第15話 2月



 2月。幸子がバレンタインデー向けの企画があると悠理に話した。

 来店して、本を購入・レンタルDVDを借りていただいたお客様全員に、小さなチョコレートをプレゼントするというものだった。

「そんなこと毎年やっているんですか?」悠理は言った。

「いや、今年は悠理さんがいるからやってみようって話になってる」幸子は言った。

「なんですかそれ」悠理は言った。

「そうしておいて自分たちがお客でやって来て悠理さんからチョコレート欲しいんじゃない?」

 幸子は言った。

「ええー・・」

「ね、気になる人はいないの?」幸子は聞いた。

「いませんよ」悠理は言った。「そんなのやめましょうよ、やるならあそこの棚撤去してください」

「またー」幸子は言った。

「だって、あの棚の周りくさくて嫌なんですよ」悠理は言った。

「そんなことを言うとまた社内会議で『悠理さんはL町の文化を葬ろうとしている!』とか言われるよ」

 幸子は言った。悠理の参加しない飲み会で一番の話題だと。「『悠理さんは古式ゆかしい漁師さんや猟師さんの唯一の喜びを奪う気だ!』」と。

「勝手に人のこと好き放題言ってるそうですね」悠理は言った。

「ねえ」幸子は笑って言った。

「なんであそこの棚撤去しないんですか?、ああいうのってみんな今ネットで見るんですよね?」

 悠理は言った。

「でもね、昔はあの棚が4棚あって、それがすごく儲かったのよ」幸子は言った。

「そうなんですか?」悠理は言った。

「昔は普通の映画も儲かって、新作はだいたい1ヶ月は1日500円で借りらっれぱなし、仕入れが1本5000円くらいだから普通の映画だけで70万は儲かったのよ」

 幸子は言った。

 「それで、あそこの棚だけでさらに月100万は儲かったの」

 「そうなんですか?」悠理は言った。

 「映画と違って、毎日同じ人が別のものを借りるからね」幸子は言った。

 「でも、なんで毎日同じ人が別のものを借りるんですかね?」悠理は言った。

 幸子は笑って言った。「ね、それわかって聞いてるでしょ?」

 

  





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