第20話 結月くんの実家③
到着した日は何だかあわただしい一日だった。
昼食に呼ばれると、そこには藤原くんのお父さんである道隆さんがいらっしゃって、挨拶をした。
道隆さんは私を歓迎してくれていたが、握手をした後に抱擁しようとしたところを頼子さんから止められた。
てか、さすがにこのスキンシップの近さは驚いた。
頼子さんが何やら道隆さんに耳元で呟いた後に、道隆さんの顔が青ざめていたのだが、何を言われたのだろう……。
まあ、頼子さんのことだから、道隆さんの命の危機が迫っているというわけではないだろうけれど……。
「それにしても、結月に彼女ができるなんてね……。しかも、今は同棲中だとか?」
「あ、いえ、一応、ルームシェアということにしておいてください」
「ああ、ルームシェアってことにしておいた方が良いんだね……」
「何か訳アリってことなのかな?」
「別に深いわけはありませんけれど、まだルームシェアをしたときはまだまだ付き合っていませんでしたから……」
私がそう言うと、道隆さんはふーむと考えて、
「私の時とは時代が変わったんだね……。私の時なんか、二人一つ屋根の下なんかになれば、すぐに子どもが出来そうなもんだよ」
「それ、きっと道隆さんと頼子さんのご関係だからかと」
「え? そうなの?」
そこでどうして頼子さんに尋ねるの?
頼子さんは笑顔で、
「まあ、私は道隆さんのこと好き過ぎたから、きっと早かったのかもね。この子たちにはこの子たちのペースがあると思うけれど、きっと初めてを終えれば、変わっちゃうわよ」
「言い方に問題がありませんか!?」
私は思わずツッコミを入れてしまう。
いや、突っ込まざるを得なかっただろう。
とはいえ、少し思い出してみると、何だかそう言われると理解できてしまうところがある。
キスまではかなり時間がかかったけれど、しちゃうと結構キスは頻繁にしているような気がする。
別にタガが外れて壊れちゃったわけではないけれど、今、キスしたいな、ってときにキスをしちゃっているような気がする。
そう思うと、もしも、藤原くんと……ヤっちゃったら、ズルズルとしちゃうのかしら……。
い、いや、そんなことはない————!
私には理性があるじゃない! 藤原くんにも…………。
その時、私は彼が言っていた言葉を思い出した。
『俺だって男だし……。それに好きな人が目の前にいて、理性を保つって結構大変だからさ』
ん————————————っ!?!?!?
私は思わず藤原くんの方に視線を向けてしまう。
そうだ。私が堪えても、藤原くんが堪えられなかったら、私との初夜を迎えちゃうことになる。
そ、それに頼子さんに
おっぱいも何だか流れで揉ませちゃったし………。
普通に考えれば、もうあとは一線を越えるだけの前準備は完了しちゃっているような者よね……。
私は冷や汗がタラタラと流れている。
「どうかしたの? 翼ちゃん」
頼子さんの声で私は現実に引き戻された。
私は深呼吸をすると、
「仰る通り、私たちなりのペースで付き合っていこうと思います。そもそも出会ってからルームシェアを始めるまでの日も短かったので、まずは恋人としての時間も大切にしたいなって思っているので」
と、無難な回答を述べておこう。
いや、もしかすると、それは脆くも崩れ去ってしまうかもしれないけれど、それは私と藤原くんの理性のある限り………。普通に考えれば、怖い。
私たちの理性が吹き飛んでしまった時のことを考えると……。
「もう、結月くんのエッチ……」
「それは一部正解かな……。自分の大好きな女の子のエッチな体を見て、理性を抑えられる男なんていないと思うんだけれどな……」
「だって、もう何回していると思うの?」
「さぁ、3回くらい?」
「5回だよ……。結月くんの体、どうなってるの?」
「それを言うなら、翼だって………。まだ、俺を欲しているみたいだし……」
彼は後ろから私をギュッと抱きしめて、華奢ではない男の子の手が私の胸に沈み込む。
敏感なところに時折触れるのはわざとなのか、偶然なのか………。
私がピクリと反応すると、指を口の中に入れてくる。
「本当にエッチだよぉ………」
「翼もね—————」
そして私は彼の—————————。
「翼ちゃん?」
「あ、はい!?」
私は頼子さんの声によって現実に戻される。
頼子さんは私の方を心配そうに見つめる。
「大丈夫? 何だか、ぼーっとしているようだったけれど……」
「あ、はい。大丈夫です。たぶん………」
いや、全然ダメだった。
危ないを通り越しているでしょう。
私は真昼間の……しかも、藤原くんのご両親との昼食中に何て妄想をしてるのよ……。
てか、妄想の中の彼ってあれが本来の姿なの? それとも、私が妄想の世界で作り上げたもの?
それに私ったら何てエッチなはしたない女に—————。
口ではああいいながらも、しっかりと藤原くんを求めようとしているなんて………。
こんなのダメに決まってるでしょうが—————!
「まあ、付き合い始めて間なしなんだろう? じゃあ、しっかりと恋人らしいことをすればいいんじゃないかな……。まあ、父さんはそういうのが一つ飛ばしだったからね」
「道隆さん。きっと一つ飛ばしじゃなくて、全部飛ばしちゃってますよ。だって、あれで結月が生まれたんですもの」
いや、今、お昼だよね?
何でそんなエロティックな会話が普通に行われる!?
しかも、目の前にはあなたたちの愛の結晶体である子どもが聞いてるんですけれど!?
「あははっ! そうだったね! これは頼子さんに一本取られちゃったな~」
道隆さんは頭をポリポリと掻いた後、
「ま、私たちのことは気にしなくていいから。それに結月もこんなに素敵な女性と出会えたんだ。しっかりと大切にしてあげるんだよ?」
「分かってるって………」
藤原くんは少し恥ずかしがりながら、そう答えた。
何だか、これはこれで可愛いところがあるような気がする。
「おんや? 今、イチャラブレーダーが反応したわよ?」
「な、何ですか!? そのネーミングセンスのなさそうなレーダーは!?」
頼子さんが目を細めて私の方に視線を送る。
私は少しだけおどけて見せる。
が、どうやら言い訳のようにしか見えなかったらしい。
「いや、翼ちゃんが結月の方を見て、自然に微笑んだのを見ちゃったんでね。もしかして、恥ずかしがるのが可愛いとか母性本能がでちゃった?」
ビンゴ~~~~~~~~~っ!!!
私の心の中を覗かないで欲しいんですけれど!?
「まあいいわ。まだまだ二人ともお子様だものね……。しっかりと私たちで見守ってあげるわね」
「母さん、それなんか含みがあって怖いからな」
「何も含みなんてないわよ。本当にサポートしてあげるっていうよ」
「いや、何だか、一歩踏み込んできてるぞ?」
藤原くんのツッコミが入ると、道隆さんや頼子さんから笑いが零れる。
香ちゃんはドキドキしつつも、お兄ちゃんを大切にしたいという思いからか、見守っているという感じ……かな?
まだ、そこまで仲良くなれたわけじゃないけれど、本当の意味でこれから少しずつ距離を縮めれればいいのになぁ、と思うそんな一コマのような時間だった。
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