🖋 有隣堂しか知らない世界 ライブ配信だって!

「絶対に嫌でやんす! わしはガラスペンのモデルになってもガラスペンにはなりまへん!」

「部長命令なんだよ。スモールG商事のためなんだよ」


 あゆみちゃんが何度説得してもワタルは首を縦に振らなかった。小さいオジさん族の中でもワタルが一番頑固である。あゆみちゃんは蓄光ちっこうであることと毛細管現象について詳しく説明することにした。


「テーブルに水を溢してみるね。ワタル、よく見ててね……ほら」

あゆみちゃんが溢れた水にティッシュペーパーの先をおくと、スーって吸収する。


「これがワタルの頭で出来るんだよ。あゆみ、見たいな。それに暗闇で光るって羨ましいな」

「……じゃ、やるでやんす!」


 小さいオジさん族で一番頑固だが、一番単純なワタルはそれならやると承諾した。擬態化するのは時間にして一時間くらいであると付け足すあゆみちゃん。


「あのね、あゆみもさっき知ったんだけど、変な文房具対決は来週火曜日の夜八時ライブ配信なんだって。あゆみ、どうしよう、緊張しちゃうな」

 

「緊張するのはわしの方でやんす!」

「なんで? ワタルはガラスペンに擬態化してればいいの。一言も話しちゃダメだからね。あゆみが一生懸命にプレゼンするから」


 対決相手の有隣堂スタッフはかなり有能だと聞いた。そして『文房具王になりそこねた女』として有名なバイヤーらしい。


「あのね、あゆみ、対決相手、岡﨑さんって言うんだけど調べたの。あゆみとキャラがかぶってイラってした。絶対に負けるわけにはいかないの」

「そっち? 文房具で勝負するんじゃなくてそこ競うんでっか?」


 ワタルは先が思いやられると突っ込んだが、それ以上言うとあゆみちゃんにビンタされると言葉を飲んだ。それよりもが気になる。判定はMCのブッコローというミミズクにかかっているからだ。


(あっしは、ブッコローの機嫌取りに徹するでやんす!)



◆ □ □ ◆

 火曜日。有隣堂しか知らない世界。ライブ配信日。


「本日のゲストはこの方です。スモールG商事のあゆみさん。すっごくチャーミングな方ですね……意気込みをお願いします。えっと¥#&*@34&*¥#@¥&**¥%¥」


 ミミズクのぬいぐるみ、もとい、MCブッコローが喋る。虹色の羽角をふわふわさせながらよく喋る。


「頑張ります! あの、コメントが来てるんですけど、見ていいですか?」

「おお、めちゃくちゃ来てますね。気になりますよね。どうぞ」


ライブ配信のチャット。コメント欄。


すいとう めさき 「頑張れ、あゆみちゃん」

あの美あこ 「ワクワクする」

はらだいこ さんかく「スモールG 商事最高!」

火鈴 「間に合ったー!」

はぐらし さまよったか「文房具王になってね」

大余綾薫「ブッコロー頑張ってね!」

有雲「ライブ配信なんだ。新鮮じゃん」

日澄つばめ「有隣堂で本買ってます」

詩人つきよ「ブッコローのファンです」

土岐五郎頼芸「地元にも遊びに来てね」

烏日コースケ「僕もガラスペン欲しい」

神刃ジン「書籍化されたら本置いてね」

77chama 「あゆみちゃん、かわいいよ」

仲律綿子「小さいオジさんっているんですね?」

あやめ みお「有隣堂で絵本買いました」

きしこ めりこ「遠くから応援してる、あゆみちゃん」




「あゆみ、感激です。みんな応援してくれてるよ、ワタル」

「わしの名前はないでやんす。それより、ブッコローって何者? 思っていたより実物は大きいんで驚きやした」


 ワタルの言う通り、MCのブッコローは思ったより大きい。キムワイプの箱を縦にして五個か六個分だろうか? 


「ブッコローさん、その小脇に抱えてる本って何が書いてあるんですか? あゆみ気になる〜。あと、どうして左右の目の色が違うんですか?」


 気になったことは何でも質問しちゃうあゆみちゃんにワタルは戸惑う。


つづく。

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