第6話 期末テストとご褒美を。(序)③
学校に到着すると、いつも通り、新田と一条がイチャイチャと……まではいかないが、幸せリア充オーラを放ちながら、俺に挨拶をしてくる。
「おっす、結月!」
「お前らは四六時中、そうやってくっついてんのか?」
「四六時中ってのは言い過ぎだよ!」
頬をぷーっと膨らませながら、一条は俺に抗議してくる。
「私だって、ちゃんと場を
「場を弁えてる? お前がか?」
「おっと、これは失礼な言い方だね~結月くん」
一条は姿勢を正して、俺の方に向かって胸を張る。
一条はバリバリの陸上部ではあるものの、乙女の膨らみはほんのわずか……。
だから、恥ずかしさはないのか……?
「私は常に純くんのことを思ってるけれど、高校での授業中や部活中は離れ離れになるからね! その時は我慢してるよ!」
「いや、そんくらいだけだろ?」
「うーん。そうかも……」
「いや、開き直んな! 帰りは最終下校で時間揃ってるんだから、別に問題なしだろうが……」
「そうだね! いやぁ、結月は頭がいいなぁ~!」
ニコニコ顔で、俺を指さしながら褒めたたえてくれる一条。
いや、これ、普通に褒めてないだろ!?
「ちなみに二人とも部活がオフの日とかどうしてるんだ?」
「オフの日? 普通に買い物に行ったりするよ」
「渋谷とか行くのか?」
「あはは! まさか~。まあ、たまには言ってもいいかもしれないけれど、普通に駅前のショッピングモールとかだよ~。高校生はそんなに裕福じゃないんだよ、結月クン!」
そうなのか。
こいつらは陽キャだから、それなりにデートと言えば、そう言うところに行くものだと思っていたけれど、そう言うわけじゃないんだな……。
「藤原がそんなことを気にするなんて、どうかしたのか? 何か、心境の変化か?」
「ん? いや、別にそんなんじゃねーけど……」
「ほうほう……。結月よ……もしかして、女ができたのか?」
「はぁ!?」
女と言っても偽りの彼女がな……と思わず叫んでしまいたくなるが、そうもいかない。
俺は不貞腐れるようなしぐさで、
「おいおい……。帰宅部の俺にどうやって彼女ができるっていうんだよ?」
「まあ、出会える時間だけはたくさんありそうだよね……。でも、出会える場所はなさそうだけど……。スーパーとかだったら、人妻に会えるかも?」
「生憎、俺は人妻好きでもねぇ~よ」
「確かに、結月にはそういう性癖はなさそうだよね……」
「変な安心の仕方をされても何だか無性に腹が立つんだが……」
そんな会話をしていたら、予鈴のチャイムが鳴る。
一条は「ヤバッ!」と言って、飛び上がる。
「もう、時間かぁ~。楽しい時間はあっという間に過ぎちゃうんだよねぇ~」
「てか、昼休みに会えるんだろ?」
「まあねぇ~。てことで、しばしのお別れだね! 純くん!」
「また後でな~」
「早く戻れって」
俺はイチャイチャをぶった切るように追い返すように言うと、一条は頬を膨らませて、
「結月は彼女がいないから、この気持ちが分からないんだよ! べーっだ!」
去り際の捨て台詞をきちんとこちらに投げ忘れずに立ち去る結月。
うん。あいつは本当に元気が取り柄だよなぁ……。
新田もこういうところが好きなんだろうな。
それにしても、一条って何だか勘が良いな……。あいつには絶対にバレそうな気しかしない……。
まあ、あくまでも『カノジョ契約』上での彼女だから、何とでもなると言えばなるんだけれどな……。
俺はようやく席に腰を下ろすと、バッグからタブレットや教材を机にしまい込んだ。
そして、ふと斜め二つ前の席の方を見ると、いつのまにか北条さんがいつものお下げなツインテール、黒縁眼鏡、無口という学校での3点セットで影薄いオーラをまとっていた。
いやぁ、本当にいつ来たのか、気づかなかったんだけれど……。
そうこうしているうちに朝礼が行われ、そのまま授業が始まっていく。
期末考査2週間前ということもあり、どの教科の先生も要点を極力搔い摘んで説明している。俺はノートを取ることに関しては、先日、北条さんに褒められた。
もちろん、ノートに綺麗にまとめておくことはとても重要なことだ。
