第23話 学業も恋も成就したい!②
ランチを済ませた私たちは再び京都駅まで戻ってくると、そこからバスに乗り込む。
今度は「立命館大学前行」というバスに乗り込み、京都の町を北上する。
運よく席に座ることができた私は次の場所が早速気になり始める。
もしかして……。すでに行き先が案内表示板に出ているのではないだろうか、と。
「次はどこに行くの?」
「俺たちは高校生だからな……。受験のことも考えなきゃダメだろ?」
「もしかして、大学に行くの?」
「いいや。大学じゃないぞ。あ、なるほど。行き先がそうだもんな。別に行ってもいいけれど、入れないわけだから、外から見ることしかできないんだけれど……」
「あはは……。そうなんだ。それによく考えたら、まだどこの大学に進学して何を勉強したいか、なんて考えてもいないかも」
「でしょ? それに翼の場合、学年首席なんだから、国公立っていう選択肢もあるでしょ?」
「うーん。まあ、そうかな……。でも、まだすぐに決められないかな……」
それは本当だ。
だって、まだ高校一年生だし、それに藤原くんと付き合って間もないので、彼と同じ大学に行きたい! という気持ちが発作的に起こったとしても、それでいいのだろうか、と並んでしまう。
大学は自分にとって人生の選択肢になってくるものなのだから、丁寧かつ慎重に選択肢を絞っていきたい。
「じゃあ、どこに行くの?」
「北野天満宮だよ」
「北野天満宮って、学問の神様「菅原道真公」を祀る、全国天満宮の総本社よね?」
「そ。学業成就や厄除けのご利益があるとされていて、多くの参拝客で賑わうんだよ。 確か、始まりは10世紀中ごろ。天神信仰の発祥の地であって、親しみをこめて「北野の天神さん」、「北野さん」なんて呼ばれているんだよね」
「学問の神様の総本山かぁ……。これはお詣りしておかないとね!」
「そう思うだろ? デートはデートだけれど、ちゃんと学生って本分を忘れちゃいけないからな」
「もちろん! また、学校が始まったらちゃんと勉強教えてあげるから」
「その件は何卒、よろしくお願いいたします」
藤原くんは私の方に丁寧にお辞儀する。
うむ。苦しゅうない!
そんな他愛もない会話をしていたら、渋滞も含めて40分弱で停留所に到着する。
降り立つと、再び蝉の鳴き声が耳を埋め尽くす。
「うっ! やっぱり暑いなぁ~」
私はすぐさまトートバッグから日傘を取り出して広げる。
うう。油断大敵! 紫外線は女の敵————!
「本当だよね。京都って地元にいた時はそんなに感じなかったけれど、結構暑いな……」
「でも、ここが総本山なんだから、現を抜かしてちゃダメよ! きちんとお詣りしなきゃ!」
私は意気込んで、敷地に足を踏み入れる。
それほど広い敷地ではないにしても、本殿はやはり立派なものだ。
視線を移すと、絵馬がたくさん掛けられていて、やはり受験ってのは最後は神頼みなんだなと、気持ちの後ろ盾の大切さを感じる。
「まずはお詣りだね」
「うん」
私たちは本殿で賽銭を投げ入れ、お詣りする。
もちろん、学業成就を願ってだ。
少しの沈黙の間の後、顔を上げて私は一息つく。
大学か……。私は大学に対して、どう考えているのだろうか……。
両親の遺産があるので、大学に行く費用は困らない。すでに私がその金額については、定期預金を組んで少しでも多くのリターンを望んで処理をしてもらってある。
感情に流されるならば、藤原くんと一緒の大学に行きたい。
大学が異なれば、すれ違いも多くなるし、それこそ、同棲を続けることができるかどうかすら分からない。
「翼?」
「え? うん? どうかした?」
「それはこっちのセリフ。どうかしたの? 何だか、ぼーっとしていたようだけれど」
「ううん。大丈夫。ちょっと考え事をしていた」
「神様にお願いをしたのに?」
「うん。神様にお願いをしたから、かな……」
「そうなんだ。叶うといいね」
「ん?」
「翼の願い!」
藤原くんはニカッと白い歯を見せながら、微笑んでくれる。
心の底からそう願ってくれている。
でも、私はふっと考えてしまう。
————藤原くんは大学が私と別々になるのは、嫌じゃないの?
