ。それよりも結月くん、先ほどの話の続きだが、彼女、すごく良い人じゃないか!」
「えっ!? あ、あの!?」
田垣さんは私の手を両手で握りしめてくる。
私は驚きふためく。
「どうやってあの女子恐怖症の結月くんを堕としたんだい?」
「堕とす!?」
「まあ、北条さんは結月くんのお眼鏡に叶いそうな可愛く美人な清楚系黒髪女子だから———」
「田垣さん!? 俺の好きな女性のタイプを性癖みたいに語るの止めてもらえませんか!?」
え………。
もしかして……、いや、もしかしなくても藤原くんのタイプにドンピシャだったんだ……。
「それに————」
と、田垣さんは私の方に近づき、
「おっぱい好きの藤原くんが好みそうなサイズだね!」
いきなり北野天満宮の境内で同い年の委員長キャラの女の子から胸を揉まれる私。
ちょっと待てい!
「な、何するんですか!?」
「そ、そうですよ! 翼の胸は俺が————」
「俺が?」
「あっ!? え、いや…………」
「そっかぁ~。もうラブラブなんだね? そんなに揉まれているとは……」
「揉まれてませんから!」
私は本気で反論する。
さすがにこの流れはダメでしょ!?
私はそんなにエッチじゃない! ……ないよね? あれ? 自信がなくなってきたかも……。
「で、結月くん、こんなに立派なおっぱいを持っている女の子と付き合っているんだ……。すでに初夜は済ませたのかい?」
「「ぶふぅっ!?!?!?」」
私と藤原くんは二人して吹き出す。
こ、この人、本当に委員長なのか? 単に委員長キャラをかぶっている変態なのではないだろうか。
「ま、まだです……」
素直に答えてる————————っ!?!?!?
まあ、こういう素直なところが藤原くんの良いところでもあるんだけれど……。
「そうかぁ、まだなのか……。でも、その時は近いな————」
「どうして、急に中二病を発症するんですか?」
「いや、単にそう思っただけだよ。まあ、間違いなく近いうちに、結月くんは獣になるだろうね……。普段優しい分、きっと獣になった時はとてもワイルドな彼に出会うことになると思うよ……。ああ、そんなタイミングで私が近くで
あ、今、
この人、私たちのエッチを見守りたいとか、どういう精神しているんだろう……。
そして、田垣さんは私の耳元に顔を近づけて、
「結月くんが獣になったときは誰にも止められない……。私はそう予想する。だから、悪いけれど、その時は最高の気分を味わうんだよ」
「いや、普通に言ってることセクハラ案件ですからね!?」
私は突っ込まずにはいられない。
本当にこの人は根っからのエッチな女の子なんだろう。
「それにしても、本当に北条さんのおっぱいは弾力、形も最高だね。昔から、結月くんのおっぱいレーダーは最強で精度も高いと思っていたけれど、ここまでの逸材を見つけるとは……」
「だから、突っつくのやめてもらえませんか!?」
夏の薄着でおっぱいを突っつくのはさすがにご法度でしょ……。
ツンツンされるたびに、ふにょんと柔らかく、上下するその胸を藤原くんは何も言わずに凝視している。
いや、助けてよ………。
「結月……。助けてよ……。彼女の貞操の危機なんだけど?」
「あ、ご、ごめん……。つ、つい見とれて………」
「彼女のおっぱいの上下運動見とれてんじゃないわよ~~~~~~!」
北野天満宮の境内に、似つかわしくない叫び声が木霊したのであった。
ああ、神様、ごめんなさい。
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