第22話 6月



 悠理は手荷物だけでL荘をチェックアウトした。

 年配のホテルマンから丁寧に挨拶され、悠理はL荘を後にした。


 悠理はZ海バスの切符売り場に向かい、切符売り場で若い女性の職員から駅行きの切符を購入した。若い女性の職員はマスクを外していた。


 悠理はバスに乗ったが、それはD駅行きではなく、R温泉・S見温泉に行きのバスに乗った。

 

 バスは雨上がりの快晴の海岸線を走り、R温泉、U部を過ぎ、バスは、S見温泉についた。

 悠理はバスを降りて、S見海岸から海を眺めた。

 

 悠理はもう一度、その場所を訪れた。

 L町の人間なら誰もが知る場所。北と西と南、空と海がひとつに溶け合う場所を。

 悠理はその場所で夏の前の爽快な風を感じ、その場所を後にした。

 


 悠理は思わずK見温泉で時間を過ごしすぎてしまった。D駅行きのバスはなくなってしまった。

 悠理はD駅には行かず、H田市行きのバスに直接乗った。


 D駅行きのバスは、乗客が0人であることも考えられるが悠理が買った切符のその行方を、おそらく誰も気に留めないであろう。それは悠理がそのことを一番よくわかっていた。

 悠理はH田市行きのバスの中で、健やかなる、深い、眠りに落ちた。

 






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