自分が見返すためにあるのだから。
ただ、北条さんの説明はそこにさらにキーワードをおさえ、ポイントを追加していた。
板書以上に先生の授業中の話などもまとめていくのだ。今日のノートはその辺も意識したうえでまとめてみた。
そうすれば、見直した時に分かりやすいかもしれない……。そう、自分でも思えたからだ。
昼休みになると、スマホがブブッと震え、通知を知らせる。
開けると、先日、連絡先を交わしたばかりの北条さんからのメッセージが届いていた。
【ランチルームの奥の方に場所を取るので、食事を買って来てください】
まあ、確かに今日は急いできたから、俺も購買(というか、学校内に大手コンビニが敷設されているんだから驚きだ)で何か買おうと思っていたくらいだから、ランチルームというのはちょうどいい。
それにしても、ランチルームなんてたくさんの人が集う場所で話なんて、逆に目立つんじゃないだろうか……。
俺はそう思いながら、ランチルームに急いだ。
光玄坂学園のランチルームは、中学・高校が一斉に使用できる広さ、そしてその人数に対応する規模の厨房がある。
そして、何よりも、このご時世に学生証(実は全国で使える電子マネー(後払い方式)になっている)による決済で500円ワンコインの日替わり定食(ちなみにご飯は大盛りへの変更も可能!)が提供されるのである。
ちなみにこの日替わり定食の利点は何といっても、提供速度の迅速化にもってこいなのだろう。あらかじめ準備されていたものを、盛り付けて提供するだけだし、食材もそれに限って大量に発注すれば原価も安く済ますことができる。
学生だけでなく、ランチルームの運営会社にとっても利点があるのだ。
と、そんなことを考えていると、自分の番がやってくる。
「日替わり、ご飯大盛りで」
「は~い。じゃあ、タッチしてくださーい」
少し間延びした若い返事が返ってくる。
どうやら近所の住宅地からパートを雇っているらしく、若い女性が多い……。
だとしても、さすがに人妻に目覚めることはない、……断じてない!
俺は生徒証を読み取り機にかざすと、ピピッと決済が完了する。
手際よく盛り付けられたハンバーグとエビフライ(2尾!)と、すでに盛り付けてあるサラダ皿、みそ汁とご飯をお盆の上に配膳されていく。
それを手に取ると、北条さんに指示された奥の方を目指す。
そこで俺は「なるほど」を気づく。
ただ単にテーブルが並べられているような食堂だと殺風景だということもあり、ウチの学園のランチルームは観葉植物はいたるところに設置されている。
で、一番奥の方の席はこの観葉植物がブラインドのようになっていて、周囲からは見えにくくなっているのだ。
「よっ!」
敢えて、名前は呼ばずに挨拶だけ済ます。
彼女は無言のまま、座っている。
「久しぶりにランチルームに来てみたけれど、凄い人だな……」
「でも、大丈夫よ。これだけの人がいたら、誰がどこにいるなんか、意識してもなかなかみつからないわ」
なるほど。それがランチルームを選んだ理由か……。
『木を隠すなら森の中』ってことだね。
「まあ、時間もないんだし、食べながら話をしていきましょうか」
「何だか、硬いな喋り方……」
俺は早速、みそ汁を一口すする。
「仕方ないでしょ? もしも、誰か……そうね。私はあまり知り合いはいないから、あなたの知り合いに出会った時のためよ。フランクに話していたら、それだけ近しい間柄って思われちゃうでしょ? あくまでもここでは、藤原くんが私に勉強の相談をしているってことで」
「それ、普通にリアルだけどな」
「でも、ここではあまり関係性を近づけすぎないように……」
「おっけおっけ」
そう言うと、彼女も食事を始める。
彼女はパスタサラダを食べ始める。それを咀嚼して飲み込むと、
「で、藤原くんに行う勉強法なんだけれど、合宿ってのはどう?」
「合宿?」
俺は彼女の提案が何を意味しているのか一瞬、理解できなかった。
期末考査のために合宿って一体、何をするんだ—————?
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