第6話 合流
姉ちゃんと俺はクァム島行の飛行機搭乗口近くの椅子に座っていた。姉ちゃんはSWでばあちゃんが送って着た写真と被災前に撮った写真を見ていた。
「司はこの調査が終わったらどうするつもり?」
「有人調査が始まったばかりだからまだ何とも…出来ればじいちゃんが言ってた期限いっぱいまで続けたいと思ってるけど。姉ちゃんは?」
「私?どうなっているか分からないけど元の家に行ってみたいな。それが叶ったら
実際調査はどこまでやるのだろう。自分もそろそろ考えておいた方がいいと思った。一度勇仁さんに会ったら聞いてみよう。
「…もう19年も経ったんだね。司、小さいころ島に帰るって
「…覚えてない。えっ?って言うか言い出したの姉ちゃんじゃなかったっけ?」
「え~司だよ。私覚えてるもん。絶対に司が言い出しっぺ。じゃあ…」
「おっ。やっぱりそうだ。お~い」
少し離れたところから聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り向くと先輩の源さんが手をふって歩いてきた。仕事で1度一緒になった事がある。
「源さんもひょっとして調査に参加するんですか?」
俺は立ち上がり手を振ると姉ちゃんは軽く会釈をした。源さんはそれに気が付くと誰なんだ?と目線で合図をおってくる。
「源さん、俺の姉ちゃんです。こっちは先輩の源さん」
「弟がいつもお世話になってます。姉の陽子です」
姉ちゃんは笑顔で源さんにお辞儀をした。
「お姉さんでしたか?はじめまして、
「私も医療班として同行するんです…って言ってもまだ研修医なんですけどね。司の先輩って事は、湯田さんも元防衛官なんですか?」
「はい、元防衛官って言っても僕は電気技術や工作技能がメインで…実際野蛮な事は苦手なんです。そう言えば勇仁さんが言ってたな。陽子さんいつも医者になるために頑張ってるって…とにかくご一緒出来て嬉しいです」
源さんは頭を掻きながら言った。二人とも明らかに取り繕っているので思わず笑いそうになった。二人はしばらく話していたが姉ちゃんが席を外した。
「お前の言った事と全然違うじゃねーかよ。しかも参加するなんて聞いてないぞ。付き合ってる人いるのかな?後で連絡先交換しようっと…なんか楽しくなってきた」
源さんは嬉しそうな顔で俺に聞いてきた。
「俺も実家帰るまで知らなかったんですよ。彼氏とかそれっぽい事聞いた事ないけど…止めておいた方がいいと思いますよ」
「なんで?なんでなんだよ?」
「その…
「何の話をしてるの?」
誤魔化そうと慌てているとクァム行の搭乗アナウンスが聞こえてきたので二人を
クァム空港に到着後俺たちは迎えに来ていた専用のバスにのった。同じ便で来た人が結構いるんだなっと思った。おそらく研究員だろう。バスが走り出して少しするとSWがなった。情報漏洩のためこの手の案件は情報を小出しにしてくる。内容を確認しているうちにバスは合衆国軍基地の隣にある施設で停車した。
施設のエントランスに行くと空港の手荷物検査に似たゲートが見える。受付でチェックインの手続きを行うと支給されていたSWを係の人に渡す。多分個別スケジュールを入れているのだろう。その間に荷物検査、ボディチェックを受ける。何も問題ないのでSWを戻されてゲートを通過した。
「ここからは私がご案内します。詳細はディスプレイをご覧下さい」
ササエルが言ってきたので三人でSWを確認した。
「私あっちの方なので、ここで失礼しますね」
姉ちゃんはそう言うと行ってしまった。二人でササエルの案内通り部屋へ向かう。途中ほかの部屋の引戸が空いていたので中を覗いてみる。部屋の作りは赴任先の施設に似ている。病院の大部屋に間仕切り袖壁とカーテンがついているものだった。
「俺ここの部屋だ。司は?」
「俺はもう1つ先の部屋ですね。じゃあまた後で」
源さんと別れると1つ先の部屋の前に向かった。引戸が空いている。入り口のネームプレートに4人の名前が記載されている。知ってる名前があった。中を覗き込みながら入り口枠をノックするが返答がない。まだ誰も来ていなかった。