私は喉元まで込み上げてきたその言葉をぐっと押しとどめる。
彼には彼の人生があるんだから、私の我が侭で縛り付けるなんて以ての外だ。
「私も祈ってるよ。結月の夢が叶うこと」
「お、俺の夢か……?」
「うん」
「まあ、年初に祈ったことは叶ったから」
少し頬を赤らめて私の方をチラッと見る素振りで、私も気づいてしまう。
ふ、藤原くん……それは公衆の面前での私に対しての羞恥プレイですか?
私は驚きでワナワナと震えながら、この彼氏は何を言っているんだぁ~、と視線に怒りを込める。
ごめんなさい、菅原道真公。
あなたが学問の神様だって分かっているし、それについてお願いしたにもかかわらず、目の前でイチャイチャするのは良くないですよね……。
そんな謝罪の気持ちも込めて、もう一度手を合わせてお辞儀をしておく。
「まったく! 恥ずかしいよ! あんな言い方するなんて!」
「ごめんごめんって! さあ、学問の神様なんだから、お守り買っておこうぜ!」
「話を逸らさないの!」
さっき伏見稲荷でお守りを買わなかったのは、ここに来る予定になっていたからか……。
私はふとそう感じた。
だから、稲荷山登りをして、そのまま京都駅へと戻ってきたのだ。
お守りを見てみると、学業、健康から縁結びなんてものもある。
菅原さん、何か手広く商売をやってますね……。
て、そういう邪な心で見ちゃいけない……。
「これはそれぞれのお金で買おう!」
「お、おう!」
私が提案すると、藤原くんは頷いてそれぞれお守りを購入する。
私は彼に見えないようにそっと縁結びのお守りも購入する。
そして、私はそっと学業守りと縁結びのお守りをトートバッグに大事に入れた。
「あ、お守り、学校に付けて行ったらお揃いになっちゃうね……」
私は購入した後でそう気づく。
そうだ。これだとまるで匂わせ見たいじゃないか……。
私が学校では男の子との関係を断ち切りたくて、陰キャで通しているのに……。
学校に同じお守りを付けて行ったら、それこそ一緒に買ったのか……なんてことになりかねないかも……。
「大丈夫じゃないかな……。そこまで心配しなくても、それほど誰かから見られているわけじゃないからね」
「そ、そうか……。じゃあ、心配しなくても大丈夫だよね」
「うん。心配しなくてもいいと思うよ」
私はそう言われて、ホッとした。
この間の期末考査の時も図書館で一緒に勉強をしているのを周囲からは知られている。
ただ、それは勉強を教えてほしいとお願いされたから、ということで誤魔化している体があるので、それ以上のことは何もないと周囲にも話していたのだ。
「それよりも絵馬、すごいぜ!」
彼が私の手を繋いで引っ張ってくれる。
たくさんの絵馬には、学業に関する書いた人の思いが説に込められていた。
———大学に絶対に合格できますように。
———京都大学に受かる!
———司法試験、絶対合格。
様々な願いが込められた多くの絵馬は何だか、自分が書いたものではないのに、何だか、その人たちの願いから、自分の勇気を貰えるような気がする。
「あれ? 結月くん?」
「…………え?」
遠くから女の子の声がして、私は咄嗟に振り返る。
そこには光の所為で少しブラウンがかったロングヘアの女の子が立っていた。
笑顔で藤原くんに手を振っているその女の子を見て、なぜか私の胸はチクリと痛みだした。
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