【変な文房具対決】ブッコローVS ワタル
星都ハナス
🖋 あゆみちゃん、YouTubeに出るってよ。
「部長、本当ですか? 本当にあゆみでいいんですか?」
「もちろんだよ、うちの社で一番かわいいのはあゆみちゃんだからね」
部長がそう言ってお茶を一口啜ると、あゆみちゃんは手を叩いて喜んだ。ふわふわと揺れるカール、口角の上がるタラコ唇が何ともセクシーだ。
「今度のプレゼンはスモールG 商事の社運がかかっているんだ。この文房具が売れたら一生安泰だよ。頑張ってくれたまえ、あゆみ君」
「はい、頑張ります。ゆうせかに出られるなんて夢のようです」
ゆうせかとは? 創業113年の老舗書店、有隣堂の公式YouTubeチャンネルのことで、『有隣堂しか知らない世界』の略である。有隣堂のスタッフがこのチャンネルを通して様々な世界、有隣堂しか知らない世界を毎週火曜日に発信している。チャンネル登録者数はもうすぐ23万人である。
「で、社長がスモールG商事の商品を世界に広めるためにこのチャンネルに目をつけたってわけ。社長の顔ですぐに出演させて貰えることになったんだが、我が社の一番の売りは分かってるね、あゆみ君」
「───我が社の一推し商品って小さいオジさんですよね。え、まさか彼らをプレゼンしちゃうんですか? シゲルさんは文房具じゃないですよ」
あゆみちゃんの眉根が下がり、笑顔が消えた。シゲルさんとはあゆみちゃんの大事な仕事上のパートナーだ。身長13センチ。青いジャージに身を包み、俳優水谷さん似のダンディな小さいオジさんである。
「妖精として紹介するならまだしも、大事なシゲルさんを文房具扱いするなんて、あゆみは嫌です」
脚を無理矢理開いてコンパスにしたり、頭をゴム化して消しゴムにしちゃうんだろうな。あゆみの大事なシゲルさんが女子高生たちに穢されるなんて、耐えられない。大きな瞳から大粒の涙がこぼれる。
「安心しなさい。イケメンのシゲルやミツルは考えてないから。文房具化できるのはワタルしかおらんだろ。ワタルなら女子高生たちに握られて悦ぶし、自分からポケットに入っていくへ、ヘンタ、ごっほ、ゴホっ」
「部長、大丈夫ですか? お茶に咽せちゃった感じですか?……ワタルならあゆみも賛成です。でも、ワタルをどう文房具化するんですか? 身長10センチなのはいいけど、小太りだからペンとしては握りずらいって思います」
小さいオジさん、ワタルはピンク色のジャージに赤いエプロンをしたキモカワ系で売っている。あゆみちゃんの言う通り、小太りペンでは握りずらい。短足ではコンパスには不向きだ。
「あのバーコード頭を利用して個人情報を消すローラースタンプなんてどうかな?」
「ダメですよ、部長。摩擦で加齢臭が臭いますよ、きっと」
「じゃ、キモカワを生かして尻の部分をシーリングスタンプヘッドにしようか」
「それもダメだと思います。シーリングワックスの熱さに悦ぶと思います。唇やお尻部分を鉛筆削りにするとかどうですか?」
「それが一番喜ぶやもしれん。臭くなったらそれ屁ですって歌うよな、きっと」
部長とあゆみちゃんの二人だけの企画会議が15分ほど経過。色んなアイデアを出し合い、ワタルが何の文房具になるかが決定した。それは有隣堂さんでも力を入れている商品である。
それは加齢臭も屁も気にしなくていいアイテム。ワタルの顔はそのまま、体型をスリムにしたガラスペンである。しかも蓄光ガラスペンである。
「では、ワタル君とあゆみちゃんで作戦会議をしてください。有隣堂の岡﨑さんとの【変な文房具対決】に勝つためにです。私はMCのブッコローに何か賄賂になるものを考えておきましょう。では健闘を祈ります」
あゆみちゃん、YouTubeに出るってよ!
この日、スモールG商事の社員食堂はその話題で持ちきりだった。あゆみちゃんは悪い気はしないと、ご飯少なめのカツ丼を食べていた。
つづく。
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