第28話 7月
海、レンタルビデオ店、マンション、ひと通り見たかったものは見れた。
それにしても小さな町。
麻衣は再度町をひとまわりした後、海に戻り、浜辺を囲む石段に腰をかけた。海を眺めながらスマホを操作した。
時間が過ぎた。スマホの電池が切れそうになった。
麻衣は怖くなった。こんな小さな町で電池が切れたら奈菜架に連絡が取れないし、家に帰れないかもと思った。
麻衣はただ海を眺めた。涼やかのある真夏の前の海を。
麻衣は40分も前に、奈菜架との待ち合わせの和食店の駐車場に立っていた。
時間になった。しかし、
奈菜架の運転する車は現れなかった。
麻衣は、じっと嫌な汗をかいた。
6時から20分を過ぎた。奈菜架の運転する車が国道の北から現れた。
「奈菜架ちゃん!」
「おまたせー、やっほ」
「奈菜架ちゃん、遅いよー!、来ないかと思ったよ!」
奈菜架は、麻衣を車に乗せ、L町を出発した。
「疲れたよー、奈菜架ちゃんー」
「どうしたの麻衣ちゃん?、なにかしていたの?」
「なにもしていないよ、L町ってなにもないんだね、なにもすることもなくて」
「だから言ったじゃん、L町ってなにもないって」
「することがないから、ずっとスマホさわってた、でも電池がなくなって帰れなくなるかもって怖くなった」
「そうなんだ」
「こんなところに住んでいる人って、普段なにしているのかな?」
「なければないで、なんとでもなるよ」
「そうなの?、奈菜架ちゃんはS市生まれだから街の生まれだよね?」
「いや、わたし小学校まではJ高原の別荘に住んでいたの」
「え?、じゃ、別荘の近くの小学校に通っていたの?」
「そうだよ」
「じゃ、別荘の近くには同級生が今も住んでいるの?」
「そうかもしれない」
「ふーん、別荘はすごくいいところだけど、ずっと住むのは無理かな」
「なにそれ?、ひどいよ」
「ごめん、奈菜架ちゃん、ごめんごめん」
「いいよ別に」
「だって奈菜架ちゃん、、ここって、することがない」
「ぼーっと海を見ていればいいんだよ」
「その時間もったいなくない?」
「その考え、麻衣ちゃんのほうがおかしいよ、そんな風に考えないの」
「そうなんだ」
奈菜架の運転する車はカーブを曲がり、東へ。
「ね、麻衣ちゃん、この先に日帰りでは入れる温泉があるんだ、温泉に入らない?、その後は鮎の釜飯が食べれるところに行こうよ」
「いいね、そうしよっか」麻衣は笑顔で答えた。
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