部屋に入ると間仕切りに自分の名前を見つけたので荷物をベッドの上に置く。小さい机と暗証番号式のロッカーが一緒になった物が置かれている。部屋に唯一ある窓を開け入り口の扉開けて換気をした後、とくに意味もなくベットの下を覗いた。
荷物をロッカーに入れると制服に着替えた。制服と言っても防衛官の様に帽子もなく。動きやすい
「ここだな。誰かいるか?」
聞き覚えのある声がする。声の方を見るとジョンが部屋に入ってきた。ジョンとは1回仕事で一緒になった事がある。もう一人は初対面だ。
「あれ?ジョン。海外での仕事はもうしないって言ってなかった?」
「そのつもりだったんだけどな…ルーシーの学費が思ったより掛かるんでもうちょっとな」
ジョンは頭をかきながら言った。
「ルーシー大学生になるんだっけ?ホリーさんは元気にしてる?」
「みんな元気だ。今度遊びに来いよ。二人とも喜ぶぞ」
ジョンは笑いながら俺の肩を軽く
「カドリ、司だ。研修でアメルカに来てたとき家で面倒見てた時期があってな。こっちはカドリだ。二人とも…」
話の途中でノックの音が聞こえると入り口に人影が見えた。
「なんだ。カドリじゃねーか。久しぶりだな。あとの二人は…初めてだな。ルーカス・シルヴァだ。よろしく」
ジョンはルーカスの“き章”を見ると喋りだした。
「メンバーがそろったみたいだな。ルーカス。ジョン・マクレガーだ。よろしく」
二人は握手を交わすと俺とカドリの方を見て自己紹介を
「俺はカドリ・ウスマンだ。おっと俺を
「こちらこそ、司 星守だ。よろしくカドリ」
カドリは俺と握手をするとルーカスの方を向いた。
「ヘイ。アミーゴお前の番だぜ」
「よろしく。司、
ルーカスは俺の“き章”を確認すると手を差し出す。多分今回の調査で俺が一番階級が低いだろうと思った。気にせず握手をした。
「まもなく全体ミーティングが始まります。制服に着替えて指示に従ってください」
ジョンのSWからアナウンスが聞こえたので全員で部屋を出た。
ミーティング会場に入ると各セクションごとに名札が付いたテーブルが見える。テーブルの数から計算すると40人位は参加するんだろうと思った。ジョンは“調査隊D(デルタ)チーム”と書いてあるテーブルを指さし座った。全員それに
少しすると勇仁さんと数名が入ってきて入り口の扉をしめた。全体ミーティングは隊長の勇仁さんの挨拶から始まった。ついで各セクションの紹介、大まかな島の状況・調査の流れと続いた。最後にエイデン・ヒューナレッジがオンラインで挨拶をした。画面越しでしか見たことがないが人形の様に見える。
ミーティングが終わると食堂で懇親会が行われた。ここも各セクションごとのテーブルが用意されており料理はビュッフェスタイルだった。全員席に着くと島津隊長補佐が音頭を取り懇親会が始まった。
遠くの方に姉ちゃんと源さんが話しているのが見えた。
「結構色んな料理があるな。勇仁のヤツ気が利いてるな」
ジョンはそう言いながら料理を取りに行ったので俺も後に続いた。勇仁さんに挨拶をしようと思って会場内を探した。途中姉ちゃんと源さんにも聞いてみたが見あたらなかった。仕方なく料理を取って席に戻るとジョンとカドリが座っていた。
「ジョン、カドリ。勇仁さん見なかった?」
ジョンはカドリの顔をみるとカドリは首を振った。ジョンは肩を
「見てないな。責任者だから色々忙しいんだろう。でもよかったな。念願がかなって、19年ぶりの帰郷だろ?」
「うん。でも正直実感わかなくて…なんて言うのかな。いまいちピンとこなくて…」
「おいおい頼むぜ。ま~でもあんまり深く考えるな」
実感がわかないのは初めての事で想像できないからだと思うことにした。カドリはうんうんと
「それよりさアルファとブラボー(AとBチーム)って本部(USA)のBS部隊の連中だろ?エリート気取りで感じ悪いよな」
「なに?BSって?」
