第17話 2月



 ドラマの第一話から最終話まで観るマラソン鑑賞は、数年前、このL町が舞台になった作品「愛を叫んで」を悠理が選んだ。

 

「悠理さん、これL町なの?」望美が言った。

「そうよ」悠理は言った。

「弘田さん、わたしたちが小学生の時、L高校で撮影があったの聞いたことがあるよ」 

 早紀が言った。


 悠理は缶カクテルを飲みながらドラマを観た。

 サクタが「俺なんでもしますから、俺なんでも!」とアミの母親に会わせてくれるよう頼んだ場面、アミの母親が「娘は治らない病気なの!、なにをしても治らないの!」と叫んだ場面で眠りに落ちた。


 悠理は第6話が終わったところで望美と早紀に起こされた。

「悠理さん、もー!」望美が言った。

「悠理さん、第6話もう一度観ます?」早紀が言った。

「大丈夫よ、わたし昔観たことあるから」悠理は言った。

 

 悠理たちは、夕食の買出しを兼ねてL港を散歩することにした。わざわざ、遠回りしてもうひとつのコンビニでお弁当を買い、L丁橋を渡って、堤防の方へと歩いた。

 悠理たちが漁協の直売所を過ぎて歩くと旧ボートクラブの建物が見えた。

「それで、ここに「愛を叫んで」って書いてあるんだ」望美が言った。

「SAKUTA・AMIって書いてあるよ!」早紀が言った。

 悠理たちは堤防の上を歩き、その先のL荘を眺めた。ちょうど夕陽が海を輝かせる美しい時間だった。


 悠理たちがL港の堤防でゆっくりし過ぎたせいで、

 鑑賞会は終わりの時間が深夜になることが決まってしまった。

「早紀さん大丈夫?、お母さんに言っておいた方がいいんじゃない?」悠理が言った。

「大丈夫です、ちょっと遅れるだけですから」早紀は言った。

 

 最終話が終わり、鑑賞会は終わった。

 早紀は急いで帰り支度をし、望美がついて行った。

「早紀さんごめんね、なんか遅くなっちゃって」悠理は謝った。

「いいですよ、すごく楽しかったし!」早紀は言った。

「橋本さん、わたし橋本さんの家に一緒に行くよ、それならお母さんも怒らないでしょ?」

 望美が言った。

「ありがとう弘田さん!」早紀は言った。

 

 望美と早紀は、悠理にさよならを言った後、暗い夜道を自転車で駆けて行った。

 

 

 バレンタインデー。塾帰りの早紀がお店にやって来た。

 早紀は「24」を借りた。

「早紀さん、いいの?、これ早紀さんが観るようなドラマじゃないよ」悠理は言った。

「大丈夫です、弘田さんが好きなドラマだからわたしも観ようかなと思って」早紀は言った。

「早紀さん、これお店から」悠理は小さなチョコレートを渡した。

「ありがとうございます!」早紀は喜んだ。すぐその後に自分の学校カバンを開け、チョコレートを取り出し、悠理に渡した。「悠理さん、これどうぞ」

「いいの?、ありがとう」悠里は喜んだ。

「悠理さん、これ見てください」早紀は自分のスマートフォンの中の写真を見せた。

 それは、旧ボートクラブの建物の上に上り、腰かけた望美と早紀が写っていた。

「これどうしたの?」悠里は聞いた。

「あの日の次の日の朝、弘田さんともう一回あの場所に行ったんです」早紀は言った。

「そうなんだ」悠理は言った。

「写真はそこにいた漁師さんに頼んだんです!」早紀は楽しそうに言った。





 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る