第16話 2月
その頃、店には昼過ぎは望美が遊びに来て、夜遅くには塾帰りの早紀が来るようになっていた。偶然にも二人が一緒することはなかった。
「ね、望美、L町の子って、バレンタインのチョコレートはどこで買うの?、マックスバリュ?」
「だいたいみんなそうかな、こだわる子はH田やQ海まで買いにいくね」望美は言った。
「あなたはどうするの?」悠理は言った。
「わたしの分、橋本さんに頼んでるよ、塾の行きか帰りに買いに行くんだって」望美は言った。
「いつの間にか仲良くなったのね」悠理は言った。
「別に仲良くないよ、この前体育の授業でソフトボールだったの、橋本さんが9番でわたしが1番だったからそのとき話した」望美は言った。
「そうなんだ」悠理は言った。
「悠理さんの分も頼んであげよっか?」望美は言った。
「いいですよ、別に」悠理は言った。
そこに早紀が笑顔で現れた。「弘田さん、いたんだ」早紀は言った。
「うん」望美は言った。
「今日は塾休みなんだ」早紀は言った。
「悠理さん、弘田さんはどんな映画観るんですか?」早紀は悠理を見て言った。
「この子単純ですよ、『タイタニック』と『24』が好きなの」悠理は言った。
「そうなんだ、わたしも『タイタニック』大好き」
「レオナルドがかっこいいよね」
「うん、昔のレオナルド・ディカプリオかっこいい」
「じゃ、『24』いいよ、橋本さん」
「『24』。。。」
悠理は言った。「橋本さんに『24』は合わないわよ」
「そう?、『24』いいよ、うちのお兄ちゃんも大好き、この前、お兄ちゃんと一緒に『24』を24時間で観たんだ」望美は言った。
「え?、寝ないで観るの?」悠理は言った。
「基本は寝ないんだけど深夜三時くらいになると寝ちゃうので、寝てからまた起きて、また途中から見直すの」望美は言った。
「すごいよ、ジャック・バウワーがずーっと怒ってるの」望美は言った。
「ばかなことしてるね」悠理は言った。
「お兄ちゃんがそうやって観るのが好きなんだよ、ビール飲みながら」望美は言った。
「それならいいかも」悠理は言った。
「ね、橋本さんも一緒に観ない『24』?」望美は言った。
「でも24時間だったら泊まりになっちゃう・・」
「テレビドラマはどうかな?、10話くらいでしょ」悠理は言った。
「じゃ、悠理さんなにか選んでよ、一緒に観ようよ」望美は言った。
「え!?、悠理さんも一緒!」早紀は言った。
「あなたの家ってビール飲むようなお兄さんがいるんでしょ?、ダメ」悠理は言った。
「じゃ、悠理さんのところは?、ひとり暮らしなんでしょ?」望美は言った。
「わたしのマンション?、別にいいけど」悠理は言った。
「じゃ、決まりですよね!、悠理さんのマンションで!!」早紀は声を大きく言った。
悠理はなにかおかしいかなと思ったが深く考えるのはやめた。
土曜日、悠理はのそのそと待ち合わせのZ海バスの切符売り場に歩いていくと、望美と早紀が自転車と一緒に笑顔で待っていた。悠理はその笑顔が眩しく、思わず顔を下に向けた。
コンビニでお菓子を買った後、三人は悠理のマンションに移動した。
望美と早紀はずっと含み笑いで自転車を押して歩いた。
悠理のマンションに着くと、望美は部屋をじろじろ見てなにかと触ったが、とくに男性の影がないことがわかると素直におとなしくした。
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