「なんだよ。司、知らないのかよ。まぁ結構昔の話だからな。BSって言うのはボトムレススワンプ(底なし沼)の略でアメルカ海軍特殊部隊を退役したギデオン プリンスとサムソン プリンス兄弟が設立した荒事専門のPMCの事だよ。
でもその後不祥事を起こしてヒューナレッジ社に買収されて…言わば3SKディフェンスの前身みたいなヤツなんだよ。
買収後も部隊って形で存続してるんだけど、何かと首突っ込んできて手柄を横取りしようとしやがる。周りからはハイエナ部隊って呼ばれてる嫌な奴らだよ。
ブラボーの一番若い奴みろよ。二人の甥のサムエル プリンスだ。司と年齢近いんじゃないか?お前何かあっても負けるなよ」
「おいおい、カドリ。その辺にしておけよ。もう済んだ事気にするな。ほれ見ろ、司も困ってるじゃないか」
ジョンがカドリを
「何の話しで盛り上がってるんだ?」
「ルーカス、急に居なくなってどこ行ってたんだよ」
「わりぃわりぃ知り合いが居たんで話こんじゃってよ」
こうして人が集まるのを見ると少し実感が沸いた気がしてきた。
勇仁は懇親会に参加せず自室に戻っていた。エイデンと話すためだ。指定された時間5秒前にSWのディスプレイを開き専用回線にアクセスする。
「忙しいところすまないね。
「世界市民連合所属の環境保護団体クリーンピースがクァム入りしたと報告を受けています。明日あたりから抗議活動が行われると思われます。
他の団体も集まって来ており、調査出港の際にも海上抗議してくると予想しています。メディアも来ている様で、数社から取材依頼がありましたが今のところは断っています。
抗議についてですが、状況によってはギデオン部隊長の協力を
「結構、ギデオンには伝えておきましょう。他には?」
エイデンは穏やかな口調で答えた。相変わらず表情から感情が読み取りにくい。
「リアルタイムで運航状況は確認していますが、ホライゾン(多目的輸送艦)と護衛のキマイラ(モジュール兵器組み換え型巡洋艦)から何か連絡は受けていますか?」
「ギデオンからは特に何も、問題があればすぐに連絡させます」
「…わかりました。私からの報告は以上になります」
「期待していますよ」
勇仁は通信が切れるのを確認してからディスプレイを閉じた。深呼吸すると椅子の背もたれに体を預けた。
同時刻、北大平洋上 護衛艦キマイラ管内。
「エイデン様から通信が入っています」
SWが通知を知らせるとギデオンは急いで自室に戻った。
「お呼びでしょうかエイデン様、何かトラブルでも…それとも優等生の星守隊長が何かやらかしましたか?」
「いえ、彼に任せておけば問題ないでしょう。船の状況は?」
「全て順調です。エイデン様と星守隊長の要望通りの装備で現在、北大平洋上を予定通りの進路で航行中。明朝にはクァムに到着します。
しっかしまどろっこしくて一々面倒ですな。なぜ星守隊長の調査案にのったのです?我々が主導で行えば…」
「八岐島は日本の領土です。この形が一番望ましいでしょう。過程によって結果は変わるものです。私はそれに期待しています。
それから星守隊長からクァム到着後、要請があれば指示に従って下さい。会話内容の記録を確認して下さい」
ギデオンは一瞬ムッとした顔をしたが、すぐに表情を戻すとエイデンと勇仁の会話記録をSW上で確認した。
「承知しました。“要請が”あれば即対応致します。会話記録の海上抗議はよくやっても放水程度でしょうな。ですが万が一の場合は日本用のササエル衛星の使用許可を頂きたいのですが…」
「もちろんです。必要な時には申請して下さい。では頼みましたよ」
通信を終えたギデオンは弟のサムソンを自室に呼び出した。
「どうしたんだい兄貴?」
「兄貴じゃない。隊長だ。何度言ったらわかる。まあいい。クァムに着いたら星守から応援要請があるかもしれん。その時はお前が対応しろ」
サムソンは何か言いたそうな様子だった。見越したギデオンは先に口を開いた。
「これは命令だ。いいなっ」
サムソンは苦虫を噛み潰した様な顔をして部屋を出ていった。
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